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ななしのワーズワード  作者: 奈久遠
Ep.8 狐の嫁入り
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Lycanthropes Liberation 03

 ルルシスの光国アロニア極秘訪問――それは勿論『例の問題』について会話するためである。

 都市の構造と同じく、天空宮の中には王族以外誰もその存在を知らぬ隠し部屋が幾つも存在している。

 途中でシノンと別れ、そんな秘密の部屋の一つに案内されたルルシス一行はやっとそこでフードを脱ぎ捨てた。

 室内には既に全ての参加者が揃っていた。

 

「『北の聖国ラ・ウルターヴ』よりルアン公爵ルルシス・トリエ・ルアン様をお連れいたしました」

「待っていたぞ、聖国の軍姫いくさひめ。此度の会談、やっと俺の紗群アルマとなることを決意したと受け取ってよいのであろうな」

 

 ルルシスを指して、いきなり無遠慮な言葉を投げかけたのは『東の皇国ニ・ルーワス』の若き魔皇・ゼファー・ギーヴ・ドルク・ルーワスだった。

 『魔皇ゼファー』は今年で三〇歳。一国を治めるには若すぎる年齢とも思われる。香料を加えた紫海蝋ガイナックスで紫紺の髪を固め上にあげており、見るからにトゲトゲしい存在感を放っていた。

 ルルシスが無言のまま氷点下(に思える)視線でゼファーを刺すが、彼はそれすらも楽しむような強い笑みを見せた。


「ほっほ。東の魔皇様は相変わらずでございますな」

「バルハスのジジイか。貴様もルルシスと共に早く俺の許に来い。貴様たち二人が加われば、俺はより最強になる」

「ルルシス様に求められているのはそのいくさの才のみであると?」

「バカをいうな。一番欲しいのはあの男殺しの肉体に決まっている。だが、以前それを褒めた時には頬をはたかれているからな。攻略するのに一度失敗した手を繰り返すなど愚将の行いであろう?」

「ほっほっほ」


 ルルシスに次いでフードを外した人物。それはラスケイオン群兜マータ・ミゴット・ワナン・バルハスであった。

 見事な白鬚を一撫でし、柔和な笑みを見せた。

 外交を司るルルシスと行動を共にすることの多いミゴットは過去何度も魔皇と相まみえている。

 言葉遣いは乱暴であるが、魔皇もミゴットとの会話を楽しんでいるように見えた。


 そして最後である三人目の人物――フードの中から現れたのは、ゼファーより更に若い男であった。

 

「ほう、その顔。貴様が『天才』ウォルレイン・ストラウフトか。会うのは初めてだが、なんとも若い男ではないか」


 ウォルレイン・ストラウフト。

 

 それは聖国の誇る帝宮最高魔法師の名である。帝宮最高魔法師とは聖国最強の魔法使いの称号であると同時に聖国最高の頭脳の称号でもある。

 皇帝の相談役であるウォルレインは直接国家を運営する宰相職とは違うが、皇帝から直接相談を受け、意見を言える立場にある。もちろん皇帝の身を護ることが最大の職務であるため魔法の才が最重要ではあるが、それだけでは皇帝の側仕えはこなせないのだ。

 ウォルレイン・ストラウフトは魔皇の呼びかけに今気づいたかのようなワンテンポ遅れた反応を返した。

 

「あ、僕ですか? どうもはじめまして、皇国の魔皇様ですね」


 そして、頭を掻く仕草。なんとも凡庸な印象を拭えない受け答えである。これが『百年に一人の天才』と呼ばれる人間だとは到底信じられない。

 ルルシスよりも低い背丈でこの世界では珍しい『メガネ』をかけている。耳の長さも自慢できる長さではなく、やや猫背な立ち姿も野暮ったい。

 魔皇はやや興ざめたように鼻を鳴らした。

 

「なんだ、あまり話して面白い男ではなさそうだな。だが俺は見た目で人を判断せぬ。判断すべきはその者の実績のみだ。その点、貴様の噂は我がルーワスまで聞こえている。どうだウォルレイン・ストラウフト、聖国を捨てて俺のところに来ぬか? 待遇は思いのままぞ」

「はあ」

「魔皇」


 と、そこでルルシスが口を挟んだ。

 

