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卒業式を覚えていない大人の、三月の回想

作者: モンク
掲載日:2026/03/24

三月になると、ふと昔の自分を思い出します。

胸の奥に残った、少しほろ苦い記憶について書きました。

春の足跡が聞こえはじめる三月は、いつのまにか卒業の季節になっている。

駅前やコンビニの前で、少し大人びた顔をしながらも

どこか不安そうな表情をした女子高生たちを見かけると

「ああ、卒業式だったんだな」と思う。真新しい制服よりも

もう着ることのない制服のほうが、彼女たちには似合っているように

見えるのが不思議だ。仲間と笑い合い、写真を撮り

名残惜しそうに校舎を振り返る姿を見ていると

こちらまでほほえましい気分になる。


けれど、そういう光景を目にするたび

少しだけ胸の奥がざわつく。振り返ってみても

自分の卒業にまつわる思い出が、ほとんど浮かんでこないからだ。

感動的な別れの言葉も、涙をこらえた瞬間も

胸に刻まれた何かもない。卒業とは「通過した出来事」ではあっても

「記憶に残る出来事」ではなかった。


高校生のころの自分は、尾崎豊が歌った『卒業』の世界に

ある意味で近かったのかもしれない。

実際に校舎を壊したいと思ったわけではないが

学校という場所がとにかく嫌だった。

教師が嫌で、決められた規則が嫌で、全体主義のような

空気が息苦しかった。自分の考えや感情が尊重されることはなく

ただ「こうあるべきだ」という型にはめられているような感覚があった。

毎朝、制服に袖を通すたびに、自分が少しずつ

すり減っていくような気がしていた。


友だちがいなかったわけではない。話をすれば笑うし

冗談も言った。ただ、その笑いはどこか表面的で

心の奥から湧き上がるものではなかった。

学校が終われば、できるだけ早くその空間から逃げ出したかった。

卒業とは、自由への扉であるはずなのに

自分にとっては「やっと終わった」という安堵感しか残らなかった。


大学に入れば何かが変わるだろう、少なくとも高校とは

違う風景が待っているだろう、そんな淡い期待はあった。

しかし現実はそう甘くなかった。大学には自由があったが

同時に放置もあった。やる気にさせてくれる何かと出会うことはなく

心を燃やすような講義も、人生を変えるような人間関係もつくれなかった。

当時出始めたテレビゲームに没頭し、一日中コントローラーを

握っている日も珍しくなかった。講義にはほとんど出ず

単位のことを気にしながらも、本気で何かに取り組むことはなかった。


今思えば、あの時間は自由だったはずなのに、同時に空虚だった。

自分で選び、自分で責任を取れる立場にいながら、何も選ばず

ただ時間だけを消費していた。大学生活の思い出を語れと言われても

浮かぶのは薄暗い部屋とテレビ画面の光くらいで

青春と呼べるような一コマはほとんど思い出せない。


時々ふっと、「もし違う学生時代を過ごせていたら」

と考えることがある。あのとき、もう少し教師に

反発するのではなく対話していたら、何かが変わっただろうか。

大学でゲームではなく、熱中できる何かを探していたら

人生は違っていただろうか。サークルに入り

仲間と語り合い、失敗し、悩み、涙を流すような日々を送れていたら

卒業の思い出ももう少し色のあるものになっていたのかもしれない。


しかし同時に、そんな自分はたぶん存在しなかっただろうとも思う。

あの時の自分は、不器用で、臆病で、どこか諦めが早かった。

環境のせいにしながら、本気で環境を変えようとはしなかった。

だからこそ、あの学生時代だったのだと思う。後悔はあるが

後戻りできない以上、それもまた自分の人生なのだと受け入れるしかない。


卒業式の日、胸を張って笑っている若者たちを見ると

少し眩しく感じる。彼らには彼らの悩みと不安があるのだろうが

少なくともその瞬間を「節目」として感じ取れていることが

少しうらやましい。自分にはなかった感覚だからだ。


それでも今は、自分なりに生きている。

学生時代に何も掴めなかったからといって

その後の人生がすべて空白になるわけではない。

むしろ、遅れて少しずつ、自分なりの答えを探してきたようにも思う。

春になるたびに過去を思い出すのは、ほんのりとした苦みを伴うが

それもまた悪くない。


春は、新しい始まりの季節であると同時に

吹き過ぎた時間を静かに振り返る季節でもあるのだから。




春になると、どうしても昔の自分を思い出してしまいます。

胸の奥に残ったほろ苦さは、もう消えることはないのかもしれません。

それでも、あの頃の自分もまた自分だったのだと、

少しずつ受け入れられるようになりました。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


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