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「晴海さん、落ち着いてください。晴海さんは仕事に必要だと思っていただけなんですよね?」
「ええ。退職者の情報を事前に察知しておいた方がいろいろとやりやすいので……。」
「そうなんですね。では、その資料がどこに保存してあったか教えていただけませんか?」
晴海さんを落ち着かせるように椅子に座らせる。
傍らでは伊藤人事部長がそんな晴海さんのことをジッと見つめていた。
「はい。人事部長フォルダにありました。いつもは人事部長フォルダにアクセスできないんですが、今日はアクセス出来て……。」
晴海さんは人事部長フォルダにアクセスしたようだ。
でも、おかしい。先ほどサーバーの確認をしたときは人事部長フォルダのアクセス権は伊藤人事部長のみになっていた。
晴海さんが伊藤人事部長のアカウントでサーバーにアクセスしたのだろうか?
「晴海さん。パソコンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ。構いません。」
「ありがとうございます。」
私は晴海さんのパソコンをお借りした。
そして、サーバーのトップ画面にアクセスする。
人事部長フォルダは人事部フォルダの下の階層に用意されていたはずだ。
人事部フォルダにカーソルを合わせ、ダブルクリックをする。
「……IDとパスワードの入力を求められますね。晴海さん、IDとパスワードの入力をお願いできますか?」
「ええ。はい。」
パソコンの操作を晴海さんにお願いし、IDとパスワードを入力してもらう。
もちろん、IDは晴海さんに用意されたIDを入力していた。
ここまでは問題ないようだ。
無事に人事部のフォルダが表示される。
人事部のフォルダの中に伊藤人事部長のフォルダが用意されている。
「それでは、伊藤人事部長のフォルダにアクセスしてみてください。」
「……はい。」
晴海さんは伊藤人事部長のフォルダにカーソルを合わせて、ダブルクリックした。
「あっ……。」
晴海さんが小さな声をあげる。
パソコンの画面には「アクセス権限がありません。管理者にご連絡ください。」という無機質な警告画面が表示された。
やはり、伊藤人事部長のフォルダにはアクセス権が設定されており、晴海さんはアクセスできないはずなのだ。これはサーバーの設定どおりの正しい動きである。
私はホッと胸を撫でおろした。




