Lycanthropes Liberation 15
書籍二巻発売記念回!
「テメェがリズロットなのかよ。話は聞いているぜ。このアタシを無視して、ルーキーとは一回会ってたんだってな」
「この姿でははじめまして、パレイドパグ。貴女は絶対ワーズワードの側に寝返ると思っていたけど、まさか最初っからだなんて、アルカンエイクもかわいそう」
「ハッ、そりゃこっちのセリフだぜ。片道切符は同じでも、アタシだけ到着先が化け兎の巣だなんてあの外道の手抜かりだろうが」
「貴女の事情はしらないけど、きっとアルカンエイクも予想外だったのだと思うわ。自分の用意した門を使わずにこの世界に辿り着くだなんて」
「どういうことだよ」
リゼルがオーバーアクション気味に驚きを表現する。
「アルカンエイクの技術でも、次元転移は一〇〇%の成功率ではないと言っていたわ。肉体から『ミーム』を分離する技術は完成しても、正しく異世界の門に辿り着けるとは限らない。もし辿り着けなければ、それは死ということになるのかしら、それとも意識を残したままの永遠の牢獄かしら」
「んなッ!?」
大口を開けて、鋭い犬歯を覗かせるパレイドパグ。
愕然とする駄犬に対し、リゼルは飄々としたものだった。
別なる世界への次元転移方法。それは現代科学の通用しない形而上の技術だ。今リゼルの言ったリスクは俺にも当てはまるものだ。シャルがいなければ、俺も計画失敗により死、あるいはそれ以上の暗黒に捕らわれていた可能性があるということだ。
いや、それよりも更に興味深い一言を口にしたか。
「『ミーム』と、そう言ったか」
「それがどうしたってんだ」
「ミーム認証。その技術の窃盗に成功したのは俺だけであるはずだ。しかし、アルカンエイクは俺より二年以上前にこの世界へ渡ってきていたという事実がある。奴が犯罪的手法に依らない『ミーム認証』の技術保持者だというのならば、そんな人間は世界に一人しか存在しない。その名は――」
「……そ、それってッ!?」
駄犬が声を上げる。それはそうだろう。巨大な名だ。そうだと確信できても口に出すことが憚られるほどに。
確かに闇に住人であるエネミーズだって皆人間だ。何くわぬ顔で日常生活を送る表の顔が必ずある。アルカンエイクにもそれが当てはまるのは当然だが、にしたってその名は大きすぎた。
そうか。そうであるならば――
「失言だったかしら? 世間話の一単語にも気を使わなきゃいけないなんて、ワーズワードとお話するのは大変だわ」
「……よく言う。わざとだろう」
サイラスの街での他人を装った接触といい、アルカンエイクの情報を俺に漏らす行為といい、コイツはコイツで読めないヤツだ。
「あの、私……っ」
突然の状況にオロオロと視線を彷徨わせるシャル。
サイラスでリズロット――リゼルとの接触もあったことは駄犬にしか話していなかった。
だが、リゼルの言動で自分が連れてきた人物が俺を死の一歩手前まで追い込んだかのニンジャ・ジャンジャックに並ぶ最大脅威の敵対者なのだということはわかったようで、ガクガクと足を震わせる。
久々に見る青ざめたシャルの姿だった。
「お前は下がっていなさい」
「フェルナ兄さん……はい」
円を描いて素早く回り込んだフェルナが妹を護る位置で冷気を帯びた剣を握る。
駄犬はすでにいくつかの源素の制御を開始しており、ニアヴもまた魔法・体術のどちらでも選択可能な臨戦態勢になる。
それら周囲の動きに、リゼルは一切対応する気配を見せない。
その余裕が、逆に皆を警戒させる。