「さすがにこれは見過ごしてくれぬか。許せ、戯言よ。今アルテネギスと本気でやりあうつもりはない――」


 皇帝直系の『ルアン公』を前に、聖国要人への無遠慮な勧誘。そのどこまでが戯言でどこまでが本気であるのか。

 ワーズワードとはまた別の意味で常識では捉えきれない人物、それがゼファー・ギーヴ・ドルク・ルーワスという男であった。


「――その前に借りを返しておかねばならぬ相手がおるからな」


 最後の魔皇の呟きが緩んでいた空気を一気に引き締めた。


 聖国の三人が円卓につく。光国側二名、聖国側三名、そして皇国は魔皇一名のみではあるが、こうして四大紗国――そのうちの三国――の頂点に位置する人物が一堂に会す密会など、歴史上類を見なかった。

 それほど重要な問題をこれから話し合わねばならない。

 

「ミゴット」

「はい。光王サンハイム様、ミハイル王子。魔皇ゼファー様。此度は我が国の呼びかけに応えて頂いたこと、深く感謝申し上げます」


 まずはこの密談を呼びかけた聖国ルルシス(口を動かすのはミゴット)の挨拶から話は始まった。

 光国にとってルルシスとミゴットの名は決して手放しで歓迎できない過去もあるが、感情だけで物事を量るような政治弱者はこの室内には存在しない。


「今更確認する必要もございませぬが、昨今の法国の動きは目に余るものがありますな」

「ふぉふぉ。それについてはそこな魔皇が一番理解しておられような」

「ふん、いっておくが我が皇国が弱兵なのではない。あの新王が化け物なのだ。断言するぞ、アレを倒せる人間はこの世界には存在せぬ。たとえ、そこなウォルレイン・ストラウフトでもな」

「ではこのまま法国の横暴を見過ごされますかな?」

「それしかあるまい」

森珠国ドラキアの惨事をしってなお、そう言われるか魔皇。いつ我らの国も同じ目にあわされるかわからぬというのに!」


 亡国の悲哀を義憤に変えたミハイルが反論する。

 魔皇が笑う。


「青いな、光国の王子。怒りをみせたところで勝てぬものは勝てぬ。だが、勘違いするな。俺は敗北を認めたわけではない。今はどうしようもない。だが、最終的に勝つのは俺だ。そのための武器を俺は持っている」


 どうしようもないと言い切ったあとに、アルカンエイクに勝てる武器があるという魔皇。その自信に満ちた言い切りは決してブラフではあるまい。


「どういう意味か」

「どれほどの化け物であろうと奴も人間だということだ。奴はあと何年生きる? 三〇年か。四〇年か。いや魔法の力で五〇年生きるか。皇国を蹂躙したければやればよい。だが、その間、俺は必ず生き残る。そして奴が死んだ後に全てを取り戻す。俺のこの『若さ』こそが奴を殺す最大の武器よ」

「な……っ」


 それはおよそ常人の発想ではなかった。

 さすがのミハイルも言葉を失い、呆然と魔皇を見る。事実この世界の人間がアルカンエイクを倒すことはできないだろう。源素を視認する特殊な能力と地球においてすら世界最高と言われる知識の持ち主であるあの『ファーストエネミー』アルカンエイクを。

 

