Packdog's Paradox 01
(これまでのあらすじ)
世界の敵・ワーズワードは己の計画の失敗で、マルセイオと呼ばれる異世界に飛ばされてしまう。
彼は、どういう理由か魔法の源となる『源素』を見ることができる特殊な視力を得ていた。
その自重しない行動力で、多くの人々を巻き込みながら着実に生活基盤を構築していくワーズワード。そんな日々の中、あるとき彼は世話になった少女・シャルの運命を救うことを決定する。
その晩、彼は彼以外にもこの世界にやってきている地球人がいることを知る。
相手の名は『アルカンエイク』。人類初めての敵『ファーストエネミー』と呼ばれる存在であり、しかも地球とこの異世界を自由に行き来する技術を確立しているらしい。
少女のため、そして己のため。ワーズワードはアルカンエイクに出会うための旅をはじめるのだった。
――同じ頃、世界の敵の集まる『ベータ・ネット』では、世界中に素性の割れたワーズワード排除の計画が持ち上がっていた。
『世界の敵の敵』となったワーズワード。だが、彼はまだそれを知らない――
※更に詳しいあらすじはこの上にあるEp.1~Ep.5の各リンクを押すと読むことができます。
「……先程のお主の言は、まさかこのことを指しておったのかや」
「このこととはなんだ。それこそ意味が判然らないぞ」
「たわけ! 世界に12ある濬獣自治区、その中の一つ、アラナクア治崖を治める濬獣『アラナクア』からの――緊急救援要請じゃ!」
鬱蒼とした深緑に囲まれた樹上の村、『フェルニの村』。
シャルとフェルナの故郷に立ち寄った俺は、そこでシャルを迎える任に就いていたサリンジ・ダートーンという『南の法国』の上級神官と出会った。
彼との熱い交渉の結果、『シャルが途中で逃げ出さないように監視する』という条件と引換に、俺たちをアルカンエイクの元まで連れていくことを了解してもらった。道中の食費や宿泊費、足税に関わる費用も全部持ってくれるという好条件だ。
あとは、俺のお願いは必ず聞くこと、逆らわないこと、裏切らないこと、投げ出さないこと、逃げ出さないこと、信じ抜くことなどを約束させた。
やはり話してみれば、人間分かり合えるものだ。その交換条件として、俺はみんなの生命を保障してあげた、というのが最終的な交渉の成果になる。
この場合のみんなとは、彼と彼の部下たち、その愛する家族、恋人、友人、盟友、恩師、隣人、知人、といった人々を指す。まあ、元からどうするつもりもない話なので、こちらの譲歩は一切なかったと言っても過言ではない。
ただ、俺にそれができると彼らが信じる限り、重みのある交換条件になっているというわけである。
遠隔会話を可能とする【パルミスズ・マインド・ネイ/風神伝声】の魔法で、直接アルカンエイクと連絡を取れれば一番良かったのだが、サリンジはそこまでの地位をもっていなかった。
『アルトハイデルベルヒの王城』の役人には連絡させたのだが、俺の話を取り次ぐ以前の話として、今アルカンエイクは城にいないのだそうだ。
サリンジの話によれば、アルカンエイクという王は、法国周辺の侵略的人狩りには率先して出向くが、内政を省みることはほとんどなく、誰に何も告げずに何日も王城を空にし、また消えた時と同じようにいつの間にか戻ってくるのだという。
推察すれば、その時奴は地球に戻っているのだろう。10日前にはベータ・ネットにいたのだから、今も地球にいる可能性が高い。
人狩りの件はおそらくは『ティンカーベル』に関係する話だろうか。奴が俺と同じく源素を目視できる能力を持っているのだとすれば、奴自身が出向くしかないのは道理である。
なんにせよ、いないものは仕方ない。こちらから出向いて、戻ってくるのを待たせてもらおう。
そして、横暴な振る舞いをしていたサリンジを大人しくさせ、村に平和が戻ったそんな矢先、俺は大気中に漂う源素の不自然な揺れを感じた。
