もう一人のお兄様
どうしても諦めきれずに無理だとわかっておりますが、お父様に言ってみる。
「クリス兄様を呼び戻せたりは・・・。」
「家よりも家格の高い辺境伯家にそんな真似はできない。それに、お前それをジョセフィーヌ様に言えるのか?」
脳裏にクリス兄様の婚約者であるジョセフィーヌ姉様の顔が浮かぶ。
武闘派一家の跡取りだけあって、凛とした大変美しい女性だ。そして、クリス兄様を熱狂的に愛していらっしゃる。
クリス兄様はアル兄様と違ってお母様似の優しい顔立ちをしている。クリス兄様は幼い頃から優しく紳士的だったらしく、初顔合わせでジョセフィーヌ様に一目ぼれされたらしい。
他にもクリス兄様には上位貴族からの婚約の申し出があったが、辺境伯家からの猛プッシュに押される形であっという間にクリス兄様の婚約はきまったと聞いている。
辺境伯家にはいない柔らかい雰囲気を持ちながらも優秀なクリス兄様は、ジョセフィーヌ様だけでなく辺境伯家全体に溺愛されている。
「・・・言えませんわ。」
私もまだ命が惜しいですから。
下手なことをすれば伯爵家ごと潰されてクリス兄様は攫われるかもしれません。
「とにかく、アルフレッドの王家入りとお前が後継者になることは決定事項だ。だが、お前には領地経営は難しいだろう。早急に婿を探さなければならない。お前、婿に心当たりは・・・ないだろうな。」
「失礼ですわね、お父様。私にも婿候補の一人や二人・・・おりませんでしたわ。」
思い浮かぶのは女性のお友達ばかり。女学院ですから当然クラスに男性など当然おりません。私は気楽な立場でしたから、好きな植物研究を続けながら平民でも構わないので同じような研究者と結婚するか、アル兄様の庇護のもと脛をかじり続けてもよいかと思っておりました。
「知っている。そして、ありがたいことに今回跡取りのアルバートを急遽取り上げることになってしまったとアンネリーゼ様が気を使ってくださってな。他の婚約破棄となった令嬢のために開かれる王家主催の婚活パーティーにロティも招待してくれることになった。」
・・・全くありがたくありませんわ。
何を隠そう私はパーティが大の苦手なのです。きついコルセットでろくな食事もできず、知らない相手におべっかを使う時間など苦痛以外の何物でもありませんわ。
それにダンスも壊滅的で、一人でステップ練習をする私をみたアル兄様に、悪魔召喚の儀式か何かかと言われたことは今でも少しだけ根に持っておりますわ。儀式に見えるほどではないと信じていますがそれでも苦手なことに変わりはないので、パーティーという存在自体を極力避けておりましたのに。まさかこんな事になるなんて。
アンネリーゼ様にもアル兄様にも恨みは向けられないので、ここは元凶の侯爵令息様達を呪っておきましょう。
何もない所で転んでカエルのように無様にひっくり返りますように。
できれば私の前でそうなってみてほしいですが、彼らに会う機会ももうないでしょう。