 いや、ここで驚愕すべきはゼファーの方か。

 アルカンエイクについて魔皇の知り得る情報はワーズワードのそれよりはるかに少なく薄いだろう。だというのに、かの魔人の理解と彼我の戦力分析がどこまでも正確だ。

 つまり、ゼファーは知識ではなく本能で相手を理解するタイプの王だということだ。

 そして絶対に勝てぬと理解した上でなお、一歩も引かぬ魂の強さがある。

 人生のすべてをかけた勝負を本気で考えている。

 ――その覚悟、決して軽くない。


 その沈黙を破ったのはルルシスだった。


「魔皇とミハイル殿、どちらも正しい。法王は無敵、だが放置できぬ。我に策がある」

「さて。おおまかは聞いておるが、どこまでうまくいくものか」

「……改めてうかがわせていただけますか。ルアン公」

「ミゴット」

「はい。では、この老いぼれから説明させて頂きましょうかな」


 ルルシスの指示を受け、ミゴットが説明を開始する。

 それはワーズワードが描いてみせた獣人解放と法国内乱の図式である。

 獣人解放という表向きの人権運動を支援する一方で法国の内乱を助長し、最終的には国際的な連携をもって法国の動きを封じ込めるというその道筋。

 そのために必要な各国の支援とその具体策に至るまで――

 あえてワーズワードの名を出していないのは意図したものだろうか。

 質疑があり課題もみえ、二時間を超える時間を経過した後、会議はやっと一息をついた。


「まるで未来を見てきたような深きはかりごと。そこまでお考えの上で動かれるか。聖国には人材がおる。ふぉふぉ、少々羨ましいわい」

「お父上!」

「俺は気に入ったぞ。捉えようによっては獣人解放すらも表ではなく裏の理由で、真なる目的はただ法王個人への嫌がらせであるようにも思われる、そんな俺好みのいやらしい策だ。だがこれはルルシスの策ではあるまい。となれば、なるほど……そういうことか」

「あ、僕がなにか?」

「魔皇、法王個人への嫌がらせだなどと、それは少々穿ち過ぎた見方では? 法国の脅威は別にしても獣人奴隸の解放は正しき道。我らは正道を歩めば良いのです。その威光をもって、真正面から堂々を法国を非難すればよい」


 受けとりようは様々だ。だが、獣人解放を裏から支援し法国国内の混乱を広げることで、周辺諸国に軍を差し向ける余裕がなくなることは事実。

 国の運営に関わらないアルカンエイクの弱みがそこにある。


「話はまとまったようじゃな。ルルシス殿の提案には頷く価値がある。光王の名において、我がアロニアは全面的な協力を約束しよう。よいな、ミハイル」

「はっ! このミハイル・セドル・アロニア、一身をかけまして」


 このように善良なミハイル王子であるからこそ、シノンという至宝を手に入れることができたのかもしれない。

 一方の魔皇は邪悪な笑みを浮かべていた。


「俺も異存はない。……さて、とはいえ、これは聖国の言い出した策だ。それに協力してやるからには聖国は俺にどのような見返りを与えてくれるのか」

「魔皇、これは聖国だけでなく皇国にも益のある話ではありませんか。いや、むしろあなたの国こそが一番の益を享けるはずだ。それを見返りだなどと」

「そう思うのであれば、貴様たちだけでやればよいではないか。俺は別にどうしてもやってやりたいというわけじゃない」

 

 魔皇とて、この策に乗ることの益は十分理解しているだろう。だが、それ以上に聖国からなにかを引き出そうというのだ。

 もし皇国がこの輪に加わらねば、法国を囲む包囲網は大きく破綻してしまう。

 それではせっかくのルルシス(ワーズワード)の策も最大限の効果を得られない。

 さすが魔皇、痛いところをついてくる。だが、悪辣とは言うまい。これが外交――国同士の駆け引きというものだ。


「ちなみに、俺が協力する条件はお前自身だ、ルルシス。皇国へこい。この俺を群兜として、一生の誓いを捧げよ。それ以外の条件は一切呑まぬ」

「なっ!」


 魔皇の考えは最初からそれだけだったのだ。戯言などとんでもない。欲しいものは必ず手に入れる。それが魔皇ゼファーという男である。

 だが――


「ほっほ。これは困りましたな」

「やはりこう来ましたね」

「ですな。魔皇ゼファー様、此度の件への見返りということでしたな。もちろんご用意しております」

「む」


 そんな無茶な要求をミゴットは変わらぬ柔和な笑みで受け止める。

 元より表情を変えぬ鉄仮面ルルシスは別として、ウォルレインですら、何の驚きも見せない。

 そんな聖国勢の様子にゼファーは読まれていたか、という思いを押し殺しつつ、念押しを口にした。

 

「……それは、準備の良いことだ。だが俺は言ったぞ。ルルシス以外の条件は呑まぬと」

「そう意固地になるのは、我らの持参した手土産を見てからでも遅くはありますまいな。――ウォルレイン殿」

「あ、はい。では、お出しします」


 それまで置物のように静かにしていたウォルレインが立ち上がる。

 そして、ペコリと一つ頭を下げると、両の手をパンと一つ叩いた。と、卓上に緑がかった魔法の発動光が輝き、次の瞬間にはそこに今まで存在しなかったいくつかの品物が現れたではないか。