二度三度と重なったそんな揺れも落ち着いたところで、ニアヴが瞳に怒りすらも浮かべて、そんなことを口にしたのだった。
◇◇◇
「いや、実際にわからないんだが。アラナクアというのは一度聞いた名だな。お前の仲間か」
「そうじゃ。アラナクアは夭い。己の治地のことで、判断に迷うこともあろう。じゃが、緊急救援要請となれば、話は別じゃ。己で対処できぬほどの治地への侵犯があったということじゃ!」
「なおさら、俺には関係なさそうな話なんだが。その『アラナクア治崖』という場所は聖国にあるのか? だとすれば、聖国の軍がそれをやったという話ではないのか。もっと詳しい状況を話してみろ」
ユーリカ・ソイルという聖国の街に資産を持つ身としては、あまり歓迎できない状況だが。
とは言え、ニアヴ贔屓のミゴットや、統治能力の高いルルシスが高い権力を持っているような国が、突然濬獣に敵対するような行動をとるだろうか。
「まさか……ありえません。『アラナクア治崖』は聖国でも最大の要害にして禁忌。『アラナクア治崖』に立ち入って、還ってきた者はいない――凶悪さで知られるアラナクア様の治める領地に侵攻するなどと……っ申し訳ございません、ニアヴ様。ご同胞様に対し凶悪だなどと」
騒ぎに駆け寄ってきたフェルナがそんなことを口走る。
「かまわぬ。が、そうじゃな。ここ数十年は聖国との良好な関係が続いておる。人族の侵犯というのは考えにくい状況じゃ。確かに詳しい状況を確認すべきかの」
仲間の危機的状況に一瞬怒気に包まれたニアヴだったが、冷静な状況確認を求める俺とフェルナの否定の意見で、上がっていたボルテージは、ストンと落ち着いたようだ。
未だ、ニアヴを包む五芒星の源素図形――おそらくは濬獣同士の通信の魔法――は続いている。
北の空を見上げるニアヴは、今も心のなかで会話中なのだろう。
「ワーズワードさん、大丈夫でしょうか……」
「なになに、どうしたの?」
村娘たちの輪から抜けだしてきたシャルが不安そうな声で見上げてくる。
脳天気な方の声は、セスリナだ。
「ニアヴに難癖をつけられただけだ。俺たちには一切関係のない話なので、気にしなくてもいいだろう」
そう説明する俺に、ニアヴがジト目を向けてくる。
「お主の……ま、確かにこれは妾たちの事情じゃ。――じゃが、以前同じようなことがあった際は、結局はお主の引き起こしたものじゃったろうが!」
『天空のかがり火』の件か。そんなこともあったな。
「いや、あれの犯人はセスリナだろ。ほら、ここにいるぞ」
「えぇぇ、なに犯人て! あれ、すっごくこわかったんだよっ」
「もともとそういうアーティファクトだっただけだろうに。そういえば、あの杖はその後見ていないが、元に戻さなくてよかったのか?」
「え? あーうん……お父さんがそのままで良いって。なんだかすごく喜んでたみたい」
「そうか」
貴族相手に『お父さん』というのは激しい違和感なのだが、セスリナがいうと案外すんなりと聞き流せてしまう。
現マーズリー伯爵。会ったことはないが、オルドとセスリナの実父である。おおよそ、ライトロウに属する人種に違いないだろう。まあ、それでもさすがに物の価値はわかっているようだが。
そして、それはまたマーズリー家への貸しにもなる。良いことである。
セスリナを預っている時点で、今後もその貸しは雪だるま式に増えていくとは思う。
「と、話が脱線してしまったが、どうだ、そのアラナクアとやらから事情は聞けたのか」
そう問いかける俺に、ニアヴがふるふると首を振る。
「いや、現在進行形で混乱しておるようじゃな。落ち着けというておるのじゃが、一向に話を聞かぬ」
「状況がわかれば、知恵くらいなら貸せるぞ」
