Wayfarer's Witchcraft-shop 03
「俺だ! 俺に売ってくれ!」
「ワイの方が先や! 金ならいくらでも出すさかい!」
「おおぅ、なんと美しい輝きだ……こんな炎見たことがない」
「いや、それよりも素晴らしいのは夜の明かりとして実に実用的だということだろう。夜間に明かりを灯す貴族はいるが、これがあれば、誰もが明るい夜を過ごせるようになるのだぞ」
「確かにそうだが、俺にはこの水の無くならない水筒の方が便利だと思うがなぁ。冒険者にとっては、全ての財産と引き換えにしても売ってもらいたいものだ」
「ばかな! それこそが無駄な利用法の極地だ! この水筒一つで、どれだけの村が助かると思う!? まさに神の奇跡だとしかいえん!」
「これほどの数のアーティファクト、どこの遺跡で発見したでしょうかぁ~?」
「アーティファクトじゃなく、マジックアイテムだって話だけどな……ハテ、それって、なにが違うんだ?」
「知らないわよ。でもニアヴ様の絵が看板に描いてあるってことは、ここの品々は濬獣様ゆかりの品々ではないのかしら? それなら、冒険者が見つけてくるアーティファクトなどより、よっぽど価値があるのではなくて?」
「違いあるまいが、そんなものを店で売り出すとは、濬獣様に一体何があったというのだ?」
「るるる、濬獣様がボクなんかに声を掛けてくれるなんて。ああ、ニアヴたん、かーいーなぁ……あの看板の方を売ってほしいなぁ」
「そんなことはどうでもいい! はやく、はやく、俺にそれを売ってくれ!」
「おい、押すな! 今はまだ、商品説明だと店主が言っていただろう!」
日本時間で言えば、そろそろ11時か。
それは、オープンセールの大盛況、で済ませられるレベルの人だかりではなかった。
結論を先にすれば、店先の大通りで【フォックスライト/狐光灯】を喧伝するニアヴの集客効果はすさまじいかったという一言に尽きる。
ふむ、売れるか売れないかなどと、全くの杞憂だったな。
初めは何の店かと冷やかすつもりで見に来た客が、その驚きを他の客に伝染させ、商売の臭いを嗅ぎつけた商人が集まり始めた所から、『ワーズワード魔法道具店』の店先は既に収拾のつかない混乱と怒号のるつぼと化しはじめていた。
今しきりに、金に糸目をつけないから、全ての商品を売ってくれと騒ぎ立てているのは、おそらく貴族相手の商売をしている、大店の商人だろう。
店内に並ぶマジックアイテムを、ここで支払う以上の値段で貴族に売りつけることができると即座に判断したのだ。
いわゆるテンバイヤーというやつだな。だが、転売はあらゆる商売の基本でもある。
この短時間で、街の声を拾い自ら足を運んでくる情報収集力と行動力、また即座に商品価値を計る商売勘、大声でもって我を通そうとする押しの強さ、どれをとっても一流だ。
まさしく、俺が求めていた理想の客である。
俺も自らの作ったマジックアイテムの全てを安くばらまくことは考えていない。
高く売れるならそれに越したことないからな。
今日用意した20ほどの商品は宣伝材料として適当にさばくが、それ以降は特定の商人を選定し、その商人を通して、販売を行う。
そうして効率よく金を持つ貴族から利益を得るビジネスモデルを考えている。
重要なのは、商人や貴族とのパイプ――つまり人脈作りだ。
俺の作るマジックアイテムに価値を見いだすということは、つまり俺に価値を見いだすということ。
人脈の形成は、この世界における俺自身の土台作りであると共に、影響力増大戦略の第一歩となる。
人が己の人生の中でやりたいことをやっていくためには、数えるのも面倒になるほどの障害が発生し、それらを自らの力で解決していくことで、人は成長する。
だがそれは、すでに成長済みである俺のするべきことではない。
俺から見れば、数ある障害、例えばそれが100あるのなら、その内99は金と権力のどちらかがあれば解決できてしまうものだ。
故に、もっとも効率よくその二点を入手することが、俺の行動指針になる。
