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「この日付けフォルダの中にですね。人事部ってフォルダがあって、その中に人事部長のフォルダがあるんです。……あ、ほら、こっちはIDもパスワードも確認されないんですよ。」
晴海さんが説明している声がどこか遠くに聞こえる。
なぜ、このフォルダが公開されているのだろうか。
これってきっと、あのフォルダだよね……?
「……申し訳ございません。表示されてちゃいけないフォルダが表示されていたみたいです。すぐに……早急に修正いたしますっ!!」
床におでこが付いてしまうのではないかというほど、身体をまげて謝罪する。
これはミスだ。
明らかにサーバーの設定ミス。
この日付けフォルダはきっと……。
「あ、いや。まあ、顔を上げてくれ……。」
「そ、そうよ。麻生さん。顔をあげてちょうだい。私が言われてもいないフォルダにアクセスしちゃったのがいけないんだから。」
「ああ、そうだ。それに、確かに他の人にはまだ知られたくない情報だったが、来月の頭には晴海さんには公開する情報だったんだ。」
「申し訳ございませんっ!本当に申し訳ございませんっ!!すぐにっ!すぐに対処しますのでっ!!」
私はバクバクと脈打つ心臓に手を当てて謝罪する。
そして、すぐに踵を返すと安藤さんが待つ情報システム部の部屋に駆け足で戻った。
途中何人かすれ違う人に驚いたような表情を浮かべていたような気がするが気にはならなかった。
「安藤さんっ!!はあ……ぜい……はぁ。安藤さんっ!!大変ですっ!!大変なんですっ!!」
「どうしたんですか。麻生さん。そんなに慌てて。」
安藤さんはこの事態を知ってか知らずかのんびりとした口調で私に声をかける。
安藤さんの表情はいつもと同じ温和な表情だ。
「サーバーが……サーバーに……。バックアップのフォルダが……。」
言葉が上手く口からでてくれない。焦れば焦るほど、説明ができない。
口からは単語ばかりが飛び出す。
「はいはい。落ち着いてくださいね。麻生さん。ほら、息を大きくすってー吐いてー。もう一回、大きく息をすってー、はい、吐いてー。」
安藤さんの言葉に合わせて大きく深呼吸をする。
すると不思議なことに、頭の中が少しずつクリアになっていき、慌てていたはずなのに少しずつ気持ちが落ち着いてくる。
安藤さんはとても不思議な人だ。
「サーバーにバックアップ用のフォルダが表示されているんです。しかも、アクセス権が設定されていないみたいです。」




