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「社内のサーバに保存してあるファイルなんだ。私しかアクセス権がないと言われたフォルダなんだが……。」
「人事部長フォルダ、ですか?」
「ああ。そうだ。そこにしか保存していないファイルのはずなんだ。」
「アクセス権を確認してみます。しばらくお待ちください。」
「ああ。頼んだよ。」
伊藤人事部長しか見れないはずのファイルを晴海さんが見ている。
どういうことだろうか。
私は不思議に思って、サーバの設定画面を開く。
「人事部長フォルダのアクセス権は……っと。」
数ある設定の中から人事部長フォルダのアクセス権を確認する。
そこには確かに伊藤人事部長のアクセス権しか付与されていなかった。
サーバの設定には問題はないはずだ。
では、なぜ晴海さんが伊藤人事部長しか見れないはずのファイルを見ているのか。
次に私は、人事部長フォルダへの接続ログを確認した。
そこには、伊藤人事部長のアクセスログしか記載されていない。
やはり、伊藤人事部長がファイルを間違えて晴海さんがアクセスできる場所に置いたとしか考えられない。
でも、あの慎重な伊藤人事部長がそんなことをするとは思えない。
私は、伊藤人事部長に電話をかけた。
数度のコール音のあと、
「はい。伊藤です。」
伊藤人事部長が電話にでた。
「情報システム部の麻生です。今お電話大丈夫でしょうか。」
「ああ。大丈夫だよ。先ほどの件かい?なにかわかったかね?」
「ええっと。まだ……。あのっ、人事部長フォルダのアクセス権は問題ありませんでした。人事部長フォルダには伊藤人事部長しかアクセスできない設定になっております。その……晴海さんはどこから伊藤人事部長しかみれないファイルを見ていたのか、直接晴海さんに確認してもよろしいでしょうか?」
「ああ。構わないよ。だが、私が見る限り人事部長という名のフォルダだった。」
伊藤人事部長の言葉に私は首を傾げる。
人事部長フォルダにはアクセス権が設定されており、アクセスするためにはIDとパスワードが必要だ。パスワードは伊藤人事部長しか知らないはずだ。
晴海さんが伊藤人事部長のパスワードを入手できるはずはない。
もしかして、伊藤人事部長はパスワードを付箋かなにかでパソコンの近くに貼り付けていた、とか?
でも、晴海さんが伊藤人事部長のパスワードを盗んでまで人事部長フォルダを除くなんて信じられない。
私は急いで席を立つと晴海さんの元に急いだ。
「安藤さん。人事部に行ってきます。」
「はい。よろしくお願いしますね。」
☆☆☆☆☆
「晴海さん。今、お時間大丈夫でしょうか。お聞きしたいことがあります。」
晴海さんはおっとりとした30代半ばの女性社員だ。
お子様がまだ小さく時短勤務をしている。
「はい。伊藤部長から伺っております。私が見たらいけないファイルを見てしまったとか……。どうしましょう。私、フォルダにアクセスできたので見ていいものかと……。」
晴海さんはおろおろと狼狽えたように視線を彷徨わせた。
気弱な様子はウサギのように思えた。




