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第六王子の汚い水は全てを呑み込む  作者: まんぼうしおから


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6・蒼炎、初めての敗北

「姫さま、その姿はなりません!」


 審判──パトラさんが皇女を制止する。

 ルール違反を止めようとしてる……という様子じゃない。

 慌てている。

 明らかに焦っている。

 皇女さまはかなりまずいことをしているようだ。


 禁じ手ってやつかな、これは。


 そこまでして僕に勝ちたいんだ。

 この執念……勝ってどうこうしたいとかじゃなく、勝つことそのものが目的と化してるとみていいね。


「今の姫さまにはその術はまだ早すぎます! 使いこなすどころか、己の身を害しかねません! 危険な真似はおやめ下さい!」


 そうらしい。

 かなりまずいようだ。


 僕には具体的にどう危ないのかよくわからないが、こんなに必死に言うんだから、そうなんだろう。


「早いも遅いもないわ。害となるのなら、今日この場で使いこなしてみせる。魔術ひとつ従えられずして、何が皇女よ!」


 そういう問題かなぁ。

 無理なものは無理だって。その理屈で押し通せるならキミに不可能なんか無いことになるじゃん。

 勢い任せでなんとかならないと思うよ。


 キミの意見と、護衛役の意見。

 僕なら後者を支持するな。


「そこまで本気にならなくても」


「ここで本気にならなくて、いつなるの!」


「ならなきゃいけない時があるとしてもさ、それって、今ではないんじゃないかな」


 なんだか、なだめればなだめるほど逆効果な気がしてきた。

 が、やっておかないと後々困ることになるかもしれないので、やっておこう。


 勝負のあと、もし、何か深刻な事態になった時、どうしてお前も彼女を止めてやらなかったのだと、父上や兄さんたちに激しく追及されるのは確実だ。

 そうなった時。

 こうしてなだめておけば、その事実で一応の言い訳はたつ。


 冷遇されるのは別にいい。

 そんなの今更だが、この王宮から追放されたりするのは困る。

 一生ここで苦労なく過ごしたいのに、こんなことで安心安定安楽な生活を失うわけにはいかないんだ。


「いいえ、今よ。この一戦、この一時こそが──その時よ!」


 その言葉を皮切りに。


 冷静さを欠きつつある火の精霊もどきによる、怒涛の攻めが始まった。





 ──そうして。





「…………」


「いやー苦労したよ。まさかさ、こんなに手強いなんて思わなかった。あそこまでやるとはね」


「…………」


「そうですよ姫さま。見事な戦いぶりでした。それに、先ほどの禁術も、完全な制御とまではいかなくてもコツは掴めたのでしょう? 得たものがあったではないですか」


「…………」


「名勝負でした。最後まで目が離せなかったです」


 僕。

 パトラさん。

 ボニー。


 僕ら三人は、だんまりのまま両膝抱えてしゃがみこむファルティニア姫を囲み、機嫌が直ってくれそうな言葉をかけていた。



 使っちゃいけない奥の手まで用いて挑んできた皇女さまだったが、結果はこの通り。


 僕の勝ちである。


 波乱も番狂わせもなし。

 短期決戦を選ぶしかなかった彼女は、僕からの攻撃を受けてではなく、絶え間ない魔術の使いすぎで体がよろめくほど体力が減りすぎて、負けとなった。僕はほとんど消耗もなかった。


 皇女さまが本気になってから。

 僕は、まともにやり合わなかった。


 彼女が思いきりよく腕を振って飛ばしてくる、炎の三日月。

 鳥の羽のような形をした、無数の火の矢。

 直径三メートルくらいある、どろりとした燃える泥の塊みたいな火球。


 最初こそ、見極めのために全て『大食らい』に呑み込ませていたが、だいたいの特性がわかってからは、僕のトレーニングも兼ねてそれぞれ別のやり方で対処することにした。


 三日月は、同じくらい魔力を込めた水の盾で。

 無数の火の矢は、無数の水のナイフで。

 泥の火球は、当たったら弾ける性質のようなので、威力度外視の、ほんの数ミリの水球を高速で飛ばして。


 異なる三種の攻めを完全に防ぎきった。

 そして、こちらから攻撃はせず、あちらの体力切れを狙ったのである。


 それには理由があった。


 積極的に攻撃をしないことで、


『攻撃を仕掛けるほどの余裕はなかった』

『まともにやり合えば負けるから、持久戦に逃げた』


 つまり、皇女さまは試合にこそ負けたが勝負には勝ったと、そう結論づけることもできる終わりに仕立てたのだ。


 これなら負けた彼女にも、一応は花を持たせることができる。

 卑怯なやり口に引っ掛かったが、それでも最後まで諦めずに戦ったと、彼女自身がそう認識してくれたら、負けたことへの屈辱も薄まるだろう。

 僕の知略が光る一計だ。



「…………」


スッ


 ファルティニア姫は、石像と化したようにしばらく動かなかったが、不意に立ち上がった。


 泣いては…いない。

 いや、それどころか、スッキリしてる。

 悔しさを受け入れた悲しい顔ではなく、負けたことへの踏ん切りがついたという、落ち着いた顔だ。


「ラハブ王子」


 皇女は、改めて僕に向き直ると、



「私の負けよ。完敗だわ」



 なぜか、苦々しさのない、それどころか頬を赤くして、はにかんだ笑みを浮かべながら負けを認めてきたんだけど……どゆこと?

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