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「パソコンの基本的な操作はわかりますか?」
気をとりなおして、足立さんと篠原さんにパソコンについてどの程度知識があるのか確認していく。
「うーん。使ったことがないからねぇ。」
「そうだねぇ、私も娘が使っていたのを横で見ていたくらいかしら。」
どうやら足立さんも篠原さんも、パソコン初心者のようである。
これは、どこから教えればいいのかと私は内心冷や汗を隠せなかった。
「えっと、まずパソコンを立ち上げてみてください。」
まずはパソコンを起動させることができるか二人に尋ねる。
以外とパソコン初心者はパソコンの電源を入れる方法を知らなかったりするのだ。
中にはコンセントにACアダプタを差し込めば勝手に電源が点くと思っている人もいたくらいだ。
「……立ち上げる?」
「立ち……上げる……?こうかな?」
足立さんも篠原さんも戸惑った様子を見せながら、パソコン本体を両手で持ちあげ立ち上がった。
予想外の反応に私は困惑を隠せなかった。
「……え……。あ、えっと、言い方を変えます。パソコンの電源を入れて起動させてください。」
「立ち上げる」なんて普通の人があまり使わない言葉を使ったのがいけなかったようだ。
私は慌てて言い直す。
「……電源を入れる?」
「どうやっていれるんだい?」
案の定というかやはりというか、パソコンの電源がどこにあるかわからないようだった。
私はパソコンの前面についているボタンを指出す。
「このリンゴのマークのようなボタンを一回だけ押してください。そうするとパソコンの電源が入ります。」
「なるほど。」
「じゃあ、ポチッとな。」
足立さんがパソコンの電源ボタンを押すとすぐにパソコンの起動画面が表示された。
「今、パソコンが起動している最中です。起動が完了するとパスワードの入力画面が表示されます。」
足立さんも篠原さんも興味津々でパソコンの画面を見つめる。
しばらくして、パスワードを入力するポップアップが表示された。
「これがパスワードを入力する画面になります。初期パスワードは……です。パスワードを入力してみていただけますか?」
「あ、ああ。」
「足立さん、お願いできるかしら?」
篠原さんはそう言って、パソコンの操作を足立さんに任せた。
「えっと、パスワードを入力すればいいんだな。」
「はい。入力方法はわかりますか?」
「ああ、このキーボードっていうのを使えばいいんだろう?」
「はい。そうです。キーボードのキーに印字されているアルファベットを準備打ち込んでいけばいいです。」
「まずは……Pだな。あった、これだな。次にAは……と……。」
足立さんは一文字一文字探しながら人差し指でキーを押していく。
初めてパソコンを触るのだからそんなものだろう。
でも、こんな調子で日々の業務を紙からパソコンに変えることなんてできるのだろうか。
正直な話、足立さんも篠原さんも嘱託だ。
あと、2~3年もすれば退職することになる。
あと2~3年なら今までのままの業務をおこなったらダメなのだろうか。
そう思いながらも必死にパソコンの操作を覚えようとしている足立さんと篠原さんには言えなかった。
「なあ。どうして、こんなにアルファベットの配置がバラバラなんだい?Aから順に並んでいれば、見つけやすいのになぁ。」
「そうね。Aが左端にあったと思ったらBは真ん中にあるんだもの。ビックリしちゃうわ。」
足立さんと篠原さんに言われてハッとする。
当たり前すぎて考えたことがなかったけれど、なぜキーボードのキーの配置はバラバラなのだろうかと初めて疑問に思った。
「確かにそうですね。ただ、配置を覚えてしまえば手が勝手に動くようになるので、位置が気にならなくなるんですよね。文字を打ちやすい位置にキーがあるのかもしれませんね。」
「ふぅん。そんなもんなのかい?」
「難しいわね。これならパソコンを使うより手書きした方が全然早いわね。」
「は、はは……。」
確かに。
見ていると明らかに手書きをした方が早いと思われる。
「で、でも慣れてくればきっとパソコンでも手書きと同じくらいにはなりますよ。」
「そうかい?」
「そうかしら?」
「え、ええ。たぶん。」
絶対。とは言えなかった。
それから私は一番使うだろうメールの使い方を教えていく。
「まず、このメールのアイコンにマウスのカーソルを合わせて右クリックをしますね。」
「マウス……?」
「カーソル……?」
「クリック……?」
どうやらパソコン用語も一から説明しないと行けなさそうだ。
これは、かなり大変だぞと気合を入れなおす。
そして、思う。
あれ……?
私ってパソコン教室の先生だったっけ?
と。