商品販売は金策の基であり、商人や貴族との人脈は権力作りの基である。
そのために急ぎすぎるくらいに急いで準備した『ワーズワード魔法道具店』だ。
アレク青年から預かったこの店は、いずれ国中にその名のとどろかせることになる。
とどろく名前が少し変わってしまうが、なに、そこは誤差の範囲というものだろう。
◇◇◇
店では、午前中を魔法道具の説明と展示観覧のみとし、その後抽選での販売を行うと説明していた。
同時並行に、集まった客の中から今後の商売相手候補を選定する作業を行っている。
俺の琴線に触れられたのは、3人と言う所か。彼らには後ほどアプローチをかけることにしよう。
ライトアップされた店内に殺到する人垣を押しのけて、さすがに疲労を見せるニアヴが戻ってくる。
「ご苦労。もう人集めはいいぞ」
「うむ。ワーズワードよ、なにやらものすごい人数が集まっておるようじゃが、大丈夫なのかや?」
「問題ない、上出来だ。今日はなんでも好きなものを食べさせてやれそうだ」
「この状況でよくそんな余裕があるものじゃな……妾の言ったとおりであろう。魔法道具を販売しようとする店など他にないのじゃ。これだけの人が集まるのも当然であろう」
「全くだな。俺にしてみれば売れるとわかればもう怖いものはない。こういった新しい商売は始めたもの勝ちだからな。俺の国には『先んずれば人を制す』という言葉もある」
「聞いたことのない言じゃが、なるほど理があるの。それより少し疲れたのじゃ、しばし休ませてもらうぞ」
「わかった。……そういえば、シャルが朝には来るといっていたのだが、外で見かけなかったか?」
「いや、見てはおらぬ。その内くるであろ」
さして気にもしていない様子で、ニアヴが手をひらひら振りながら、奥に消えて行く。
長い時間を生きているらしいニアヴの時間の概念は、イタリア人並なのかもな。
スローライフで羨ましい限りだ。
それはそれとして、あの素直な性格のシャルが約束を破るというのは考えにくい。何かあったのだろうか?
とそこに、
「道をあけろ!」「邪魔だ、どけ!」
「なんだ?」「ひっ」「うわっ」
金属音と悲鳴と伴って、人垣が左右に割れ始めた。
そこには、長槍をもって、集まった客を威圧する青甲冑の一団が姿があった。
先頭に、昨日会話を交わした、ルーケイオン隊長のオルド。そして、耳をしおしおにさせたシャルの姿があった。
さらにもう一人、赤いローブを纏った老人は初めて見る人物。源素光量はおおよそ3,800ミリカンデラ、なかなかのものである。
「『ワーズワード魔法道具店』、ですか。興味深いですな」
「うむむ、まさか宿をとらずに、このような店を……盲点でした」
「わ、ワーズワードさん……あのっ、そのっ」
なるほど。状況は理解した。
昨日の一件の重要参考人として、俺たちが捜索対象になるであろうことは、予測できていた。
だが、同時にニアヴの名が重しとなる以上、無理な強制逮捕はないとも予測していた。
どこかで接触を図ってくるにしても、それは穏便なものになるだろう、と。
その捜査網に一人宿を取っていたシャルがかかり、ここまで案内させられたのだろう。
ひどく怯えた様子だが、おそらくは単純に公権力に対して免疫がないだけなんだろうな。
あの赤ローブは確か、ラスケイオンの制服だったか。ならば、もう一人の老人。おそらくは、
「ようこそ。オルド隊長。それにあなたはラスケイオンの隊長殿かな?」
「貴殿がワーズワード殿であられるな。さよう、お初にお目にかかる、ミゴット・ワナン・バルハスと申す。昨日の一件につきまして、少々話をお聞きかせ頂きたく……ニアヴ様へのお目通りを願えますかな」
その柔和な表情を崩さず、老人が人当たりの良い口調で答える。
そこに俺が感じたのは、小さな『偽』の臭いである。99%の人間は気づけないであろう、かすかな臭い。
世界の敵たるこの身ゆえに、現実世界において、ありとあらゆるリスクマネジメントを行ってきた俺の直感が、こいつは警戒すべき対象だとアラートを鳴らした。
