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嫌われ者の第六王子は水魔術に没頭しながら安楽生活がしたいだけなのに  作者: まんぼうしおから


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16/20

16・それでキミは何がしたいの

「ハハ……いやー笑った笑った。久々によく笑ったわ。にしても見たかったなぁ、その地獄絵図」


 魔女はやっと笑いを止めてくれた。


「異様とか言われても、僕、ただの水属性持ちなだけだよ」


「その属性がヤバいんだろうね」


「そう言われても」


 威力というか効果が酷かったのはその通りだけど、異様なんて言われても、あまりピンとこない。

 でも、頭から否定もしにくい。

 初めての魔術であんな惨状を引き起こしたこと。

 それはやはり、異様ではあったと思う。


「あたしの言を信じるかどうかは、王子さま次第さ」


「……キミの言いたいことはだいたいわかったよ。魔女から見ても異様なら、きっとそうなんだろうね。それはもういいよ。認めたところで何かが変わるわけでもないから」


 異様であろうとなかろうと。

 僕の属性が水であることに変わりはないし、魔術の追究を止めることもない。

 普通じゃないというお墨付きを魔女から頂いた、ただ、それだけのことさ。


「それより、なんのために来たのか、目的をそろそろ教えて欲しいんだけど」


「……ああ、そうだそうだ、そうだった。つい楽しくなってド忘れしちゃってた。全く、あたしとしたことが」


「まさか、噂を確かめるだけってことはないよね?」


「いやいや、そこまで酔狂じゃないよ。ちゃんとした目的ありきさ。大事な目的がね」


「聞かせてもらってもいいかな?」


 そう僕が言うと、魔女ペルトゥレは、不気味ににたりと笑い、



「──ずばり、スカウトだよ」



 きっぱりと言った。


「スカウト?」


 これはまた想定外だ。

 誰も関わろうとしない六番目とはいえ、一国の王子である僕を、スカウトとは。


「思いがけないことを言うね」


 この子は僕の意表を突くことばかりする。

 唐突に地下室にいたり、僕の寝室にまで忍び込んで僕の鼻先を舐めたり、そして今度は何かのお誘いときた。

 魔女というのは、こちらが思ってもいなかったことをしたくてしたくてしかたない存在なのだろう。

 だからこそ、魔女なのか。


 魔女。

 魔術に関する書物によると、魔女というのは秩序や倫理を軽んじる女の魔術師のことを指すとか、

 悪魔と契約した者全般のことだとか、

 そもそも人間とは違う、似て非なる生き物だとか──いくつもの説が書かれてあった。


 その、どれが正しいのか。

 僕にはさっぱりだ。


 変な話だけど、そのとき読んでいる本に書かれてるのが正しい気がしてくる。

 で、また別の本を読むと、そちらの内容に傾いていく。

 僕は、本に影響されやすい性分なのかもしれない(もっとも、その影響なんてものは時間が経つとすぐ薄れてしまい、どの内容にも与しない中立の思考に戻るのだが)。


「一人きりでフラつくのも、気軽だけど寂しいじゃん。だから、相棒ってのが欲しくなってね」


 楽しげに、話を続けるペルトゥレ。


「それも普通のありきたりな奴じゃない。珍しくて、そしてできれば強い奴が」


「それで僕?」


 自分の顔を指差し、訊く。


「そう、そうそう、そうなんだよ!」


 魔女の目が、きらりと輝く。


「あたしの国にまで噂が届くほどの王子さまだ。期待しないほうがおかしいだろ? いや期待以上だよ、ハハッ。偉そうな神官どもに四苦八苦させたドブ水を人生初の魔術で作ったなんて……アハハハ、控え目に言っても最高だね!」


「声が大きいよ」


「ああ、そっか。悪いね」


 興奮してきたペルトゥレをいさめる。

 あまりにも騒がしくなればボニーあたりが様子をうかがいに来るかもしれない。


「話を戻すけど──好都合なことに、あんたは腫れ物扱いされてる。閉じ込められたり、こき使われたりもしてない。なら、あんたがあたしと共にここからいなくなっても、本腰入れて捜索されたりもしないんじゃないか?」