読めないリゼルの態度を警戒する俺と入れ替わるように、パルメラが鋭く問いかけた。
「幽境不侵。ここはわたし、濬獣パルメラの治める治地だ。そこに侵入者があれば、わたしには必ず感知できる。けれど、君に関してはこうして目の前に現れるまでその存在を感じなかった。目の前にいる君の『聲』さえ聴こえない。こんなことはありえない。リゼルといったね――何者だい、君は」
コエが聴こえない……そうなるわけか。ニアヴに聞いた話と合わせれば、少なくともリズロットがパルメラ治丘内にいないという判断になるな。厄介な話だがまあいいだろう。状況の分析としては十分だ。
一方のリゼルがあまり興味なさそうに答える。
「犬のお耳。あなたがここの門番なのね。そのピリピリした態度はレニそっくりだわ」
「……どういうことかな。君はレニを知っているのか。彼女は今どうしている。無事でいるのか」
「もうっ、色々聞きすぎー。折角ワーズワードに会いに来たのに、全然お話できないじゃない。ぷんぷんっ」
「ふざけたことを」
バカにするような戯けた仕草。リズロットを知らぬパルメラは怒気を見せるが、俺は逆にああやっぱりコイツはリズロットなのだという感想を深くするばかりだった。
「パルメラの指摘でいくつか合点がいった。それはお前の『仮想体』なんだな」
俺や駄犬はこうして生身を晒しているが、リズロットは今でも仮の姿で仮の自分を演じている。あの名状しがたいジャンジャックですら、真実の己を晒してみせたというのに、リズロット一人だけがアバターを維持している。
だから俺がリゼルに持つ感想はベータ・ネットのリズロットそのままなのだ。
リゼルは否定せず、ポーズを決めて小悪魔なウインクを飛ばす。
「カワユイでしょ?」
「その姿をリゼルと呼べというのなら、その呼称設定は尊重するが、せめて会話だけはまともにしてくれ」
『リズロット』も『リゼル』もどうせ偽名だ。どう呼ぶのも別に構わない。
本人がそうしろというのなら、拒否する理由はない。
「そうでなくてもお前のキャラ立てはわざとらしすぎるのだ。テキストチャットなら気にもならないが、CVありでやられると違和感しかない」
「まあ。現実とアニメの壁、不気味の谷ってヤツね。私的にはアリだと思うのだけれど、本場生まれのワーズワードに言われるんじゃ、もう少し考えなきゃいけないかしら?」
言って、首を傾げる仕草。その『いかにも女の子なテンプレ動作』がもうダメなんだが、そういう機微が判然らない時点でリズロットが日本人でないことは確定だろう。
「待ちたまえ、ワーズワード。何の話をしているのかは知らないが、ここはパルメラ治丘だ。彼女が何者であろうと、歓迎されざる訪問者を自由にするほど、わたしは温厚ではない。わたしの直感が叫んでいるよ。あの子は――危険すぎると!」
レニという濬獣仲間の名が出たことも理由の一つかもしれない。
転移者や『エネミーズ』に関する一切の経緯を知らぬパルメラが制止する間もなく飛び出した。
「まあ。門番ってみんな好戦的なのね。一月前には何もできなかったけれど、今はどうかしら」
あの余裕、当然なにかあるのだろう。
今からパルメラを止めるのは無理。であれば、俺にできる援護はリゼルに源素図形を構築させない『魔法妨害』くらいだ。
その瞬間を見極めるべくリゼルの動きに注視する。だが、パルメラの爪が振りかぶられる瞬間にも、リゼルの身にまとう源素光量に変化はなかった。フェルナにも満たないわずか光量のままだ。
――バカな、源素を出さないだと?
