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今日も情シスは恐怖に慄く  作者: 葉柚
甘いコーヒーは危険な飲み物

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22/37

「おはようございます。安藤さん、コーヒーいい匂いですね。」




 朝、出社してパソコンの電源を入れていると安藤さんが「おはよう」と言いながら部屋に入ってきた。


 安藤さんの手にはホットコーヒーのカップが握られている。


 


「良い匂いでしょう。今日、開店したらしいよ。」




「ええ。とても良い匂いです。今日開店だったんですね。だからお店の前を通った時人が沢山いたんですね。」




 駅を降りてから会社に来るまでの道に本日コーヒースタンドがオープンしたようだ。


 数日前から気になってはいたが、遅刻しそうだったので今朝はスルーしたのだ。




「昨日の帰りに割引券を配っていたからね。今朝は少しだけ早起きしてよってみたんだ。コーヒー豆にこだわっているとか。」




「へぇ~。じゃあ、それなりに提供までには時間がかかるんですね?」




「そうだね、注文してから豆を挽いていたいたよ。」




「ははあ。それはそれは、凝っていますね。私には当分朝コーヒーを買う時間はなさそうです。」




 私は朝が弱い。


 目覚ましのアラームが鳴ってもすぐに起きることができない体質なのだ。平気で二度寝だってしてしまう。


 遅刻しそうになったのも一度や二度ではない。




「麻生さんは早起きする癖をつけないとね。早起きは三文の得だというし。」




「そうですね。ブルーマウンテンですか?」




「麻生さん、君って匂いに鈍感なのかな?」




 安藤さんのお小言を回避するために話題をさり気なく変えようとするが、安藤さんに怪訝な表情をされた。




「……ほっといてください。」




「これはね、コピ・ルアックだよ。香りに甘みを感じないかい?」




「……そう言われれば、少し甘いような。それにしても、コピーラック……?って初めて聞く名前ですね。」




 耳なじみのないコーヒーの名前に首を傾げる。


 


「コピ・ルアックね。ルアックっていうのはねジャコウネコのことなんだよ。」




「へぇー。ジャコウネコですか。なんで、ジャコウネコの名前が?」




 コーヒーの名前にジャコウネコが含まれているなんてとても不思議に思い思わず質問してしまう。


 由来とか気になるし。


 すると安藤さんはにっこりと満面の笑みを浮かべた。


 


「一口飲んでみるかい?ほら、君が常備しているカップを出しなさい。一口だけあげるから。」




「え?いいんですか、じゃあ一口飲ませてください。」




 私は会社用に常備しているカップを机の中から取り出すと安藤さんの前に出した。


 安藤さんは私からカップを受け取ると、器用に一口分だけコーヒーを別けてくれた。


 ……一口なんて言わずにもうちょっとわけてくれても……。なんて思ったり。まあ、わけてくれるだけありがたいけど。


 


「あ、美味しい。なんかまろやかですね。甘味もあってコーヒー独特の苦みも少し軽減されていて飲みやすいです。」




 一口飲んだコーヒーは私の口に合った。


 ほのかな甘みとまろやかな苦みが口の中に広がる。




「美味しいでしょ。これ一杯6,000円なんだよ。」




「えっ……。冗談ですか?」




 安藤さんに告げられた値段に思わず口をぽかーんと開けた。


 コーヒー一杯6,000円だなんてにわかには信じることができない。


 コーヒーってそんなに高いものだったっけ?


 


「冗談じゃないよ。冗談だとおもうならコーヒースタンドに行ってみてごらん?」




「あ、ははっ。そんな高価なコーヒーを飲ませてくれてありがとうございます。」




 安藤さんはケチだなんて思った自分が恥ずかしい。一杯6,000円もするコーヒーを飲ませてくれたのだから。




「でも、どうしてそんなに高いんですか?豆の入手が難しいとか?でも、栽培していればそんなに豆の値段が高騰するとは……。」




「うん。そう思うだろう?そこに、ジャコウネコが関係してくるんだよ。」




「はあ。」




「このコーヒー豆はね、ジャコウネコが食べたコーヒー豆を拾い集めたんだよ。」




「ジャコウネコってコーヒー豆食べるんですか?」




「うん。食べるみたいだね。でね、ジャコウネコが食べたから、ジャコウネコの体内でコーヒーの苦み成分が分解されてまろやかになるんだよ。」




「う……ん?」




 ジャコウネコが食べたコーヒー豆って……。もしかして……。




「そう。ジャコウネコが排せつしたコーヒー豆だよ。それも消化されずにちゃんと豆の形が残っているものだけを選んだものなんだ。」




「あ……うん。ワカリマシタ。アリガトウゴザイマス。」




 聞かなきゃよかったと思ったのは言うまでもない。




 プルルルル。プルルルル。




 その時、私たちの会話を断ち切るように電話が鳴った。


 まだ始業開始前だというのに。


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