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第六王子の汚い水は全てを呑み込む  作者: まんぼうしおから


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3・蒼炎皇女との初対面

 応接間。

 客人を迎え入れたことなど、僕が住まうようになってからわずか数回しかなかっただろう、この部屋にて、



「ごきげんよう、ラハブ王子」


「はじめまして、ファルティニア姫」


 第六王子である僕と。

 第三皇女である彼女。

 互いに、何の飾り気もない、必要最低限の挨拶を交わす。

 こうして、僕らの出会いは幕を開けた。



 険悪とか、不機嫌だから言葉少なめってことではない。

 何しろまだ初対面。

 お互いのことなど何も知らないんだから。


 単に、僕はあれこれ付け加えるのが面倒だったから、さっぱりとした初手だったんだけど……彼女の場合は僕とはまた違う理由だろう。


 余計なものなど不要。

 質実剛健。


 顔つきがそんな思想を現していた。

 そう思えてならない、そんな立ち振舞いをしていた。


 大きく、力強い蒼の瞳。

 赤いリボンで縛り、ポニーテールにしてる髪の色も、同じく蒼。

 自信に満ち溢れている笑み。


 これが、帝国の第三皇女だと。

『蒼炎皇女』の異名で知られる、ファルティニア・ルシエ・ゼルガルなのだと、どうだまいったかと言わんばかりの顔で。


 ちなみに顔はさすがに蒼くない。



「……聞いていた話とは、違うわね」


「ん?」


 聞いてた話と違うわね、か。

 いきなり砕けた物言いで突っ込んできたね。


「その口ぶりでは、あまり嬉しい評判じゃないみたいですね」


「そんな馬鹿丁寧に喋らなくてもいいわ。お互い同い年の、まだ子供なんだから」


「しかも非公式のお忍びだから?」


「そうよ」


「姫さま」


 皇女の背後に立つ、軽装の女性が口を開いた。


 護衛なのだろう。

 武器は……特に持ってない。ナイフの一本くらいはひそかに忍ばせてそうだけど。

 でも、きっとその気になったら、ナイフなんかなくても並の兵士を素手で取り抑えるくらいはできそうな、ただ者じゃない雰囲気がする。

 だからこそ一人で護衛についているんだろうね。


「皇族に連なる者の一員として、そのような礼儀を欠いた口調はいかがなものかと」


「別にいいでしょパトラ。彼も気にしてないようだし……」


「それに、そもそも汚水王子なんかに礼を尽くすこともない──とか?」


 部屋が静まった。


 ちょっとした冗談のつもりだったんだけど。


 皇女と護衛のお姉さん、この二人の会話に割り込むと、あまり面白くなかったのか、妙な沈黙が部屋を支配した。

 メイドさんも、皇女さまも、護衛さんも黙っている。


「たちの悪い質問ね」


 沈黙から、数秒の間を置いて。

 皇女が喋り出した。


「図星だった?」


「フフッ、いいえ。大外れよ」


 皇女が笑った。

 楽しそうに。


 年齢に見合った、可愛い笑いだと、そう思った。


「帝国は実力主義。私もその主義に従い、優れた者として相応に振る舞うの。汚れているとか、悪しき力を持っているとか、そんなことで見下すつもりはないわ。強いか弱いか、それが全てよ」


「清々しいほど殺伐としてるなぁ……」


 国そのものがそんなことだから、周りの国々が頭を悩ませるんだよ。

 はた迷惑だなー。

 だったら、そっちの国と同じくらい大陸の悩みの種になってる、北の果ての魔王国とでも延々やり合ってればいいのに。


「てっきり、高飛車な態度で馬鹿にするつもりで会いたかったのかと」


「そんな下品な趣味はないわね。理由は別よ」


 ん。


 理由ね。

 僕としても、それは聞きたいことだ。


「どんな理由なのかな。説明願いたいね。できたら、わかりやすく」


「わかりやすくも何も、難しいことじゃないわ。とても簡単な、たったひとつの理由だもの」


 皇女が、右手の人差し指をピッと立てる。



「勝負するために来たのよ。あなたの水の魔術と、私の火の魔術、あなたと私、どちらが上か。どちらが勝つのか」



 勝負。

 そうきたか。勝負のためときたか。



 ……う~ん、めんどくさ。



「気乗りしないという顔ね」


「まあね」


 どっちが強いかなんて何の興味もないもん。

 強いからなんだっていうんだよ。


「でも、怖いから嫌……という風ではないように見える。やっぱり事前に聞いていた話とは違うわ、あなた」


「さっきも言ってたね、そんなこと。もしよかったら、具体的にどんな話なのか教えてほしいな。少し聞きたくなってきたよ」


「教えてもいいけど、傷つくわよ?」


「だいじょーぶだいじょーぶ」


「ならいいけど……」





 皇女さまが、手短に語ってくれた内容。

 それについてだが、


「……ま、そんなところだろうね」


 予想はついていたし、思わずうならせてくれるような、真新しいものはなかった。


 引きこもりの汚水使い。

 ドブを作り出す程度の力しかない王子。

 聖なる力に怯え、昼も夜も住まいから出ない臆病者。


「会ったことも見たこともないのに、よくこんなに、真実のようにいくつも語れるものね。この国は民の想像力まで豊かなのかしら」


 皇女は僕に言うだけ言うと、呆れて天を仰ぎ、皮肉を吐いた。


 なんだろう。

 当の本人である僕が至って平静で、一切関係のないこの少女が不愉快そうにしているのが、おかしな、あべこべな状況で、それがなんか面白い。


「くだらない話はもう、このくらいでいいでしょ?」


「いいけど……」


「まだ何か、聞き足りないことでも?」


「なんで僕なの? よりによってこんな引きこもりを」


「歳が近くて、かつ美味しそうなのは、だいたい平らげたからよ。あなたのお兄さん、第五王子もね」


「もう倒したあとだったんだ。しかも第五……レオン兄さんまで」


「前口上は立派だったけど、中身は追いついてなかったわね。ただ派手なだけの薄い雷。……終わってみれば、メインディッシュどころかおやつだったわ」


 口だけだったってことか。

 この子のお気に召さなかったみたいだね。


 実力のわりにプライドかなり高いからな、レオン兄さん。

 負けたあと、凄い荒れただろうな……周りに八つ当たりしまくってそう。ピカピカ光りながら。


「要するに、食い足りないと思ってるときに、悪名高い僕に興味がわいて、つまみ食いを急に決めたと……そういうことでいい?」


 何も言わず、皇女が微笑む。

 それで合ってるという、肯定の笑みだ。


「そっか」


 これはもう、逃げられそうにない。


 情けなくガン泣きして拒否とかしたら、やる気を萎えさせてバトル回避できそうだけど、そこまでするのもね。

 一戦交える前から泣くってのは、ちょっとみっともないよなー。


 なら、まあ……やるしかないか。


 やりたくないけど、やらざるを得ないし、自分の力に自信がないわけでもない。むしろ自信はある。


「──それで、勝負ってのは、具体的にどんなことするの?」


「あら、乗り気になったみたいね」


 そういうわけでもないんだけど……と言おうとしたけど、それより先に、


「そうね。どちらかが動かなくなるまでとか、そこまで際どいことはしないわ。やり方は──」


 嬉々として語り始めたので、水を差すのもあれかなぁと思い、やめておいた。

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