であるのに、スッと持ち上げられたリゼルの右腕に魔法なしではありえない白光が輝いた。指向性を持って収束する光の線が一直線に伸び、一瞬のうちに上空の雲を突き破った。
信じられない。源素を制御する様子も見せず、奴は何をしたんだ。
「えーい、リゼルちゃん必殺『ライト・セイバー』ぁ」
リゼルの右腕が無造作に振り下ろされる。その手につながる光の刃――
その切っ先は確かに、雲を切り裂いた。
白光はそのままパルメラの頭上に落ちてくる。
「な、に……」
「パルメラ――――!!」
ニアヴの叫びと、耳を被わんばかりの爆音が重なる。
地上まで到達した光の刃が大地を一直線に切り刻んだのだ。
岩を砕き、樹木を倒し、地面を穿つ。同時、住処を奪われた多数の鳥類が空に舞い上がった。
もうもうと土煙が立ち昇る。リゼルを起点して、遥か見下ろす下界の彼方まで一本のまっすぐな線が引かれていた。その破壊の痕跡は何キロ先まで続いているものか、それすら確認できないほどだった。
円を描くようにリゼルを取り囲んでいたことで、他に巻き込まれた者がいなかったことだけが唯一の救いだと言えるだろう。
あまりの出来事に腰が抜けたのか、目尻に涙を浮かべたセスリナがぺたんと地面に腰を落とした。
「はわわわわ……『アルテシア』……」
「アルテシア? あの魔法を知っているのか」
疑問を口にする俺に、セスリナの代わりにリストが答える。
「……『アルテシア』。世界中で最も有名な七大アーティファクトっていうのがあるんだ。その内の一つ、七つの中でも一番有名なマジック・アーティファクト。雲を切り裂く世界最強の剣……その名前が、乾坤剣だよ」
乾坤、即ち天地剣か。その名の通り、天から地までを一直線に切り裂く魔法効果を宿したアーティファクトなのだろう。
俺が目にしている、この光景がまさにそれだ。
『古の王国』時代にのみ存在した強大な魔法の【プレイル/祈祷】は失われ、同じ魔法を宿すマジック・アーティファクトだけが遺された。人はただ、定められたコマンドワードによりその魔法効果を呼び出せるのみ。
だが、俺たち地球からの転移者であれば、アーティファクトの中に封じ込められた源素図形を『視る』ことができる。源素図形さえわかれば、どのような強大な魔法も失われた秘術も【プレイル/祈祷】も【コール/詠唱】も必要とせず通常魔法として再現可能。
それは俺が『アンク・サンブルス』で行ったとおりの解析手法である。
山を下る風が土埃を吹き散らす。
破壊の線上――そこには、肉体を分断されたパルメラの姿があった。医師資格を持たない俺でも最悪の致命傷であると一目でわかる。
腕の一振りで天地を別つ光の刃は、たとえ濬獣の身体能力をもってしても回避不能だったのだ。
「パルメラ!」
急ぎ駆け寄るニアヴ。
同時、パレイドパグが叫ぶ。
「ザケンな、こんな……こんなんでくたばってンじゃねェ――ッ、化け狐ェ!」
「心得ておる!」
振り向きもせず呼応したニアヴが、切り離されたパルメラの身体を半ば強引に引き寄せ、無理やりにつなぎ合わせた。
「――【ドッグドック/犬医】ッ!!」
コンマの時間も置かず、パレイドパグが治癒魔法を発動させた。
柔らかい光が傷口を覆ってゆく。魔法は確実に発動している。
だとしても奇跡を祈るその僅かな時間が、ニアヴには永遠にも感じられたことだろう。
「……かはッ」
小さく呼吸を取り戻したパルメラが、呼気と同時に血を吐いた。
苦痛の呻き。だがそれはパルメラが生命をつないだことの証明でもあった。
古い友人を強く抱きしめるニアヴ。
「パルメラ、良かったのじゃ」
「九死一生。……ありがとうニアヴ、姫君。それに、ワーズワード。これは……君のおかげだね。【犬医】の詳しい魔法効果を聞いていなければ、きっと今わたしは生きていなかっただろう。君の話を聞いていたからこそ、直前半身を捨ててでも生命を残す選択ができた。どのような形であっても生命さえつなげば、あとで君たちが必ず助けてくれるだろうとね」
「喋るでない。今はそのようなことは言わずともよいのじゃ」
弱々しい微笑み。
生死を分けたのは、パルメラのとっさの判断力だ。そして、言葉すら後にするパレイドパグとニアヴの連携プレーがパルメラを救ったのだ。
「ハァハァハァ」
最大速度かつ最大限に精密な源素制御で精神力を使い果たしたのか、パレイドパグもまた、大地に腰を落とした。