「う~ん……」


 ついこないだまでなら、そうだったろうね。

 いなくなって清々したとか、どっかでのたれ死んでしまえばいいとか、酷いことを言われそう。


 でも今は事情が違う。

 レバインメット伯爵が、僕を利用しようと画策している。

 具体的にどうやるかはまだ決めかねてるようだが、やらずに未定のまま終わるというのは……まずないだろう。


 僕がいなくなれば絶対に探すはずだ。

 帝国の第三皇女を圧倒した実力者をみすみす手放すとは思えない。国内はおろか、国外にまで捜索の手を伸ばすだろうというのは、容易に想像がつく。

 追っ手を気にして生きたくはない。

 わずらわしいのはごめんだ。


「こんなところにいても、楽しくなんかないだろ? 誰からも避けられて、誰からも嫌われて、誰からも汚いものとして見られて……バカバカしいと思わないか? だからさ、あたしの手を取りなよ、王子さま」


 椅子から立ち上がり、

 クセっ毛の魔女が、僕のほうに右手を伸ばしてきた。


 この子はそう言うが、僕にとって、生活が楽しいかどうかはそこまで大事じゃないんだ。今の時点で満足してるくらいなんだから。

 大事なのは、楽しさより安定だよ。

 安定した衣食住さ。


「どうした? ほら、ほら」


 早く握れと。


 誘いに乗れと。


 魔女が、右手を揺らす。


「いや、やめとく」


 断った。


「そうだろ、どう考えたってそのほうが……えっ?」


 最初は僕が同意してくれたのだと誤解して喜んでいたが、途中からそうではないと気づいたらしい。

 にっこり笑っていたペルトゥレが、目を剥いて驚いていた。


「他人にどう思われようと、僕としてはそれほど苦にならないし、何もしなくても許される環境を自分から捨てるのはね」


「待て待て、だから、ここに居続けるっての? 不要な人間として扱われながら、ぬるま湯につかり続けるのかよ」


「誰とも会わなければ、誰にも何も言われてないのと同じだからね」


「自由に、好きなように生きたくないのか?」


「それは興味あるね。でも、今はまだ、このままでいい。そこまで切羽詰まってないからね」


「…………」


 ペルトゥレは黙り込んだ。

 伸ばしていた手を引き戻し、腰に手を当て、天を仰いだ。

 どうしようか悩んでいるように見える。


「……まいったな。二つ返事で受け入れてくれるものとばかり思ってた」


「ごめんね、期待に添えなくて」


「今はまだって言ったよな」


「うん」


「なら──」


 ペルトゥレが、上向きだった顔をこちらに向け、


「今後どうなるかはわからないんだ」


「そうだね。僕を取り巻く状況は、今は落ち着いているけど、何かの弾みで風が吹き荒れてもおかしくない。六番目でも王子は王子だから」


「王位争いってことか」


「もしも兄たちが次々脱落したら、望む望まないに関わらず、嫌われ者の僕であっても繰り上げで巻き込まれるよ。宿命ってやつだね、王族の」


 そうなったりしたら、いよいよもって命を狙われたりするだろうね。


 汚水王子なんかにこの国のトップになってほしくない人は星の数ほどいると思う。

 その人たちの中から、僕に対して強行な手段を取ることを選ぶ人が現れるってのも、また予想がつく。


「だから、急がないのであれば、僕の立場が危うくなったときに、キミの誘いに乗ろうかな……と思ってる。虫のいい話だけどね」


「そうかぁ……いや、それでもいいけどな」


「いいの?」


「あたしは別に、一人じゃ心細いとか何もやれないとか、そんなこともないし、すぐにでもこの国を抜けなきゃならない事情もないからね」


「でも、もしキミの相棒になるとしても、年単位で待たせることになるよ?」


「気長に待つさ。魔女らしくね」



 ということになった。


 この三白眼の魔女は、よほど僕のことをお気に召したらしい。

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