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ななしのワーズワード  作者: 奈久遠
Ep.7 黒い瞳のジュリエット
80/143

Jet-black Juliette 11

「あんなの初めてみた。すごかったわ」

「なかなか面白い魔法効果もあるものだな。よい買い物だった」


 拾い物のアーティファクト、新魔法の発動図形を一つ脳内データベースに納めた後、俺達は裏路地を後にした。次にあの場所を訪れた人間はそこで何があったのかと驚くかもしれないが、俺があそこにいたという痕跡は塵一片残していないので問題はなにもない。痕跡削除はハッカーの基本スキルだ。

 

「ワーズワード。あなたはどんな人なの?」

「俺が何者かと問われればハッカーだが。職業のことを聞いているなら商人だな」

「なぜ?」

「なぜといわれても、金を稼ぐ行為に理由などないぞ」

「そうではなくて。あなたのその力はもっと別のことに使われるべきものではないのかしら」

「何を指して別のことと言っているのかはしらんが、商売に俺の魔法能力は十分使われている。他ではまず不可能な魔法道具の販売という商売をしているしな」

「それだけ? いいえ、あなたはもっと大きなことをすべき人だわ。たとえば、英雄アルカンエイク王のような」


 ゴフッ。


「あら、どうしたの?」

「なんでもない。少しむせただけだ」


 唐突にアルカンエイクの名前が出るとか、それはむせるわ。

 英雄……聖国ウルターヴでは簒奪者の評判でもここ法国ヴァンスでの評判は悪くないらしい。

 その上、俺とアルカンエイクを重ね見るか。

 

「少し前にも同じような話を聞いたところだ。まったく、今日はそういう話を聞く日なのか」

「まあ。私以外にも同じことを思う方がいたのね」

「まとめて全部勘違いだけどな」


 聞き流す俺の言葉を聞いてか聞かずか、リゼルは軽快なステップでくるくると回ってみせる。なんというか、全身で自分がかわいい女性であることを表現しているようだ。

 と、そんなリゼルの胸元に緑の三角形、源素図形が突然現れた。

 あれは――

 そこからくるりともう一回転した後、ふわりと着地する。そのままスカートの裾を持ち上げ、頭を下げて一礼をしてみせた。

 

「あなたに会えて良かった。でもごめんなさい、今日はこれで失礼するわ。また会いましょう、ワーズワード」

「おい――」


 振り向きざまに、パチリと小悪魔なウインクを一つ飛ばしてリゼルが駆けて行く。

 あれは【パルミスズ・マインド・ネイ/風神伝声】の魔法だな。魔法での連絡をうけるくらいの人物であれば、やはりどこぞの高貴の出なのだろう。

 俺はこの街の住人ではないので、また出会う可能性は限りなくゼロなのだが、なぜかリゼルの言葉には確信が含まれているようにも思えた。

 俺は人波に紛れて消え行くその背中をやや呆然と見送る。


「結局なんだったんだ、あいつは」


 なんとも言い難く。別れた今となっては不思議な出会いだったとしか言い様がなかった。

 

 

 ◇◇◇



 ドン、と大きな爆発音が聞こえたのはリゼルと別れて、少しばかりの時間が経過したときだった。

 いちのざわめきが一瞬静まり、皆が音の発生源を探って視線を虚空に漂わせる。

 そして、誰かが声を上げて空の一角を指差した。それはここからやや遠い建物。もうもうと立ち上る煙を見れば、そこで火災が発生しているのであろうと理解できた。

 

 そこでもう一回爆発音。

 

 これが決定打になり、立ち止まって様子を見ていたほぼ全員がこの場からの逃げを選択した。あちこちで悲鳴が上がり、パニック映画さながらの混乱が発生する。絶叫を上げて逃げ惑う女性。店を踏み荒らされた店主が怒りの声を上げる。別の場所では並べた商品を茣蓙ごと巻き取り、一瞬で店を畳む露店の店主の姿がある。丸めた茣蓙を背負って、そのまま逃走の列に加わる男の姿は俺から見ても惚れ惚れするほどの人生の達人である。

