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ななしのワーズワード  作者: 奈久遠
Ep.1 ワープ・ワールド
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Warp World 02

「お待たせいたしました」


 そこで、ようやく注文のランチパスタが到着した。


 道路に面したこのオープンテラスには心地よい陽射しが降り注いでいる。

 やはり食事は明るい場所で取るのがよい。


 そして、これが最後の食事になる。


 俺はパチリとエアロビューを閉じると、スプーンとフォークを手に持った。



 ◇◇◇



 俺の帰宅を識別したハウスキープシステムが、自動的に室内をライトアップし、気温の調整を始める。

 PCルームにつく頃には、『アイシールド』もすぐに装着可能な状態にスタンバイされる。


 パソコンの主流は、汎用機からデスクトップ、ノート、スマートフォン、エアロビューと、その時代を反映して変遷してきたが、やはり最新のヘッドマウントタイプ、『アイシールド』は最強だろう。


 モバイル利用はエアロビューで我慢するしかないが、感応入力の快感と、球面立体ディスプレイの感動を一度覚えてしまった者が、GUI(Graphical User Interface)のみをサポートするオールドPCに戻れるはずもない。


 アイシールドを装着した俺は、思考により行動し、思考により喋り、思考により存在する、ネットの住人たる仮想体アバターとなる。

 アバターは正式には VUI(Virtual User Interface)といい、感応入力をサポートした第三世代インターフェイスである。

 ネット上のオープンスペースに出れば、自分と同じような、それでいて千差万別のアバターにすれ違うことができる。


 通貨がネットワーク上でやり取りされる世界経済がリアルであるならば、アイシールドにより、実現される仮想世界もまたリアルである。

 アバターというインターフェイス上で、巡回サイトをチェックし、エアロビューを展開し、民放を見たければテレビを付ける。

 新聞紙コンテンツでニュース配信を受け取り、動画再生時は映画館アプリを利用する。


 それは、現実世界の自分自身となんら変わらない行動様式だ。

 『パソコンとネットワーク』が創りだす仮想の空間は、人類にとっての、もう一つの世界として成立していた。


 時計を見る。時計は14時12分、帰宅後20分が経っている。


「さて、そろそろ時間だな――」


 ネット内でサードディスプレイを立ち上げ、中国国家航天局の人工衛星「中天王88」にアクセス。

 コンソール起動、キー入力、全てが3秒以内に完了する。物理的な行動を必要としない感応入力は思考の速度がそのまま、操作速度となる。

 俺くらいアバターを使いこなせるようになれば、下手なマクロを起動させるより、その場でリアルタイムコーディングを行った方が早いくらいだ。


 手早く中天王88のサテライト・ビューをハッキング、近地上観測モードに切り替える。

 中天王シリーズのメインOS「大鵬ダーベン」は純中国産、オープンソースでもここまで酷くないだろうとの評価を受けるセキュリティホールの固まりだ。

 その割に、並列処理の性能は比較的高く、一機あたり、200~300のバックドアプログラムをパラレル実行できる。

 サテライト・ビューの解像度は高くないが、シリーズ100機を超える人工衛星で、ナゼカ日本国土のほぼ全域を網羅カバーしているため、日本国内のパブリック、またはプライベートスペースをライブ中継するには、大変優良な機体なのである。


 地上監視カメラをコントロールし、ターゲットポイントにズームをあわせる。

 ズームするポイントは、俺のこの家だ。


 大通りには覆面パトカーが10台と外交官ナンバーを付けた防弾ジープが5台、裏口方向に自衛隊の車両が3台。パーキングにはJ-テレの報道車、空中を舞うヘリの姿も見える。


 警察は想定内として、そうか、マスコミも動くか。


 地上をちょこちょこと私服警察官が歩き回る。家を取り囲む人数はSTARSと自衛官を合わせて、40名程度。アメリカ国家安全保障局(NSA)直轄のサイバーテロ対策部隊『STARS』最高閣議は、武器を持たない民間人一人の拿捕には作戦チーム10名体制で十分だという結論を出したはずなのだが、なるほど日本政府が横やりを入れたわけか。世界の敵たる『エネミーズ23』、それも史上最悪、最高賞金首のサイバーテロリストが日本人では都合が悪かったのであろう。

 警視庁を前面で動かし、テロリスト逮捕の瞬間を全世界に見せしめるTVショーにしたてあげ、日本の警察が捕まえたのだという、大義名分が欲しかったというわけだ。


 俺としても日本の評価を下げることは本意ではない。心から賛成できる作戦変更だ。

 STARSとしては、その横やりによって逆に俺を取り逃がすのではないかと心穏やかでなかろうが、まずは安心して欲しい。

 万が一にも俺を取り逃がすことはないし、パソコンには俺がワーズワードであるという最小限の証拠も残している。誤認逮捕の線はない。


 そもそも、ワーズワードの拠点情報を流した匿名さんはこの俺なのだ。その信用度は100%だろう。



 今日は世界の敵『ワーズワード』が逮捕される日だった。

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