子曰く『吾、十有五にして学に志し、三十にして立ち、四十にして惑わず、五十にして天命を知る』。いくら総体の文明レベルが低いとはいえ、経年経験を重ねた相手は甘く見るべきではない。
こちらの情報は事前に確認済みのようなので、話が早くて助かるが、逆にこちらには相手の情報が全くない。となれば、なんにしてもまずは出方を見るしかあるまいか。
「もちろんだとも。その前に、彼女、シャルは道案内の役目だけで十分だろう。ひどく怯えているようなので、こちらで休ませてもいいだろうか?」
「あのっ……私、宿でっ、呼び出されて……っ」
「誤解のないようにお願いしたいが、我らは従者殿に危害を加えるようなことは誓ってしておりません。その点――」
オルドが慌てたように、言葉をつなぐ。
「わかっているとも。オルド隊長の高潔英邁な人となりについては、昨日時点で了解している。誤解などしようはずもない。もちろん、『ニアヴ様』も同様だ」
「おお、感謝いたします」
あくまで上からの立ち位置として、言葉をかける。
「さ、シャルこちらに。あとは俺に任せてくれればいい」
戒めから解き放たれたかのように、パッとシャルが動き出す。
「すいません、私、びっくりしちゃって」
なにやら耳をすまなそうにへにょらせて詫びてくるが、全く問題ない話だ。
「むしろ、ここまで彼らを案内してくれて助かったくらいだ。こちらから出向かずにすんだからな。奥でニアヴが休んでいるから挨拶をしてくるといい」
「はいっ」
シャルを奥に逃がしたところで、さてこれからどうしたものかと考える。
オルドとミゴットは、店内に展示した【狐光灯】と【ウォーターフォウル・ボトル/降鵜水筒】に目を奪われているようだが、そもそもの用向きは『アンク・サンブルス』の一件についてだろう。
その追求に対する回答は用意してある。しかし、今ここでその話を初めて、店に集まっている客を放置するわけにもいかない。
ルーケイオンとの接触は、今日の午後あたりになると読んでいたのだが、それより早いタイミングになったというのは、単純にルーケイオンの組織力を過小評価してしまっていたことが原因だろう。少し評価値を上げておく。
対応の優先順位についてはまあそうだな……ここは貴族や騎士の存在する封建国家なのだから、ルーケイオンへの対応が先でいいだろう。
「従者殿、これらの品々は……」
オルドが黄金の光を放つ瓶を一つを手に取り、感嘆の声をあげる。
「今日から開店したこの店の商品だ。それは蓋の開閉で光が灯るマジックアイテムで、もう一つが、水の湧き出る水筒だ」
「信じられん……マジックアイテムとはどういう意味だろうか、これはアーティファクトではないのですか?」
「まぁそう思って貰える分には、訂正を入れるつもりはないが。厳密には異なるものだな」
「もう一つお聞きしてもよろしいですかな?」
ミゴットが穏やかに質問を投げかける。
「お聞きしよう」
「ここは武器を扱う『竜と水晶の店』だったはずですな。新しい商売を始めたにしても、そこにアレク殿の姿がないのはどのような理由からでしょう?」
「それは――」
どういうことだ。なぜ、この男がアレクの名を知っている?
アンク・サンブルスの件は想定内だとしても、アレクと俺との関係までは知り得たはずはない。
……ないはずだが、現時点では情報量で完全に負けているな。向こうの持つ情報量が判然らない以上、下手な小細工は逆に懐疑を招くか。しかたない。
「アレクはアーティファクト探索の冒険へと旅だった。俺は彼から信を得て、店を預かったという理由になる」
「そうでしたか」
「ミゴット殿はアレクとはどのようなご関係で?」
「いえ、今はもう関係というものもございませんでな」
手の内は見せないと言うことか。やれやれ、面倒な相手だ。
「うむむ…………その、ワーズワード殿」
と、そこでオルドが遠慮がちに声を発する。おっと、まずはニアヴの件だったかな。
「なんだろう」
「この【狐光灯】というマジックアイテム。売り物だというのであれば、私にも売ってもらえるだろうか」
そっちかよ!