 優雅な歌声で多くの女性を魅了していた吟遊詩人は、二度目の爆発音が聞こえるより早く行動を開始しており、後に残された女性たちは、千年の恋から冷めた氷点下の視線で遠ざかる帽子と羽飾りを視殺していた。

 

 この場から逃走する者、それはあくまで『ほぼ全員』であり『全員』ではない。勇敢さゆえか単なる野次馬か、皆とは逆に煙の発生源へ向かう者もいる。

 

 例えばこの俺がそうだ。


 平時には『君子は危うきには近づかないよ派』な俺だが、この異世界に来てからは『ちょっと田んぼの様子を見てくるよ派』に転向しつつある。

 ネットのある地球であれば、あとでニュースサイトをチェックすればよい。だがここでは自分から動いていかなければ新鮮な情報は得られない。

 ネットがないことにはそろそろ慣れたが、各種情報を得にくい状況に慣れることはない。


 情報の一バイトは血の一滴。咲き誇る情報の花は白い、だがその根は血を吸って赤いのである。


 というわけで、面白そうな状況が目の前にあれば、俺は興味本位だけでそこにトツることを自重しない。

 そんな俺に前から走ってきたガタイの良い男性が声をかけてきた。

 

「おい、あんたも逃げた方がいいぞ!」

「親切にどうも。ちなみに知っていれば教えて欲しいのだが、火元はなんの建物なのだろうか」

「火元? ああ、あのあたりはつちいちが立っているところだよ」

「土の市。なんだそれは。今日立っているのは火の市ではなかったのか?」

「そんなのこの街にいるんなら、わかるだろう」

「判然らないので質問している。大体なぜそんなに急いで逃げる。火災が起きているのはわかるが、ここなら距離的には安全圏だろ」

「本当にわからないのか……あのな、この騒ぎで獣人奴隸どもが逃げ出してきて暴れるかもしれねぇってことだよ」

「おっと。なるほど、そういうことか」

「わかったらあんたも早く逃げなよ!」


 土の市。つち、つまり

 ここ法国では獣人に対する人種差別があるという話だったが、差別云々の前に奴隸制度が存在するということか。

 となれば、凱旋行進で連行されていた獣人は捕虜の扱いではなく戦勝品の一つである。こうなるともう人権問題以前の話だな。


「ますます面白そうだ。これは急がないと」


 俺は男の忠告を十分に噛み締めた上で、再び煙の上がる方向に足を向けた。旅の合間にちょっと立ち寄っただけのサイラスの街だが、やはり人が多く集まる場所で得られる情報はその量、質共に上等だ。

 気分が向上し、俺の足取りも俄然軽くなる。


 が、なぜだろう。

 

「祭りの街にほむら立つ、か」


 同時にとてもイヤな予感もするのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 サイラス『上級商区』・土の市開催場付近

 

 やや遠い道の先に街の統治者・サイラス伯の住居だと思われる城が建っている。城と言っても敷地面積が広いだけで、建物としては二階建て程度の貴族の館である。立派な石造りの門を備えている点がこの街ではポイントが高いといったところか。

 その手前であるこの区画はユーリカ・ソイルでいうところの橋を渡った北側の上級商店が立ち並ぶ一角に相当する区画だろう。

 煙を上げているのはその中の一つ、立派な商店につながる倉庫だった。巨大な倉庫で高さ五メートル、奥行きは優に二〇〇メートルはあるだろう。そして、この街では数の少ない石造りの頑強な壁面を有していた。

 その側面に、内側から破壊されたのだと思われる爆発痕があり、遠巻きに様子を窺う商人と怒号を発する衛兵の姿がある。衛兵に伝令を受けたと思われる二三の兵士が方々に散っていくところを見ると、これから兵を集めようと言うところらしい。