「よくやった。パレイドパグ」
「この、パレイドパグ様を、なめンなってん、だ」
そこにパチパチと拍手が鳴らされる。
「ほんと、お見事。なにより狂犬・パレイドパグが誰かと協力して、他人の生命を救うなんて、ちょっと感動したわ」
『ベータ・ネット』のパレイドパグしか知らないリズロットからすれば考えられないことだろう。
パレイドパグはギリリと歯を食い締め、リゼルを睨み返す。
「リズロット……テメェは本気だってことなんだな」
「本気。私が?」
睨みつけるパレイドパグにリゼルは心底不思議そうな反応を見せた。
俺もまた、肩をすくめてみせる。
「まさかだな」
「ええ、まさかだわ」
「ああ?」
「パレイドパグ。今の魔法、リズロット――リゼルが腕を縦ではなく横に振っていればどうなっていたと思う」
「そッ、それは」
瞬時に理解したパレイドパグの顔がこわばる。
だが、奴はそうはしなかった。
今の一撃は『七大アーティファクトに数えられる最強の魔法を使うほどの本気』を見せたのではない。『適当な魔法で振りかかる火の粉を振り払っただけ』なのだ。
リゼルにとってパルメラの生死などどうでもよく、故にすぐ目の前で行われた救出劇にも一切の手出しをしなかった。
アバターでしかないリゼルに濬獣の中でも最も永く生きる白耳が、触れることすら叶わない。
あらゆる魔法を自由にする転移者は厄介にすぎた。
「ご、ごめんなさいっ、わた、私がこの方を案内してきたせいでっ!」
自分がリゼルを案内してきてしまったのだという罪悪感に泣き崩れるシャル。
「落ち着け、シャル。お前は悪くない。ただお前が最初に出会っただけだ。それが誰であろうと変わらなかった」
「フェルナの言うとおりだ。悪い悪くないでいえば、リゼルが一番気持ち悪い。それだけだ」
「まあ! ワーズワードってば、ひどーい」
「いや、だってお前中身は男だろうが。気持ち悪い以外にどう表現しろというのだ」
「えー。いくらワーズワードだって私のプライベートは知らないでしょ。本当の私もパレイドパグみたいにロリロリした幼女かもしれないじゃない」
「その表現がもうな」
きゃらきゃらと笑うリズロット。
「それはそれとして、お前がライト・セイバーと呼んだ『アルテシア』の源素図形を教えて欲しいのだが。ああ、源素というのはアルカンエイクが『妖精の粉』と呼ぶ、この光の粒のことだ」
「え-。それはナイショ」
「では源素を見せずどのように魔法を発動した?」
「だーめ。女の子には秘密が多いの」
「だから、そのわざとらしいウインクをやめろというに」
気心のしれた友人同士のような会話を始める俺とリゼルに、ニアヴが理解不能の表情を作る。
「お主……倒れたパルメラを前になぜ其奴とそのような会話が気安い会話を交わせるのじゃ」
「これが俺たちの流儀だとしか言い様がない。それを言えばニアヴ、俺たちの事情を多少でも知るお前こそがパルメラを制止すべきだった。無害そうに見えても、こいつは俺と同じ異世界転移者。源素の見える俺たちの使う魔法の脅威については、お前が一番理解していたはずだぞ」
「返す言葉もない。見た目に惑わされ、見誤ったは妾の不明じゃ」
反省すべき点を即座に反省するニアヴ。
それは狐の美点である。
「ともかく、ジャンジャックのように、とりあえず俺を殺してみようという考えではないのだろう。本題を聞かせてもらおうか。お前がアルカンエイクの誘いに乗った、その理由を」
「さすがワーズワード。話が早いわ」
『エネミーズ12』リズロット。
リズロットの作る違法アバターは、よく強毒性の電子ドラッグに例えられる。
それはアイシールドさえあれば、誰でも気軽に入手できる最上の快楽だ。他者を傷つける類のものでない分タチが悪く、広い戸口で多数を誘う。エデンの住人ですらヘビの誘惑には逆らえなかったのだ。その子孫である現代人がどうして自制できようか。
仮想であるがゆえの完全なる肉体を自由にする甘美。その誘惑は砂糖菓子よりなお甘く、一粒のあめ玉よりもなお安い。なにせ全ては無償だ。リズロットの『無償の愛』に汚染されたインターフェイスを指して、感応入力ならぬ官能入力とはよく言ったものである。
蝕まれるのは健全なネット空間。あるいはネットを利用する全ての男女。
自己選択による手ずの堕落に出口はない。一度ハマれば社会復帰は困難だ。