おっと、俺としたことが残念な脳内ツッコミを入れてしまった。
とはいえ、今後の話を有利に持っていくのに、それに興味を持って貰えるのはありがたい。賄賂的な意味で。
「あーーー! 見つけたぁ!」
了承の意を伝えようとしたところで、高い声が放たれた。
声の主を見つけると同時に嘆息を落とす……そんな俺をズビシと指差すのは赤いローブにミニマントの女だった。
ああ、なんか昨日見た顔だな。
「人を指差すのはやめなさい」
「やっと見つけた! あなた、ワームテールさん! 昨日、私の杖に何かしたでしょっ」
「人違いではないか。俺はワーズワードだ」
「そうそれっ!」
人の名前をそれとか言うな。
「セスリナ!? お前が、なぜここにいる!」
「へ……あ。お兄ちゃん」
「一度制服に袖を通したなら、そうと呼ぶなと言ったはずだ!」
「オルドお兄様、ごめんなさい!」
「オルド『隊長』だ!」
そして、おもむろに説教を受け始めるセスリナ。漫才か。
というより、あのズッコケ魔法使いとオルドは兄妹だったのか……驚きである。
「ワーズワード殿はセスリナ嬢とも御面識があられたのですかな」
「御面識かどうかは知らないが、昨日少し話をしたな。それよりアレはミゴット殿の部下ではないのか。放っておいていいのか?」
「この老いぼれはラスケイオンの群兜と言っても、半分引退した身でしてな」
つまり、口を挟むつもりはないということか。
「ねぇねぇ、お兄様なにそれ? すごいかわいい」
「話を聞かぬか! ……これはこの通り、黄金の光を灯す、『マジックアイテム』というものだそうだ」
「すっごいきれい~! お兄様私それほしいっ、や、ほしいですっ」
そこ、言い直した意味あるのか?
「む……実はお前がそう言うとおもってだな。今ワーズワード殿にお願いをしていたところだ」
「本当!? お兄様大好き!」
喜び勇んでじゃれてくる妹に、まんざらでもない様子のオルド。
シスコンかよ!
おっと、俺としたことが残念な脳内ツッコミを二度も入れてしまった。
しかし、どこまで話が拡散させるつもりだこの兄妹は。
察するにセスリナの用件は、昨日の杖の調律についてか。実はあの杖は、アーティファクトだったらしいしな。その後なにか不都合でもあったのだろう。
正直無視したいが、彼女もあれでラスケイオンという公権力側の一員である。更にオルドの妹だというのであれば、適当に手懐けておいてもいいかもしれない。
「それで、ワーズワード殿、このマジックアイテムの件だが」
「……販売の件なら是非もなく」
「おおっ」
「やったぁ」
「ちょっと待ったってや!」
突然の声に、何事かと振り返るオルド。
待ったをかけたのは一人の商人らしき男だった。
「伯爵様にはまいどお世話になっとります『ベルガモ商会』のオージャン・ベルガモいいます。失礼を承知で言わせてもらいますが、そらあきまへんやろ。ここにならんどる商品は、これから公平な抽選で売る相手を決めるっちゅうンで、こうやってみんな待っとるんや。いくら伯爵様のご子息、ご息女言うたかて、そこへの割り込みはルール違反ちゃいますんか?」
「う、むむ……それはそうかもしれぬが……」
押しの強い商人らしい言いぐさである。金が絡めば、相手が貴族、公権力であろうと、ひるむことはないらしい。地球にも『金はなによりも強し』という格言があるしな。
極論すれば、爵位、権力も金で買えるものの一つだ。
オージャンに賛同するように突然現れたルーケイオンに対する不満の声が沸き起こる。
ちなみに、オージャンの発声には、なまりと思わしき語尾変化があったので、脳内で関西弁に変換してみた。
オージャン・ベルガモという男、俺が先ほど目をつけていたうちの一人でもある。
そして、オルドをして伯爵様のご子息ときたか。セスリナは、まぁどうでもいい。
地球の概念で言えば、王族をトップとして、貴族階級は公・侯・伯・子・男の序列、そして男爵の下には騎士爵が並ぶ。伯爵といえば序列三位。かなりの高位だ。