 戦争が終わってやっと街に帰ってきた一番緩みきったタイミングでこんな爆発事故が生じたのだと考えれば、その初動に鈍さがあっても仕方がない。

 平時よりもずっと多い兵数がまだ街の中に残っているはずなので、一度招集をかければ、その数は一気に増えるに違いない。

 そうなる前に、ちょっと中の様子を見学させてもらおう。

 

 黄x一、白x七――

 

 逆まく二重円の源素図形を作り上げて、【バニシングバード・エア/溌空鳳】の魔法を発動する。

 周囲の風の流れをゆるやかに制御して、煙や熱気を遠ざける風の鎧を身に纏う。仮にまた先ほどのような大きな爆発が起きたとしても爆風には爆風を。【溌空鳳】の魔法があれば、その被害は大きく軽減できるはずである。

 正規の入り口付近は人が混み合っているので横っ腹に開いた穴の方に足を向ける。

 躊躇なく現場に土足で踏み込む。これがただの野次馬とエリート野次馬サラブレットの差である。

 

「さて、中で獣人たちが反乱を起こしたにしては、逃げ出してくる姿がないが」

 

 崩れた壁面の穴から中の様子を覗きこんでみる。

 まず俺の目に飛び込んできたのは、倉庫内の空中に浮かぶ巨大な『炎の塊』であり、次にその炎を檻の中から呆然と見上げている多種多様な獣人たちの存在だった。

 天井にも大きな穴が開いており、倉庫内は明るい。なによりも空中に浮かぶ巨大な炎が、奴隷市場という陰湿なイメージを浄化して視界を明るく照らしていた。


 キラキラと燃え上がる――『黄金の炎』。

 

 そして、倉庫内に響き渡る甲高い笑い声。

 もちろん、火の玉を見る前にも聞こえていたし、今も聞こえている。それをなるべく気にしないように足を進めていたのだが、もうそろそろ無視しておけるのも限界だった。

 

『キャハハハハハハハハハ!!』


 倉庫内に響き渡る下品な笑い声。

 ……全く、イヤな予感というものはなぜこうも的中するのか。

 俺は猫族と犬族とを仕切る檻と檻との間の通路を進みながら、専門知識『犬のしつけについて教えてください。 - Hyahhoo!智慧袋』のページを記憶した脳内擬似人格にアクセスした。

 

[タイトル]

 犬のしつけについて教えてください。

 

[お悩み内容]

 ウチの馬鹿犬が吠え続けます。しつけ方を教えて下さい。ああまた。なんで吠えるんですかこの馬鹿犬。大体馬鹿犬って言葉自体どうなんですか。馬なんですか。鹿なんですか。犬なんですか。猪鹿蝶とは違うんですか。猪鹿蝶ってあれですよね。えっと、ジンギスカン? ちょっと待って。それは食べたことありますが、あれは羊です。美味しかったので覚えています。ということは馬でも鹿でも犬でも猪でもなく、その正体は羊だったのです。良かった。悩みが解決しました。ありがとうございます。

 

[ベストアンサー]

 はい。

 

 うむ。さすがヒャッホー無駄袋。無駄しかない。思った以上に無駄だったので『Hyahhoo!智慧袋』38,410ページを記憶した擬似人格ごと受動型忘却系で封印した。いくら無限に記憶できると言っても、こんなのイラナイ。不要なものは不要であると切り捨てる勇気が俺にはある。

 

 あまり熱を感じない黄金の炎の下。混乱の中心には三つの姿があった。

 間違いようもなく見慣れた三人の姿。俺はややの諦めを込めて声を掛けた。


「何をやっているんだ。パレイドパグ」

「キャハハハ――あァ? なんだテメェかよ」


 キカッ――カカッ――

 

