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唇を噛みしめながら真っ青な画面を寂し気に見つめる。
起動しなければパソコンを入れ替えなければならない。
データのバックアップってとってあったっけと不安に駆られて視線を彷徨わせる。
「あ、セーフモード!!セーフモードがあったよね!」
一つの希望の光セーフモード。
なんらかの常駐システムが影響している場合、セーフモードで起動すれば起動できる可能性がある。
セーフモードで起動して影響していると思われる常駐システムを停止してしまえば、パソコンは起動するはずだ。
そう思ってセーフモードを試してみたが、やはりパソコンは立ち上がらなかった。
「うう……これって……。」
「どう?直った?」
と、そこに高柳さんが客先との電話を終えて戻ってくる。
「す、すみません。まだ直っていません。最悪パソコンの入れ替えになるかもしれません。あの……差し支えなければ直前にされていたことを教えていただけませんか?」
「客先に電話してたけど……?」
パソコンでしていた直前の作業を聞きたかったのに、高柳さんが直前におこなったことを不思議そうに教えてくれた。
どうやら私の質問内容があやふやだったらしい。
「あ。いえ。画面が青くなる直前にパソコンをなにか操作しましたか?」
「ああ。うん。そういうことね。そうだなぁ。たしか、アップデートが完了したから再起動して欲しいってメッセージが表示されてて、そのメッセージに従ってパソコンを再起動したかな?」
「あ……。もしかして、OSのアップデートですか?」
「ああ。確かそんな感じだったような……。」
「ありがとうございます。えっと、OSのアップデートが原因なら復元ポイントからの復元でなんとかなるかも……。」
私はパソコンを操作して、直近の復元ポイントを使用してパソコンを復元させる。
復元ポイントからの復元は正常に動作しそうだ。
ホッと息をつく。
パソコンの入れ替えはこれで避けられる……はず。
そう思いながらパソコンの画面をジッと見つめているとOSの起動が終了し、IDとパスワードの入力画面が表示された。
「よかった。復旧したみたいです。ログインしてみてもらってもよろしいでしょうか。」
「ああ。ありがとう。……うん、問題なさそうだね。」
「どういたしまして。こちらこそお手間を取らせてしまってすみませんでした。」
「ううん。直してくれてありがとう。助かったよ。」
そうして、高柳さんのパソコンが復旧したことに胸を撫でおろしながら情報システム部の部屋に向かった。
プルルルルルル。プルルルル。プルルルルルル。
情報システム部の部屋からは電話の呼び出し音が鳴り続ける。
おかしい、安藤さんは部屋の中にいるはずなのに、なぜ安藤さんは電話に出ないのだろうか。
不安を抱えながら私は急いで情報システム部の部屋のドアを開けた。
部屋の中には安藤さんはいなかった。
「……どこにいったんだろう。安藤さん。」
そう思いながらも鳴り響いている電話に出る。
「はい。情報システム部の麻生です。」
「ああ!やっと電話にでた!!大変なんだよ。パソコンが青い画面になってしまって。ああ、うちの事業所のパソコンの過半数が青い画面に……。」
「えっ……。」
電話の相手は九州営業所の未來さんだった。
そう。今回の問題はOSのアップデートに起因するもの。
つまり、高柳さんのパソコン1台だけがブルースクリーンになっただけで済むわけがなかったのだ。
部屋にいない安藤さんはきっと他の電話でパソコンがブルースクリーンになるとでも呼び出されたのだろう。
九州営業所まで出向くと片道2時間30分はかかる。
ここは、電話でパソコンの操作方法を教えて現地の人たちに操作していただくしかない。
私はゴクリと唾を飲み込んだ。
結果として社内のパソコンの約半数がブルースクリーンになったのだった。