つまりオルドは上級貴族の一員であり、かつルーケイオンの隊長職ということか。至極わかりやすい性格と言い、パイプを作る相手としてはこの上ないぞ。セスリナは、まぁどうでもいい。
とはいえ、オージャンの言にも一理があり、彼とも今後友好な関係を築きたいと思えば、言葉に詰まっているオルドの代わりに、この場は俺が仕切るしかあるまい。
「ベルガモ殿、ご指摘感謝する。確かに今日ここに並べた商品を購入する権利は、集まって頂いた全ての人間にあるべきだ。であれば、オルド殿も商品が欲しいというのなら、その抽選に参加して頂くのが筋だろう」
「せやろ? ニィさん、なかなかわかっとりますな」
商売に公平性がなければ、そこに信用は生まれない。
かと言って、オルドの面目を潰すわけにもいかないので、当然フォローを入れる。
「だが、オルド殿には私個人として借り、いや恩がある。今店頭に並べてある分については、公正な抽選にて販売を行う。これらとは別の在庫があるので、オルド殿へはそこから一つ融通しよう。それでいいだろうか?」
在庫なんて実はないんだが、即興で作る方向で。シャルもきてくれたことだし、小瓶買い出しのおつかいくらいは頼めるだろう。
「そら問題あらへん。店に並んでないモンまで売れっちゅうンは、そらそれで話が通らんさかいな」
「ワーズワード殿……ご厚意痛み入る。こちらとしてもありがたい話です」
フォロー完了。
二人の了解が取れたところで、次は他にいる客全てに向き直る。
「もちろん、今後も継続的にマジックアイテムを販売する予定があるので、今日の抽選に外れた方は、次回に期待してほしい。そうだな、今回の外れ券を持っていれば、次回の抽選で優先することにしよう。数に限りがあるのはどうしようもないが、何度も足を運んで貰えれば、その内購入できるだろう」
俺の提案に、ドッと歓声が沸く。
ざっと見渡したところ100人以上が集まっている状況だ。20程度しかない商品を購入できる確率は20%以下。何度も来ればその確率が上がるというのであれば、毎日でも訪れる客ができるに違いない。
商品の有無にかかわらず、毎日人が集まるとなれば、その宣伝効果は計り知れない。
そうなると、タスクの優先順位は再び入れ替わる。
「というわけで、先に抽選販売を終わらせてから、落ち着いて話をさせて頂くということでよいだろうか?」
「こちらこそ、商売の邪魔をして申し訳ない。ここで待たせてもらうことにしよう」
「私もそれでいいよ、や、いいですわよ」
何を訳知り顔でふんぞり返っているのか知らないが、お前には聞いていない。
「その抽選には、私も参加させてもらってよろしいのですかな?」
「……ええ。なんでしたら、オルド殿同様、別口で融通しましょうか」
ミゴット・ワナン・バルハス。出来れば、こいつには一つ貸しを作っておきたいところだ。
だが、
「いえ、そこまでして頂くのも気が引けますのでな」
「了解した」
当然そう来るだろう。ここで俺の誘いに乗るようなら、警戒する必要がそもそも無い。
「そういえば、値段をきいておりませなんだ。あいにくと今は任務中でして、持ち合わせは少ないのです」
「それなら先ほど説明に追加したのだが、抽選に当たれば、しばらくは商品を予約扱いとするので、あとで金を持って来て貰えればいい」
「ほっほ、よく考えておられますな」
「ちなみに【狐光灯】は一つ1,800旛だ」
「…………」
その価格設定に、さすがのミゴットも二の句を継げず、沈黙を持って驚愕を表す。
1,800ジット。親子4人核家族における約2ヶ月分の生活費に相当するだろうか。
日本円換算なら約18万円。決して安くはない値段設定である。だが、この場にいる誰もが、全く同じ感想を持っていた。
「ありえへんわ。ワイやったら、最低でも一つ100,000ジットで売る自信がありまんで。アホちゃうンか、あのニィさん……」
ワーズワードには聞こえない大きさのオージャンの呟きこそが、まさにその共通認識を示していた。