 振り向いた駄犬の周りには、絶え間ない源素の発光現象が起こっていた。

 パレイドパグの感情に反応した源素が渦を巻いているのが見える。

 不規則に暴れる源素同士がぶつかり合って、魔法発動時に見られるものと同じ発光現象を引き起こしているのだ。これは前にも見たことのある状況である。

 この謎の発光現象にパレイドパグに近づくこともできず、オロオロと小刻みな動きを見せていたシャルが俺を見つけて、パァァと表情を輝かせた。


「ああ、ワーズワードさんっ、あの、大変なことにっ」

「そうみたいだな。俺としては皆がなぜこんな場所に来ているのかを先に聞いておきたいのだが。服を選んでいるのではなかったのか?」

「んー、そうなんだけど。あのね、お店でここのこと話している人がいたの。そしたら、パグちゃんが面白そうだから見に行こうって」


 シャルに比べれば、なぜか落ち着いているセスリナが俺の質問に答える。

 

「ここ――つまりは土の市とかいう名の奴隷市のことだな。確かに俺達の世界ではまず見られないものだから興味本位で覗いてみたくなった気持ちはわかるが、それがどう今の状況とつながるんだ」

「わかりません。面白そうだからって言っていたパレイドパグさんがここについてから、急に静かになって。そしたら、今度は笑い始めて。それでその、あの炎を」

「なんだその情緒不安定な行動は……で、当の本人はなにか言いたいことはあるのか」


 倉庫内に浮かぶ巨大な黄金の炎は【フォックスファイア/狐火】でしかありえなかった。

 略奪品の売買とは違い、戦争奴隸の売買は間違いなく国営事業だろう。ここで騒ぎを起こすことは国そのもの、もう少し割り引いてもこの街を統治している貴族・サイラス伯を敵に回す犯罪行為にあたる。街に入って半日も経たないうちに、街全体を混乱に陥れる大事件を引き起こすとか、外見がどれだけ小娘でもやはりコイツは『世界の敵』だな。


「ハッ、言ったはずだぜ。こんな街なんざ、テメェごと全部燃やしてやるってな」

「それはシャルの身に危険が及んだときの話だ。それともここでなにか危険なことでもあったのか」

「いいえ、そんなことは何も」

「ではなぜこんなバカなことを」

「……」


 俺の問いかけに、駄犬がやや俯き、黙りこむ。

 

「……気に入らねェ」

「なんだって?」

「気に入らねェって言ったんだよ。気に入らねェからぶっ壊す。そんだけだ。キャハハハハ! この魔法ってのは便利じゃねーか、アタシが天井をぶっ飛ばしただけで、武器を持った奴らはみんな逃げていったぜ!」


 苛立ちを見せながら、そんなことを口にするパレイドパグ。

 たしかに、倉庫内に無法の魔犬を取り締まるべき立場の人間の姿はなかった。【狐火】を知らずとも、この炎が何らかの魔法によって生み出されたものであることだけは明白である。

 犯人が魔法使いなのだとすれば、同じ魔法使いを連れてくるか数を揃えるしか手段がない。逆に言えば、数が揃えば再び倉庫内に突入してくるだろう。


 いくつかの区画に分けられた倉庫内、そこで獣人たちは枷につながれ、かつ檻に入れられている。おそらくは種族、性別、年齢などで大雑把に分類されているのだろう。その様子はさながら『暗黒・大人の動物園』である。

 常には別のものを保管している倉庫を臨時にこうして使っているのだろう。

 檻の中、獣人たちの瞳に見える感情は様々だ。

 恐怖。混乱。諦め。悲しみから生じた無感情。怒りが反転した無気力。

 

 彼らは巨大な炎を操るパレイドパグの姿をどのように見ただろう。

 この行為に何の理由があるのか。それを考えれば、奴隸として売られる前にこの場で焼き殺される想像さえあったかもしれない。そんな想像が先に来るほどに獣人の人権は軽視されており、絶望は深い。


 パレイドパグは気に入らないと言った。その感情を炎として具現化した。

 一体何が気に入らないというのか。

 奴隸売買を是とする支配的な権力構造か。あるいは貨幣を握りしめ商品を品定めする客の姿か。

 そのどちらも駄犬は嫌いそうだが、それであれば今なおその苛立ちが継続している理由にならない。

 となれば、そうではなく、パレイドパグの苛立ちの源泉はここにこうして、捕らえられている彼ら自身か。


「テメェら、やられっぱなしでいいのかよ」

 