それこそがリズロットの引き起こすサイバー犯罪の本質だ。
そんなリズロットだが、俺がヤツとベータ・ネットで交わす話題はアバター作成に関する技術論でなければ、時季ニュースに今期アニメの批評など、おおよそ犯罪とは無縁の日常話ばかりだった。
パレイドパグ以上の古株であるリズロットに気を使い、振られる話題にまともな返事をしている内になぜかなつかれてしまったというのが俺の感想だ。相手を『エネミーズ』にナンバリングされるほどの高技術保持者と思い、無条件に丁寧な対応をしてしまったという新人特有の失敗である。
駄犬含め、最初から犯罪者扱いで丁度良かったのだ。
何にしろ、そんな経緯でリズロットとはベータ・ネットの中では最も友好的な関係となった。すぐに噛み付いてくる駄犬と違って、会話自体はまともにできる相手だったからな。
故に、リズロットがアルカンエイクの誘いに乗った理由も悪ノリ以外思いつかない。
思いつかない以上、その理由は本人に直接聞くしかないだろう。
リゼルが瞳を瞬かせる。
本物の人間と変わらない、よくできたアバターだ。現実としてあり得ない以上、まあそういう魔法なのだろうが。
そして、口を開く。
「あなたは知らなかったと思うけれど、私はアナタのことがずっと好きだったの」
「そうか。死ね」
「そう言わないで聞いてってば。聞きたいでしょう、私の目的?」
「一瞬どうでもよくなったがな。話したいなら聞いてやるからとっとと話せ」
「そうでなくちゃ」
皆の耳が理解不能の困惑を示す。『ベータ・ネット』において、敵と味方の境界線は曖昧なのだ。
「私は『人』が好きなの。そして、人の生み出す物語が好き。でも今の地球には私の心を震わせるような英雄は存在しない。英雄とは切り開く者。開拓され尽くされた、完成した世界には英雄が生まれる余地がない」
――それは。その感想は。
「仮想空間。それはまさに革命だったわ。行き詰まった人類が自ら生み出した、思考の速度を持った新しい世界! そして、新しい世界には新しい英雄が生まれる。私はそれを見つけたかった。と言っても、私の目だけで見つけるにはちょっと今の人類は多すぎる。『選別』が必要だと思ったの」
「まさか、お前の作る違法アバターは――」
「私が与えるのは『無償の愛』。タダの愛に堕落する魂なら『観察』する必要はないでしょ? 私の求める英雄はもっと大きな愛を持っているはずですもの」
「……んだ、そりゃ。テメェ、アニメばっか見てるギーグ野郎じゃなかったのかよ」
「もちろんアニメは素晴らしいわ。アニメもたくさんの英雄が存在する世界ですもの。なにより、ジャパニメーションは面白いじゃない!」
日本のコンテンツを褒めてもらえるのは嬉しいが、コイツの作る違法アバターはなにせ違法というだけあって、著作権やらなんやらを一切無視してるのが問題だな。
リゼルの言うヒーローはともかく、違法アバターの作成にはコイツなりの目的があったんだな。そこは素直に驚いた。
それにしても、ネットに関わる全ての人間をふるいにかける選別のために愛という言葉を使うとは……同じ『愛』でもパルメラの語る愛と、リゼルの語る愛は別物にすぎる。
「で、それとアルカンエイクに手を貸す理由がどうつながる」
「あら。前に言ったはずよ、ワーズワード。『あなたはもっと大きなことをすべき人』だって」
「まさかとは思うが」
「そのまさかね。私の『観察眼』が見つけた現代の英雄は二人。一人の名はアルカンエイク。そしてもう一人がワーズワード。あなたよ」
いやいや。いやいやいや。
「どっちも完全に犯罪者の名前だな。ベータ・ネットではそのどちらともくだらない話を交わしているだろうに、お前の観察眼とやらは腐ってるのか」
「ええ、ふざけているように見えたでしょうね。私以外の目には。どちらも才能がありすぎるが故に、並の相手には本気を出すことができないだけだわ。相手が同じ『エネミーズ』であっても」
「…………」
「でも喜んで。あなたの相手はあなたと同じ才能を持つアルカンエイク。あなたはやっと『遊び』ではなく、本気を出せる。それは生の『英雄の物語』を求める私の目的にも合致する」
楽しそうに、嬉しそうに。己を語るリゼルに誰も口を挟めない。
「だからワーズワード、私に見せて――アルカンエイクを倒してこの国を救って見せて!」
はっ。ふざけろ。
リズロットさん乱視疑惑。