 それにはさすがの魔皇も光王も目を見張る。

 

「【プレイル/祈祷】なく魔法を【コール/詠唱】する――それも完全なる無音詠唱だと」

「すいません。すぐにお出しした方が良いかと思いまして」

「信じられぬ。これが『天才』ウォルレイン・ストラウフト殿の力か……」


 魔法の無音詠唱が可能であることはワーズワードが証明している。だがそれは、源素の見える地球からの転移者だけに可能な技術であったはずだ。それをウォルレイン・ストラウフトは目の前で覆してみせた。


 だが、驚くべき事態はそれだけに留まらない。むしろ、ここからが本番であった。

 卓上に現れたもの、その一つは落ちる水滴をイメージしたガラス製器具であり、もう一つは薄くしぼんだ革製の水筒だった。

 それが光王側と魔皇側に一組ずつ。


「ご説明しましょう、お手元にお出ししましたうち、革製の水筒は【ウォーターフォウル・ボトル/降鵜水筒】というものでしてな」

「【降鵜水筒】……」

「今はその通り空の水筒でございます。それを手に取り、口紐をゆるめてみてくだされ」


 促されるがまま水筒を操るミハイル。緩んだ水筒の口から流れ出してきた冷たい水が王子の手を濡らした。

 

「何もない水筒から水が!? これはまさか――ッ」

「次のガラス製のものは【フォックスライト/狐光灯】という照明器具ですな。魔皇様、その一本浮いている金属の足を下げてみてくだされ」

「これが照明器具だと……まさか」


 さすがの魔皇も、うまい言葉が見つからない。言われたとおり、金属の足を動かすと、てこの原理でガラス器具の底に空いていた穴がふさがった。

 

 それがスイッチとなり雫型のドーム内に黄金色の暖かい輝きが生まれた。


「おおおッ! 間違いない、これは『マジック・アーティファクト』! まさか聖国は協力の見返りに貴重な『アーティファクト』を差し出すというのですか!?」


 これが密談だということも忘れて、ミハイルが叫ぶ。

 アーティファクトの中でも魔法の力が込められたマジック・アーティファクトは他国への持ち出しが厳重に管理される至高の品物だ。

 国同士の取引でその移動が全くないわけではないが、それでも今回の話の見返りにしては破格すぎる。


「まさにアーティファクト。いや、これは、違うのか……?」


 このように目を見張る魔皇の姿は誰も見たことがないだろう。

 ゼファーの呟きにルルシスが答える。


「気づいたか魔皇。そうだ、それはアーティファクトではない。魔法道具マジック・アイテムだ」

「魔法道具とはなんです。アーティファクトとは違うものなのですか!」

「わからぬか、ミハイル王子。アーティファクトであれば唯一無二。同じものはそうはない。だがここにあるものは、そちらとこちらで全く同じものではないか」

「あ――」

「そうだ。魔法道具はアーティファクトと異なり、人の手により製造されたもの」

「で、ではこの水の流れる水筒と魔法の輝きを放つ照明器具が……」

「ほっほ。我が国で量産可能というわけですな」


 これらの道具がどれだけの価値を持つのか、それを量産できるという言葉の重みはなにとであれば比較できるものか。

 それがわからぬ者はここにはいない。

 

 場合によっては今後聖国が法国以上の脅威に――


 そこで極めつけの一言をルルシスが発した。

 

「我に協力する国には、今後これら魔法道具の『輸出』を許可する」

 

 『輸出』という言葉の意味。その価値がわからぬ者もまたここにはいなかった。


「……どうか、魔皇。これでは不足か」


 美しい魔法の炎に照らされるゼファーが高らかな笑い声を上げた。


「くくく、はーっはっはっはっ! だから俺は貴様を諦められぬのだ。これで不足かだと? 十分すぎるわ。……よかろう、この魔皇ゼファー・ギーヴ・ドルク・ルーワスも全面的な協力行動を約束する。――ここに対『法王』ヴァンス包囲網の成立だ!」