 そんなに大きくはないパレイドパグの言葉。しかし、皆一様によく聞こえそうな獣耳を持つ獣人さんである。きっとと遠くまで聞こえていることだろう。

 

「人間様に尻尾振ってエサもらいてェんなら、そんな目してんじゃねェ」


 もともと目つきの悪いパレイドパグである。その上小娘とはいえ、魔法を操ることでその実力を見せつけている。


「かわいい仕草でもしてアタシにも媚びて見せろよ」


 パレイドパグの苛立ちの眼光にさらされた獣人が、二つの相反する反応を返す。

 その反応はまさに半々、幾人かはうめき声を上げて地に伏せ、別の幾人かは怒りに喉を鳴らして、立ち上がる。


「揃いも揃って檻の中でよ……まんまペットじゃねーか。だったら、そん中で人間みたいな感情を見せてんじゃねェよ!!」


 そのどちらにもパレイドパグは苛立ちささくれだった挑発的な視線を送っていた。

 まったくコイツは……


 孤絶主義者アイソレーションニストは基本的に個で完結した人格だ。その感情は己の外には向きにくい。

 駄犬の苛立ちは獣人たちに向いているようで、やはりそれは誰でもない自分自身に向けられている。

 気に入らないと言ったパレイドパグの言葉はその通りで、檻に入れられ、どうすることもできず未来に絶望するだけの彼らに、自分に似た何かを重ね見たのだろう。

 児戯にも等しい挑発は、『絶望』という名の鎮痛剤で自ら殺していた彼らの心に痛みを蘇らせる行為にほかならない。

 気に入らない。何かしたい。だけど、攻撃的なやり方以外の方法を知らない。それがパレイドパグなのだ。

 ……不器用にも程がある。

 まあ、この不器用さがなければ、そもそも孤絶主義者になどなっていないか。

 

 とはいえ、このままではどうしようもない。さっき見た通り、外では兵士が集まりつつある。

 

「なんとなくは理解した。こんなことをしでかして、この後は一体どうするつもりだ」

「ハッ、んなことしらねぇよ」

「ちょっとまて。暴れるだけ暴れて本当に考えなしか」

「いいじゃねーか。どうせ明日にはこんなクソッタレた街とはお別れなんだろ。なんなら、ここの檻だけ壊してやってもいいけどな。全員一気に逃げ出しゃあ、街ン中は大混乱だろうぜ」

「街は帰還した兵士で溢れかえっている。逃げた端から捕まるだけだ。抵抗すれば今度こそ殺されるな。爪や牙が多少長くても槍には勝てないし、個々の逃走で組織された軍隊の網を破れるわけがない」

「それこそアタシのしったこっちゃねェよ。死にたくなきゃここに残っていればいいだけの話だ。アタシはただアタシが気に入らないからこの場所をぶっ壊してやっただけだ。その後のことまで責任もてっかよ」

「お前な……」


 未成年らしい、その場の勢いだけの自重しない行動理論である。すごく……迷惑です。

 駄犬のあまりの考えなさに俺が頭を痛めていると、全く予期していない場所から一つの言葉が放たれた。

 

「助けてあげようよ」


 赤いローズにミニマントの姿――声の発生源は、セスリナ・アル・マーズリーだった。

 くりくりと丸い瞳を瞬かせ、まるで気負いなく、まるで当たり前のように重大な提案を口にする。

 

「助けてあげようよ」

「セスリナ……今言っただろう。そんなことをしても彼らは逃げ切れないと」

「ううん、そうじゃなくて、あなたが助けてあげて。獣人さん全部、全員。ね、あなたならできるでしょ」

「……は?」


 想定をしない提案に、今度は俺が言葉を失う番だった。

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