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御手洗さんと磯野さんのやり取りを驚きながら聞く。
御手洗さんの言うことは正論だ。対して磯野さんの言葉は暴論だ。
パソコンは機械だ。機械には電気信号が通っている。
電機は水に弱い。電気信号の伝達の妨げになる。
それどころか真水以外の水で機械を濡らすと金属が腐食し、電気信号の伝達の妨げになる。つまり、故障をするというわけだ。
綺麗に乾かせば起動する可能性はあるが、それはあくまで水だったらの話だ。
「……パソコンは機械なんです。機械が水に弱いくらいいくらなんでもご存知ですよね?」
磯野さんの暴論に思わず低い声が出てしまう。
パソコンにコーヒーを溢して壊れたのを情報システム部の所為にされるなんて、明らかにおかしい。
「オレのスマートフォンは防水機能つきだ!今時防水機能のついていないパソコンを使っているなんて言語道断だろうっ!!」
「じゃあ!コーヒーを溢してパソコンの防水機能を確かめる前に、情報システム部にパソコンにコーヒーを溢していいか確認してください!パソコンの購入予算は限られているんですよ!磯野さんのパソコンだけ防水機能付きのパソコンにすることはできませんっ!」
「ああん!?オレに仕事をさせたいのならそれ相応のパソコンを用意すべきだろう!!」
「それを言うなら高価なパソコンを与えられるくらいに営業成績をあげてください!話はそれからですっ!!」
「はあ?パソコンが先だろ!!」
「あなたの実力を示すのが先ですっ!!」
徐々にヒートアップしていく磯野さんと私。
次第には同じ言葉の投げ合いになってしまった。
「二人とも落ち着きなさいっ。」
見かねた御手洗さんが私たちの間に割って入る。
周りで見ていた人たちも磯野さんと私をなだめにかかる。
「二人の言い分はわかった。というか、磯野くんの言い分ははっきりいって理解できない。君は営業成績が最下位だということを知っているかい?営業先には訪問時間を過ぎてから伺う。挙句の果てには約束があったことを忘れて家で寝ている。そんな態度じゃあ君に特別仕様のパソコンは与えることができないよ。麻生さんの言う通り、まずは実力を示しなさい。」
「……ちっ。」
「すみません。思わず頭に血が上ってしまいました……。」
御手洗さんの言葉に磯野くんはそっぽを向いた。
私は磯野くんの営業成績のことを聞いてしまって思わず吹き出しそうになるのを堪えて御手洗さんと周りにいた人々に謝罪する。
「パソコンにぶっかけたのはコーヒーですね。無糖ですか?微糖ですか?ミルクは入っていましたか?」
気を取り直して磯野さんのパソコンの状況を確認する。
「……キャラメルマキアートだよ。」
磯野さんも少しは落ち着いたのかぶっきらぼうに答えた。
「えっ……。」
私は思わず声を上げてしまった。
まわりもざわざわとし始める。
「なんだよ。甘党で悪いかよ……。」
「いいえ。甘党は問題ありません。疲れた時やストレスが溜まっているときには甘い物は心を癒してくれる効果が期待できます。磯野さんは積極的に甘いものをとってもいいと思います。」
「そ、そうかよ……。」
鳩が豆鉄砲をくらったような表情を磯野さんはした。
私、なにか変なこと言っただろうか。まあ、いいや。
「それよりも溢したのが砂糖たっぷりの飲み物だというのがいただけません……。糖分のたっぷり入った飲み物は乾燥するとベタベタに基盤にくっついてしまいます。そうするとパソコンは修復不可能です。修理にだせば、基盤を交換をしてくれるかと思いますが……。基盤交換は下手をするとパソコンを新規購入するくらいの金額になります。それに修理を依頼してからパソコンが戻ってくるまで最低でも一週間はかかるかと……。」
甘い飲み物ほど大敵なものはない。たとえ防水仕様のパソコンだったとて、糖分がたっぷり入った飲み物は危険がいっぱいだ。
パソコンは起動してもベタベタなのはちゃんとに拭き取らなければならないし、パーツを分解して拭き取らないと僅かな隙間に糖分が流れ込み、べた付いてしまう。
パソコンに溢すのには最悪な飲み物だ。
そのことを磯野さんに説明をする。
「……わるかったよ。」
どうやら磯野さんはわかってくれたようだ。
結局パソコンを分解して真水で清掃してみたが、糖分のベタベタは取りきることができず修理に出すことになった。
磯野さんにはパソコンが急に壊れた時のために在庫してある予備のパソコンを割り当てることになったのだった。




