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嫌われ者の第六王子は水魔術に没頭しながら安楽生活がしたいだけなのに  作者: まんぼうしおから


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2・来訪する人気者

 慌てて……というほど、急いではいない。

 けど、のんびりもしていられない。

 気まぐれな人物というのは、気まぐれなだけあって、いつ来るかわからないからね。

 現に、突然僕に会おうとしてるわけだし。


 早めに正装に着替えておこう。それに越したことはない。



 衣装部屋。


 大きな姿鏡の前に、久しぶりに立つ。


 鏡に映る、薄い銀髪の美少年。

 僕が服を着替えると、彼も同じものに着替える。

 僕が髪をとかしてもらうと、彼も同じ櫛でボニーに髪をとかしてもらう。

 僕が微笑むと、彼もまた同じように優雅に微笑んだ。


 最後にこんなきちんとした姿になったのっていつだったかな。

 鏡の中にいる僕を見つつ、思い返す。

 う~ん…………。


 ……駄目だ、さっぱり思い出せないや。記憶のとっかかりすら見つからない。


 よし。


 諦めよう。


 これはあれだ、たぶん最初から覚えてないんだよ、きっと。


「それにしても……」


「どうかしましたか?」


 無駄のない手付きで僕の身なりを調えながら、ボニーが訊ねてくる。

 好ましくない仕事であろうと、やるべきことは手際よくやる。それがこの人の信条らしい。


「いや、なんで僕になんだろうかな……ってね」


『汚水王子』


 そんな侮蔑の呼び名が広まっているような王宮の嫌われ者に会いたいだなんて、奇特なお姫さまだよね、まったく。



 ……………………ん?



 あれ?


 ……王宮の…………嫌われ者……その原因、理由は僕の……。



 …………そうだ。

 そうだった。


 僕の最後の正装。

 まともな装い。


 あのときが、最後だったんだ。





 ──今でこそ、こんな腫れ物以下の扱いな僕だけど。

 産まれてからしばらくは、祝福されていた。


 本当だ。


 第六王子。

 いなくてもいいけど念のためみたいな、兄さんたちのスペアのスペア的存在ではあったけど、他国の姫とか、国内の有力貴族の令嬢とかに、お婿さんとして送り出すくらいの使い道はあったはずだ。

 だから大事にされた。


 水の属性があり、そのため魔術を使えるであろうことも、僕の価値をさらに高めた。

 魔術は誰にでも使えるものじゃない。

 生まれ持った才能が全てであり、僕にその才能があったから。

 だから誰もが喜んでくれた。



 だけど。



 二年前のあの日。

 父上や母上、兄さんや姉さんたち、貴族の方々、聖職の方々の前で、ちょっぴり緊張しながら初めての魔術を披露して──





 ……ん~。


 いや、酷かったねアレ。アレは我ながら酷いことをしたね。



 僕はそんなに気にならなかったけど、その場で胃の中身を戻す人が続出したくらいには、強烈だったようだ。


 意気揚々と、僕が軽くかかげた両手。

 何かを優しくすくうときのような、手の形。

 その形の手からドバドバと止めどなく溢れ出てきた──清らかさとは無縁そうな、濁った水から漂ってきた臭い。

 悪臭。



 広間は大騒ぎになった。



 唖然とする僕の家族。


 僕の手から溢れた汚水。

 そこらじゅうで吐き出された汚物。


 右を見ても左を見ても阿鼻叫喚。

 どの方向にも、わめき苦しむ人と、その人たちが吐き出したものがある。

 中には、呼吸困難になりかけてるデリケートな人までいた。


 高位の神官さんたちは浄化や清浄の魔術を駆使して、僕の出した水とその臭いを消そうと頑張っている。



 まだ六歳だった(今でもまだたったの八歳だけど)僕の頭でも、大変なことが起きたと、大変なことを起こしてしまったと、そう理解できた。



 それ以後。



 僕は誰からも避けられるようになった。

 王族の血を引いていながら、不快な存在だと煙たがられた。


 住まいも変わった。

 王宮の端っこにある、華やかさとは無縁のここになった。追いやられたわけだ。


 聖属性や光属性の魔術でも簡単に消せなかった、ただならぬ濃度の汚水。

 本来なら、そんなものを生み出す者など、とっくに王宮から放逐されて当然だったんだろうけど……。

 僕が王子であるため、それもできず。


 仕方なく、半ば幽閉みたいな感じで、こうなったというわけだね。





(あれから二年かぁ)


 もっと長かったような気がする。

 けど、そんなものか。


 時ってのは思ったよりも早く進むみたいだ。


「その第三皇女さまだけど、やっぱり、ここに来るのはお忍び?」


「はい。公式な面会とはならないようです。今回の件について把握しておられるのも、国王様を含め、わずか数名だとか」


 淡々と、ボニーが答えた。


「王国に親善のため訪れたこと、それ自体は周知の事実なのですが」


「ふーん」


 全然知らなかったけどね、僕。

 今知ったよ。


 そのくらい教えておいてくれても……いや、いいか。

 (まつりごと)から切り離されてる生活を送ってる僕なんかには、どうせ関係のない話だからね。

 すねてるわけじゃない。ただの事実だ。


 まあ今回はもろに関係あるんだけど、たまにはそんな例外もあるさ。


「どんな子なんだろ、その皇女」


 名前しか聞いたことないや。


「お美しく、実力人気も申し分なく、そして苛烈な方だと聞き及んでおります」


 苛烈。

 これはまた、僕とはとても相性悪そうな言葉だね。水と油だ。

 しかも人気者ときてる。


 こんな離れにひっそり住んでる、気持ちの悪い嫌われ者って立ち位置の僕とは、まさしく正反対。

 真逆とはこういうことを言うんだね。顔のよさならいい勝負かもしれないけど。


 なんだろ。


 めんどいなーって思ってたけど……少し興味がわいてきたぞ。


「僕と同い年だっけ?」


「はい」


 それが理由ってこともないよね。

 年齢いっしょだからお友達になりたいなんて、それはないでしょ。

 あったら仰天だよ。

 なら、何を考えて僕に会おうと思ったのかな、件の皇女さまは。

 

 やはり……直に会わないと、この謎は解けそうにないか。

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