 かくして、全てはワーズワードの思惑通りに進み、法国を囲む巨大な陣が完成したのであった。

 

 

 ◇◇◇



 全てが終了した後、ゼファーがルルシスのもとへとやってきた。


「見事な手際であったぞ、ルアン公。やはり貴様のいる聖国とはやりあいたくない」

「そうか」


 まるでつれない返答である。

 だが、0.1ミリ動いたその耳をワーズワードが見れば、なにか嬉しい事があったのかと、その感情を読み取っていたことだろう。

 ゼファーは少しの寂しさをその瞳に浮かべた後、改めてルルシスに迫った。


「やはり貴様は政治に絡めてどうにかしてよい女ではない。改めてこいねがおう。俺は一人の男としてお前が欲しい。お前のためであれば、俺の全てを差し出しても構わない。ルルシス。どうか、この俺のもとへ来てはくれぬか」


 それはいつもの自信にあふれた魔皇ではなかった。

 ルルシスの瞳をまっすぐに見て、真摯に己の思いを伝える。そこには誠実さだけがあった。

 ルルシスは一つまばたきをすると、やはりいつもの感情の乗らない冷静(に聞こえる)な口調で答えを返した。


「そなたの気持ちは嬉しく思う。だが、我はもうワーズワードというただ一人の群兜を得ている。そなたの誘いを受けることはできぬ」

「……ハ?」

「さらばだ、魔皇」

「ちょっと待て、お前ほどの女が誰ぞの紗群になったというのか! ワーズワード? それはどこの何者だ、オイ、その話もっと詳しく聞かせろッ」


 思いもよらぬ答えに慌てた魔皇がルルシスに追いすがる。

 だが、ルルシスは足を止めない。


「ウォルレイン」

「あ、はい。帰るのですね。いつでもいけます」

「待てと言っている!」

「慌てずとも、いずれそなたはワーズワードを知ることになる。いや、そなただけではない、世界の全ての者が知ることになろう。我のような非才にはもったいない、あの者の名を……それは世界を変える者の名だ」

「世界を変える者……だと――」

「すいません。もういいですか? 行きます――我が身を運べ【パルミスズ・エアセイル/風神天翔】」

 

 やはり【プレイル/祈祷】のないウォルレインの【コール/詠唱】が響き、三人の姿が虚空へと消える。

 一人残されたゼファーは、なんともいいようのない感情を抱えたまま、途方にくれるしかなかった。

 

「……ワーズワード。そのような名を持つ者の情報は入っておらんぞ! くそッ、諜報部の無能どもめ、国に帰ったら全員解雇してくれる!」


 そして、そんな魔皇の怒り――降って湧いたとばっちり――を受けるのは、ワーズワードとなんの縁もゆかりもない皇国ルーワスの諜報部員になるようだった。



 

 ……かくして魔皇の初恋は終わりを告げたのだ。

 


 

 そして、現在――



 ◇◇◇



 『南の法国』・とある街道沿いの宿営地

 

 ワーズワードは忙しかった。

 

「201、202、203、204……おっかさんのためなら、えーんやこーらー、おっとさんのためなら、えーんやこーらー……はっ、いかん、意識が異世界に飛んでいた。いや待て、ここが異世界なのだから、この場合意識は地球へ飛ぶことになるのではないか。となれば、この方法で地球への帰還が可能だという理論が成り立つ。意識だけなので肉体はこちらに捨てていくことになるが……うん、問題ない。そこで俺の構築した魂変換プログラム『ミーム・トランスレーター』の出番だ。肉体を持たない意識=魂を直接電子化してネット上の仮想体アバターに宿らせてやれば、一周回って当初の俺の目的通りだ。遠回りをした。長い道のりだった。でも俺の『計画』は失敗なんてしていなかったんだ。やったねワーズワードちゃん、大! 成! 功!」

「……うわぁ」


 たまたま傍を通りかかったパレイドパグが思わず引くほど、ワーズワードは壊れていた。

プロローグ長くてごめんねっ。次話からワーズワードさんのお話に戻ります。壊れてますが。


ここまで新しい名前がたくさんでてきましたが、特に(覚えておく必要は)ないです。

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