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第六王子の汚い水は全てを呑み込む  作者: まんぼうしおから


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13・第三の来訪者

 夜。


 明かりを消した寝室。


 貴族の中には、明かりをつけたまま眠りにつく者が少なくないと、ボニーから聞いたことがある。

 なんでも、真っ暗だとかえって寝つけないって人がいるのだとか。

 なんでだろ。よくわからない理屈だ。

 夜中に起きて用を足したくなった時のために、ロウソクやランプの火を消さずにしておく人もいるらしい。

 これならわかる。


 ちなみに僕は暗くても暗くなくてもお構い無しで眠れるし、1度寝るとそのまま朝までぐっすりだ。



 ……そのはず、なんだけど……。



 寝ようかと思ったのだが、どうにも寝つけない。

 だけど、今さらまた起きる気もしない。

 めんどい。


 何もしたくないので、ベッドの上で、昼間のことでも思い出してみる。



 聖女エルスティルが作り出した、魔術の鏡。

 似たようなものは僕も作れた。

 作れたが、それが本物と同じ性能なのかどうか、そこがわからない。

 判別する方法が、ない。


 いや、あるにはあるんだけど、それをやるとボニーに僕のしていることがバレてしまいかねないのだ。

 『あのさ、呪われた品物とか、悪いものが宿っている品物とか、そーいうの手持ちにないかな?』なんて言えるわけがない。どんな鈍い人間でも怪しむに決まってる。

 だから頼めない。


 聖女ちゃんに見てもらえばいいかもしれないが、次いつ来るかわからない。また来てくれるかどうかも怪しい。

 なら、こちらから会いに行く?

 無理だね。

 今をときめく鏡の聖女に、この国の嫌われ者ランキング不動の一位である汚水王子を会わせてくれるとは、とても思えない。


 だから、あの水鏡については、ひとまず研究を差し止めておこう。



(あーあ、呪いの人形とか地下室に転がってたりしないもんかなー。そうしたら確かめられるのになー)


 都合の良すぎる願望を抱きながら、僕はただ、仰向けのまま目を閉じている。


 睡魔はまだ来ない。

 いつもと違い、今日はかなりの遅刻のようだ。

 静かな夜。

 ボニーももう寝ているだろう。


 それとも、また何か、秘密の話し合いでもしているのか。

 地下室で。


(暇だなー……)


 暗い寝室の中。

 一人、じっと目をつぶり、何もしない。


(…………探ろっか)


 この屋敷には、僕の息のかかった場所がいくつかある。

 息というか、水だね。

 ボニーが伯爵と情報のやり取りをするために使う地下室が、その代表的な場所だ。


 その地下室を探ることにした。

 特に意味はない。

 ついこないだ連絡を取り合ってからまだ一週間も経っていないのだから、またすぐやるはずもないんで、この行為ははっきり言って無駄なだけ。

 でも、暇つぶしって、基本、無駄なことをやるものだ。

 だからこれでいい。

 それにこの状況だと他にやれることがないからね。


(…………ん? おや?)



 その地下室に探りを入れると──

 何やら、動きが伝わってきた。



 これは……人間だね。うん。

 人だ。


 なら、ボニー?

 また?

 またやってんの?

 まさか、マジでまた伯爵とお話中? そんなことある? 僕の勘って凄くない?



 …………いや、違う。

 人ではあるけど、これはボニーじゃない。



 静かに、音を立てないよう動く足取りと歩幅。伝わってくる揺れからわかる、体重と身長。

 これは一人前の女性のものではない。

 少年少女のものだ。


 僕と大差ない背丈の、男の子か女の子が、地下室にいる。

 どこから、どうやって入ってきたのか。

 おそらく昼間のうちに忍び込んだのだろうけど、よくこの離れにまで誰にも止められず来れたものだ。


 真夜中の侵入者。

 まさに今、この離れで、王宮の沼で、面白くなりそうなことが起きようとしている。

 少し、興奮してきた。

 かすかにすり寄ってきていた睡魔が、頭の中から軽く蹴散らされていく。


(もっと、探りを増やしておこうか)


 ベッドに横たわりながら、屋敷の至るところを水で濡らしていく。

 これで、謎の人物がどんなルートでどこに行くか、この場にいながら手に取るように把握できる。


 『聞き水』


 僕はこの魔術を、そう命名している。

 (興奮してきたってのもあるけど)こういう事をやるとなると、面倒臭いなんて全く思わずに、それどころか嬉々として行うんだから、我ながら僕も困った性格だ。





 誰かもわからない人物は、迷いながらも、ようやく僕の寝室の前まで来た。


 泥棒の可能性はない。

 金目のものを物色する動きが一度たりともないからだ。


 誘拐も……まあ、ないだろう。

 こんな若い人さらいなんて、聞いたこともない。

 小柄な大人という線もないことはないけど、だとしても、誘拐とかやるには向いてないよね。子供だってさらわれるとなれば本気で抵抗するに決まってるし。


 他にあり得そうなのは……。


 ベッドの上で悩んでいると、ある考えに思い至った。

 怖い考え。



(まさか、殺し屋……?)



 流石の僕も、緊張してきた。


 殺し屋。

 一番あり得る可能性が、ここにきて浮上してきたのだ。

 なるほど、それなら体格はさして関係ない。むしろ小柄なほうがターゲットの油断を誘えて好都合かもしれない。

 ススッと近寄って、

 ドスッと刺して、

 ササッと去ればいい。


 ボニーを呼ぼうかどうするか。

 迷う。

 彼女は、その手の訓練も伯爵に受けさせられているはずだ。戦力になる。

 大声を出して呼ぶべきか。

 いや、それよりも、魔術で水を作り出して彼女の頭にでもぶっかければいい。

 きっと、怒りにうち震えながら廊下を踏み鳴らし、即座に僕のもとへと馳せ参じるだろう。


 ──と、声か水か、迷っていると。



 何者かによって。

 寝室の扉が、静かに開かれた。

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