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ななしのワーズワード  作者: 奈久遠
Ep.1 ワープ・ワールド
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Warp World 11

 まだまだ、一人で行動するには情報が足りていない現状だ。

 俺はまごうことなき流浪者ワンダラーであり、今一人で行動するリスクは、死に直結するものだ。


「もちろんですっ! ……私は魔法のこととか、神さまのことはよくわかりません。ですけど、さっきのワーズワードさんのお話は、あの……その通りだと思いました! できることがあるのに……それを諦めて、自分を抑えつけるなんて、確かにおかしいと思います!」

「……ありがとう、シャル」


 心強いうなずき。……彼女にもなにか抑圧された経験があるのだろうか。

 未だ難しい顔をしたままのもう一人に向き直る。


「俺たちをこのまま通してくれるだけでも良い。行く先はユーリカ・ソイル。このまま別れれば、迷惑をかけることもないだろう」


「……うむう」


 是と否とも取れない唸るような返事。

 先ほど俺が語った『魔法の原理』、俺だけが見えるという『光の粒』。それは、どうやら非常識なものであるらしい。その上、魔法というものをまるで無自覚に発動させる俺という存在を、同じ魔法の使い手であるニアヴは、そうそう無視できないのだろう。


 今のニアヴの感情を一言で言えば迷い。

 責任と不安。危惧と興味。風さえ吹けば、どちらにも倒れる弥次郎兵衛。


 つまりそれは――全ての決定権が俺にあることと同義なのだ。


 一歩。

 二歩。

 腕を組み、思考に深みに嵌り込んでいるニアヴは、俺の接近に気付かない。

 三歩。

 その形の良い顎に右手をすっと伸ばし、グィと少し強引に上を向かせる。


「ふぁ!? な、なんじゃっ、いきなりっ?」


 その大きく見開いた目が左右に泳く。顔を背けようとするが、俺はそれを逃さない。

 逆にぐっと引きつけ、瞳と瞳を固定する。

 その近さに狐の頬がさっと朱を帯びる。


「迷うくらいならば――ニアヴ、お前は俺についてこい」

「にゃぁ!?」


 それは純粋に驚きの声なのだろう。

 尻尾がぶわっと太く逆立つ。

 後ろで少女の「きゃー」という黄色い声が聞こえるが、完全に無視する。


「な、なにを言って――」

「人と人の出逢いには必ず意味がある。出逢うべくして出逢った。それが今だ」


 有無を言わせぬ断言。

 正確には、ただの出逢いに意味などない。意味を付けることができるだけだ。

 ――このセリフのように。


「お前には強い力があり、高い知性があり、誇る美しさがある。だがそれは、観測する者がいて初めて認識されるものだ」

「わ、妾が美しいっ? ま、まことかっ?」


 ……反応するところが想定と違ったが、とりあえず肯定しておく。


「森の生活は退屈だったのだろう? それはお前を観測する者がいなかったからだ。お前にはお前を観測する誰かが必要であり、俺もまた同じだ」

「な、ななな――」

「だから、俺についてこい。それがお前の『運命』だ」


 ちなみに、『運命』という言葉を口にする人間は、アクターか詐欺師のどちらかである。

 そのキーワードが出たら、その相手は軽々しく信用しない方がよい。


「……妾は濬獣ルーヴァじゃぞ?」

「関係ない」

「お主のことを危険だと断すれば、寝首を掻くかも知れぬ」

「本望だ」


 全ての言葉を肯定する。

 この場で即座に死ねと言われたとしても、俺はそれを肯定しただろう。つまり、これは俺にとってそういう意味しかない会話だ。

 だがニアヴにとっての意味は別。

 一言ごとに、朱色の支配面積が増えていく。


「妾を敬うことも畏れることもしない者など初めてじゃ……」

「それが俺だ」

「……ワーズワード。お主、本当に何者なのじゃ?」

「それこそ自分の目で確かめればいい。俺についてくれば、きっと、おもしろいぞ」

「きゅ、きゅうう……」


 手の力を抜き、その身体を解放する。

 一瞬名残惜しそうな表情を見せたニアヴだが、次の瞬間には驚異的な跳躍力で身を離した。


「…ふ、ふん! やはりお主は危険な男じゃ!」

「否定はしない」


 背を向け、腕を組み、フンと鼻を鳴らしす仕草は、昔何かのコンテンツで見たことがあるようなないような。


「ふふふ、じゃが!」


 振り返ったニアヴが吹っ切れた笑顔を見せる。


「じゃが、妾は面白いものが大好きじゃ! ワーズワード、お主は面白い。非常に面白いぞ! よかろう、お主について行ってやろうではないか!」

「そうか。助かる」


 扱いやすくて、本当に助かる。


 質の良い情報を得るためには、質の良い情報源が必要だ。

 シャルの知識が世間一般レベルであるのなら、魔法というものは、一般人が扱うことのできない特殊技術だということになる。

 となれば、次に同じく魔法の知識を持つ者に出会える可能性は、かなり低めに設定せざるを得ない。

 この身にまとわりついてくる光の粒、これが魔法の源であることは理解したが、それを独自に調査研究していくには、どれだけの時間が必要となるか判然らない。

 ニアヴの協力は、俺にとっては不可欠なものであった。


 そのために最も有効であると思われる手を、手段を選ばず使わせてもらった。

 手垢が付きまくった泥臭い芝居ロールプレイは、我ながら鳥肌ものだったが、結果が出せたので良しとする。

 運命の出逢いを演出する過程で、狐になにか別のことを勘違いさせたかもしれないが、誤解を解くのはのちのちでよかろう。


 話がまとまったのなら、これ以上のタイムロスは不要である。


「さて、聞きたいことはこの地の木の数ほどあるが――」

「あ、あははは」

「勘弁してくりゃれ」

「まずは目的の街へと向かおう」

「はいっ」

「ふむ。ユーリカ・ソイルか……考えてみれば人族の街に下りるのも久しぶりじゃな」

「街は嫌いか?」

「くっくっくっ、とんでもない、大好物じゃ! どんな面白いことが待っておるのかのう」

「……それは重畳」


 ニアヴは、巨大な青い虎に飛び乗ると、手招きをした。


「さあ、乗るがよい。【リープ・タイガー/飛虎】の足ならば、あっと言う間じゃ」

「乗っていいんですかっ?」


 それを肯定するように、飛虎はくるるると小さく唸ると、シャルが乗りやすいよう腰を下ろした。

 先ほどの虎の言葉はニアヴが遠隔で喋っていただけなのだろう。

 たとえ言葉が喋れないにしても、この虎に生物としての思考があるというのなら、それを一瞬で創り出す魔法とはすごいものだ。

 完全なAIは科学の極みにある地球ですら、未だ存在していないというのに。


「あ、ありがとうございます、飛虎ちゃん」

「くるる!」

あぶみくらもないだと……振り落とされないだろうな……」

「くふ、心配であれば、妾の腰にしがみついておっても良いのじゃぞ?」

「それは遠慮する」

「即答!?」

「さ、シャルは俺の前に。後ろから支えよう」

「はい、えへへ……」

「くっ、もうよいわ! 行け、飛虎よ!」

「くるるる!」


 まだベストの体勢が決まっていないのに、疾走を開始する飛虎。


「ちょま、お、おおおおおお!」


 三人と一匹は、情けない悲鳴を尾と引く、一迅の風に変わった。

 次なる舞台には一体何が待ちかまえるのか。



 そして、ワーズワードの冒険は続く。

区切りがいいのでここでエピ1おわりっ

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