「……気持ちはありがたいがの。妾たちの問題に人族の力を借りるというのもまた、歓迎すべき事柄ではない。それは最後の手段とさせてもらおう」
それはプライドではなく、線引きの話なのだろう。
俺としては、考えて喋るだけならばタダなわけで。この世界の人族という種族でもないため、基本的には中立だと考えている。日本だの英国だのという国名は口にしている俺だが、異世界がどうの次元がどうのという根本的な話はまだしていないので、ニアヴから見れば俺もシャルも同じ人族という認識か。
そのあたりは俺自身が明確な説明をできないために、意図的にぼかしていたわけだが、そろそろ話す頃合いかもしれないな――
「では、どうする。確かお前たちは困ったことがあれば助けあって、問題を解決するのだろう。そのアラナクア治崖とやらに転移する魔法か何かで助けに行ってやるのか?」
「ぐぬ……それは……」
「なんだ、珍しく歯切れが悪いな」
「悪かったの!」
俺に、というよりはシャルやセスリナ、そして村人たちと、まあこの場にはかなりの人数がいるわけだが、そんな皆の目を気にして、ニアヴが恥じ入るように目を伏せる。耳と尻尾も心持ち力を失って垂れ下がる。
「……妾にも、できぬことはある。転移に関する魔法は不得手なのじゃ。我が族の秘術は、そこに生命を宿らせるかの如き繊細な魔法の制御を可能とするが、それとて万能ではない。空間を渡る術はそれこそアラナクアの領分じゃ」
「なるほど。【リープ・タイガー/飛虎】、【フォックスファイア/狐火】……聞けば、確かに思い当たるな」
魔法に生命を宿らせる、か……ニアヴの使う魔法名の中に必ず獣の名前が含まれているのも、それが理由か。
更に言うならば、源素を見ることができる俺だから判然ることがある。
その繊細な制御を可能としているのは、黄源素だということだ。
セスリナの、いや火神神殿の使う【カグナズ・ファイア/火神火球】とニアヴの【狐火】、どちらも火球を生み出す魔法であるが、炎をまるで生きた狐のように制御できる【狐火】に対し、【火神火球】の方は、俺が使ったとしても、炎の大小を制御できる程度である。
源素図形を見てみれば、【火神火球】は全ての頂点が赤源素のみで構成された三角形。そして、【狐火】はその内のひとつの頂点が黄源素に置き換わった三角錐となっている。
つまり、ニアヴの言う『一族の秘術』とは黄源素に関する独自の制御方法にあるのだろう。
いや、わかってくると面白いものだな、魔法というものは。
それよりも、もっと重要なことを口にしたか。一言一句全ての情報は有効であり、それを聞き漏らす俺ではない。
「よし、救援の件はさておき、そのアラナクアというのを俺に紹介しろ」
「はぁ!? なんじゃいきなり、今はそれどころではないわ! ……なにより、お主これ以上別の女子に出を出すつもりなのかや!」
「ワーズワードさん……」
未だ遠隔通信でやり取りをしているらしいニアヴが、北の空を気にしながら、声を上げる。
そしてそれを聞いたシャルの表情が絶望に染まってゆく。
「いや、待て誤解だ。アラナクアという存在が女性だというのは今知った話であって。そうではなく、空間を渡る魔法というものをだな」
空間転移に関する魔法としては、【アンク・サンブルス・ライト/孵らぬ卵・機能制限版】の持つ『大脱出』があるわけだが、さすがにあの魔法は効率が悪い。目に見える距離にしか移動できないのもネックだ。
「魔法の力で空間転移ができれば、サリンジに同行しなくとも、今すぐにアルトハイデルベルヒの王城とやらに行くこともできる。それは別にしても空間転移魔法は覚えておきたいものだしな」
俺も折角源素を操作できる力があるのだから、空間転移、空中飛行、時間停止、流星落下といったメジャーな魔法くらいは趣味として覚えておきたい。戦闘力が10倍になる魔法があれば、それはそれで面白そうだが、俺に関して言えばゼロに何を掛けてもゼロである。
