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嫌われ者の第六王子は水魔術に没頭しながら安楽生活がしたいだけなのに  作者: まんぼうしおから


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19・悪巧み

『聞き水』


 僕の編み出した水魔術のひとつであり、その効果は、

『魔術で作り出した水を通じて、揺れで、会話や音を聞き取ったり、周囲の生物や物体の形や動きを感知する』

 というものだ。


 水というのは、

 水溜まりだったり、

 コップなどの容器の中の水だったり、

 流れてる水や、

 天井などから滴る水滴でも構わない。

 ただ、僕の水がそこにあればいい。


 当然、布などでぬぐわれたり、人や獣に飲まれたり、熱風や火で乾かされて蒸発したりすると、効果は失われてしまう。

 試しに、テーブルの上に水を作り、ハンカチで拭いたことがある。

 反応は、きれいになくなった。

 テーブルの上の、水があった部分からも、ハンカチからも、何の感知もできなくなった。

 欠点というほどではないけど、あえて欠点と言うなら、これくらいかな。


 この魔術の本当に便利なところは、広範囲に効果が及ぶということだ。

 その場にいながら別の場所に水を作り出し、何が起きているか、何がいるのか、何があるのがを知ることができる。


 ただし。

 自分が十分に把握している場所ならともかく、そうじゃない──初見の場所になると、これは、簡単にはいかない。

 手こずる。


 まず、集中して、小さな水滴を作り出す。

 それさえできれば、後はその水滴を通じて、そのエリアを把握して、水の量も増やしていけるんだけど……。

 この水滴を作るのに、また時間がかかるんだよね。

 わかっている場所に水を作るときなら、十秒かかるかどうかで済むけれど、これが初見の水滴だと、ひとつにつき数分はかかったりする。



 今回は、三つ目で当たりを引いた。


 この建物の、二階の一室。

 三つ目の水滴を作った部屋で、複数の何者かが、話をしていたのだ。


 その話をこっそり聞こうというわけ。


 僕のそばにいるペルトゥレには、このことは教えていない。

 聞き水については秘密のまま。

 「入ってきた誰かが、ここまで来ないかもしれないし、黙って潜んでいよう」とだけ伝えてある。

 それに対しペルトゥレは「どうせろくでもない人間だろうし、やっちゃってよくない?」などという残忍な返しを切り出したが、もしそうじゃなかったら気の毒なことをしてしまうので、一旦止めておいた。


 だいたい、悪い人間だとしても気軽に殺していいわけじゃないからね。殺したほうが後腐れないだろうけどさ。


 血気盛んなペルトゥレもなだめたし、僕らがいることをバレないように、ランプの明かりも消してある。

 じゃあ……何をやろうとしてるのか、聞かせてもらおうかな。





『……準備はできたのか』


『ああ。手はずは全て整った。あとは……』


『いよいよですか』


 男の声。

 少年とかじゃない、大人の男性の声だ。


 人数は三人。

 一人はベッドに腰掛け、一人は椅子に座り、一人は壁にもたれて立っている。

 ベッドの男と椅子の男は、体格がよく、壁の男はひょろ長い。


 野蛮な感じの、ベッドの男の声。

 落ち着いた感じの、椅子の男の声。

 神経質そうな感じの、壁の男の声。


『…………決行は、明日となる』


『グハハ、やっとか。それで場所はどうなったんだ?』


『グレイン橋のあたりだ。それ以上進ませると宿場町に近くなりすぎる。逃げ込まれたらまずい。立てこもられて、この王都や他の宿場町に援軍要請されようものなら、打つ手がなくなる』


『やれやれ、もっと襲いやすいところはなかったのですかね』


『ないこともないが、遠い。あくまでこの国の領地で、それもできるだけ王家のお膝元で死んでもらいたい』


『そのほうが、より、この国による暗殺を疑われるから──ですか?』


『そうだ』


『まあそうだわな。疑わないわきゃない。王都の目と鼻の先で盗賊に襲われておっ()ぬなんて、普通はあり得ないからな。グハハッ!』


『治安の良い王都周辺で盗賊が現れ、しかも偶然、皇女の一団がその連中に襲撃されて皆殺し──無理がある話だと、誰しも思うだろう』


『暗殺うんぬんは抜きにしても、帝国と王国の関係がこじれるのは確実と』


『ああ』


『とんでもなく出来のいいお姫さまが、そんなあり得ない理由で死んだとなれば、帝国としても黙っちゃいれないわな』


『この国を攻める口実としても、文句のないものになりそうですね』


『その通りだ』


『でもよ……』


『どうしました?』


『いや、気になってな』


『何がです?』


『いくら邪魔とはいえ、開戦のきっかけのためだけによ……王族を犠牲にするもんかね』


『……何が言いたい』


『いやぁ、前々から疑問だったのよ。いくらタカ派の中のヤバい過激派でも、そこまで無茶な決断に踏み切るかなと思ってな』


『そうおかしくもないですよ。過激派からしたら、王国へ出向いて和平の架け橋になろうとしてる皇女など、目の上のたんこぶでしかないでしょう?』


『いや、そうだけどよ、本当のところは違うんじゃねえか?』


『どう違うんです?』


『あれだ、もしかしたら戦争うんぬんよりも、そのお姫さまに死んでもらうこと自体が目的なんじゃないかと思ってよぉ……って、睨むな睨むな』


『余計な詮索はやめろ。早死にしたくなかったらな』


『へいへい』


『どっちでもいいですね。私は貰えるものさえ貰えれば、依頼人の本意や正体などどうでもいい』


『グハハッ、それはまあ俺もそうさ。俺は荒事しか能がないからな。女子供だろうと病人だろうと殺すのが俺の仕事だ』


『それが賢明だ。知らないほうがいいことはこの世に山ほどあるからな』





「……………………」


 ──思ったよりずっとヤバい話だった。


 どこどこに強盗に行くだとか、敵対グループを襲撃するとか、そのくらいの犯罪行為について話すのかと思ったらまさかの皇女暗殺計画。

 最大級の悪事だ。


 ファルティニア姫が、狙われている。

 蒼炎皇女に存在していてほしくない者たちの悪意が、刃を彼女に突き立てるために、念入りな計画を立てている。

 僕はそれを知ってしまった。がっつりと。


「……どうした王子さま。難しい顔しちゃって」


「うわ」


 ほっぺたをつままれて、左右に引っ張られた。


「ほーれ、リラックスリラックス」


「や、やめへよぉ」


 何も知らないらしいペルトゥレにほっぺたをムニムニされながら、

 どう立ち回ったらいいものかと、僕は暗闇の中、頭を悩ませるのだった──

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