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その日は朝からしとしとと雨が降っていた。
こんなどんよりとした天気の日は心の中まで曇天になってしまい憂鬱な気分だ。
会社の机から見える窓の外を見ながら私は大きなため息をついた。
こんな日はトラブルが起こるのだ。
それも立て続けに。
そんな予感がひしひしとしていた。
私の予感は高い確率で当たるのだ。きっと今日も私の予感は当たるはずだ。
そう思って、私は窓からパソコンに視線を移した。
今日も気を引き締めて業務に当たらなければ。
プルルルルルルル。プルルルルルル。
そう思ったとたん、机上の電話がけたたましい音を立てた。
私は、そっと受話器を外す。
「はい。情報システム部の麻生です。」
「ああ。麻生さん。パソコンが急に動かなくなってしまったんだよ。助けてくれないか?さっきまではサクサク動いていたのにねぇ。」
そう言って電話をしてきたのは、関西営業所に所属している営業の宮本さんだった。
宮本さんは少々年配の社員であり、パソコン操作には少し疎いところがある。
「パソコンが動かなくなった直前になにか操作をされましたか?」
「いいや。とくには……。」
大体みんなこういう。特に何もしていない、と。
ただ、それでは解決することができない。
そのため、私は宮本さんに詳しい状況をヒアリングすることにした。
「では、パソコンが動かなくなる直前にされていたことを教えてください。」
「ええと……。パソコンで客先に提出する資料を作成していたんだ。」
「表計算ソフトですか?文章作成ソフトですか?それともプレゼンテーション作成ソフトですか?」
「あー、プレゼンテーション作成ソフトだよ。」
「プレゼンテーション作成ソフトで画像の挿入をされた直後だったりしますか?」
「ああ。そうだよ。よくわかるね。」
あてずっぽうに言った言葉が正解だったようだ。
電話口から宮本さんの驚いた声が聞こえてくる。
「パソコンが動かなくなったということですが、パソコンに何か表示はされていますか?」
「ああ。作成途中の資料が表示されているよ。」