「そんな簡単に……転移魔法ってすごい難しいのに……」
「それは源素が見えないから難しいのだ。目にさえ見えれば、例えお前でも……いや、お前は魔法に関してだけは才能があるのだったな。そうだな、では例え御者くんでも転移魔法が使えるだろう」
「もう、御者くんって……名前覚えてないの? 一緒にいるのに、かわいそうじゃないかな」
む、セスリナのくせになんという正論を。
少し離れた場所で馬車を磨いている御者くんに目を向ける。
目が合う。
……。
互い、会釈。
「そうだな」
「いまのはなに……?」
「気にするな」
男の世界は、女子供には理解しがたいものなのだ。
一方のニアヴは、
「妾だけではなく、アラナクアの秘術も盗むつもりじゃと……なおさら、そんなことはできぬわっ!」
と、こっちは取り付く島もない。
駄目か。秘術じゃなくていいので、ただ転移魔法を見せてもらいたいだけなんだが。
別の手立てを考える俺に、今度はフェルナとセスリナが口を挟んでくる。
「ワーズワード様、先ほども言いました通り、アラナクア様と言えば、大変お厳しい方という噂です。ワーズワード様といえど、一体どのような事態になるかわかりません。大変申し上げにくいのですが、ここはニアヴ様にお任せして、私たちは妹の件に注力すべきではないでしょうか」
「そうだよ、やめようよぅ。絶対怖いに決まってるよぅ」
二人にとっては、『アラナクア』の名は畏怖あるいは恐怖の対象であるらしい。
確かに濬獣といえばニアヴしか知らない俺である。ある程度の魔法が使えるとはいえ、ニアヴクラスの魔法の使い手と本気で敵対することになれば、どうなるかはわからない。
少なくとも肉体言語で会話するような状況は、避けたいところだ。
でもまあ最悪、ニアヴを盾に不意をつけば――
「私は、あの、ワーズワードさんのやりたいようにしてもらうのがいいと思いますっ」
「ありがとう、シャル。……あと、あんまり見つめないでいただけると助かるのですけれど」
キラキラと俺を見上げるシャルの瞳には、全幅の信頼がある。
シャルは退魔師に向いていると思う。謎の浄化パワーで俺は既に死に瀕している。
「アラナクアが凶悪のう……どこからそのような話になったのじゃろうな」
「違うのか」
「と、思うのじゃがな。あやつは妾よりもむしろ――ば、ばかものっ!」
「なんだ突然。失敬な」
「お主のことではないわ、落ち着かぬかアラナクア!」
心のなかに留め置けず、遂に声にまで出始めたということは、いよいよ良くない状況であるらしい。
遠い別の濬獣の土地で何が起こっているのか。
――と、ニアヴを囲う五芒星の源素図形が、そこで崩れた。
通信の魔法が途切れたことは、ニアヴ自身も感じ取れているのだろう。久しぶりに狼狽の表情を見せたニアヴが、くっと声を上げ、一歩を飛び退いた。
そこに再び、別の源素図形が虚空に出現した。
緑源素x14――
それは純粋な緑源素のみで構成された球体だった。
緑色の源素球。半透明なその球体の中で、背景がぐにゃりと歪んだ。
「……………う」
そして、そこから奇妙な呻き声と共に二本の白い腕がズゾリと伸びてきた。
腕は勢い良くニアヴに向かって伸ばされる。
勿論ここは「恐怖! 異世界の奥地に人を死に誘う白い腕を見た!」などという日本的TV番組のロケ地ではない。物理法則を無視する、あるいは霊的な不可思議現象が発生したというのならば、それは必ず魔法的事象であろう。
虚空からは手に続き、頭、胴体が出現した。
「ニアう~~!」
「アラナク――わぷっ」
「ニアうニアうニアう~~!! あー、ニアう、かわいいねぇ」
二本の白い腕は、勢いのままニアヴに絡みつく。飛び出してきた人物は、そのマシュマロの如き胸の間にニアヴを抱え込み、頭の上からグリグリとほおずりをしていた。
……は?
そこに出現したのは、俺の身長を遥か超える長身の人物だった。背の高さならば190近いだろう。
それでいて細身。白粉を振ったような白い肌に、髪は跳ね上がったライトブラウン。
ニアヴ同様、紅白の袴風の布服を着込んでいるが、上の小袖は肩口までの長さしかなく、その白い腕が露わになっている。袴は袴でホットパンツかミニスカートの如き短さで、その長い足を隠しもしない。
やや舌足らずな口調。涙目で飛び出してきたわりに、今はニアヴを抱きしめることで安心したのか、ゆるい笑顔を見せている。
頭を胸の谷間に封殺されたニアヴは、身長差故に地に足を付けられない。宙に浮かされた状態で藻掻いていた。
突然の状況に、村の皆は言葉も発せられず、硬直するばかりだ。
長く垂れた耳に丸く小さな尾……その獣の特徴から見るならば、
「兎の化生、か?」
「プハッ、ええい、いい加減放さぬか!」
「だって、ニアう、久しぶり」
「アラナクア、お主には濬獣としての重みが足りぬ!」
いや、お前も大概だと思うが。
その心の声が聞こえたわけではあるまいが、俺の方をひと睨みすると、ニアヴは大きなため息と共にこちらへ向き直った。
「はぁ、来てしもうたものは致し方ない。……紹介しよう。こやつが『アラナクア治崖』を治める濬獣・アラナクアじゃ」
「あれ、なんでニアう、こんなに人族さんがいっぱい? うちと一緒だねぇ」
飛び出してきた時の涙目はなんだったのか。きょとんとした表情で周囲に視線を巡らせるアラナクアは、世界にこんな無害な生物が存在するのかと思われるほどの、無邪気さ、あるいは無防備さをさらけ出している。
「わ、すっごいかわいい方ですね」
「この方がアラナクア……様? バカな……」
兎の化生は、かわいいもの好きのシャルの心を一気に掴んだらしい。
愕然とした表情のフェルナとは対照的である。少なくとも、フェルナの言った凶悪さからは程遠い生き物にみえる。
この生き物を凶悪だと信じ込んでいたその誤解のプロセスには多少興味があるな。
アラナクアの身に纏う源素光量はおよそ30カンデラ。ニアヴとほぼ同等、ただし、色彩的に緑源素の数が多い。
それはさておき、折角のご紹介だ。
ニアヴの嘆息はさておき、ぜひ友好な関係を築いておきたい。転移の魔法は貴重である。
一歩を踏み出し、自己紹介に移ろうとした俺の目が明るさに眩んだ――
発生源は転移の魔法球。
歪む空間の向こう側から、更なる何者かが飛び出してきたのだ。飛び出してきた勢いそのままに地面の上に尻もちをつく。
『いちち……なんだこりゃ? なにが向こうで待ってるだ、こんななんもねェ所に放りだしやがって! おい、クソ兎、てめェがアタシをアルカンエイクのところに案内するんじゃねェのかよ!』
「ぴぃ! きちゃった、助けてニアう~!」
「なんじゃ……あやつは。なにを喋っておるのじゃ……」
再びの涙目を見せ、ニアヴにすがりつくアラナクア。
そして、その何者かが発した言語が理解できず、行動を起こせないニアヴ。
それはこの世界の言葉ではなかった。
……喋り始めの強いアクセントは、その意味が判然らなくとも相手に強い威圧感を与える。ただの質問は詰問になり、お願いが脅迫となる。
地球上にはそんな言語があるのだ。
眩しさのためまだ明瞭としないがその声質は間違いなく女性のものであろう。
制御されていない源素の光の幕の奥で、その瞳が大きく見開かれたことだけがわかった。
『――ッ! てめェ、ワーズワードッ!?』
そして、俺にはその言葉が解る――俺はドイツ語もそこそこ得意なのだ。
アルカンエイクの名を呼び、そして俺の顔を知っているか。
何よりこの口汚さには聞き覚えがあった。
やれやれ、仮想世界と現実世界で人格の使い分けすらもできていないとは、情けないにも程がある。
俺は確信をもって、その呼びかけに応えた。
『はじめまして、でいいのかな。――パレイドパグ』
エピ6、始まります。