3
私は情報システム部の部屋から出て総務部のあるフロアに向かった。
情報システム部だけ社内の重要な情報を扱うため個室が割り当てられているのだ。
「吉井さん。今、お時間よろしいでしょうか。電話の件なんですけれども。」
私は座ってパソコンとにらめっこをしていた吉井さんに声をかけた。
「あら。麻生さん。ごめんなさいね。今、電話がトラブっていて使えないのよ。数井さんに対応をお願いしているから、少し待っていてくれるかしら?」
吉井さんは柔らかい笑顔でそう答えた。
……やっぱり電話は情報システム部の管轄じゃないじゃないの。
私はそっと視線を数井さんに向ける。
数井さんは私たちのやり取りを聞いていたようで、一瞬ビクッと肩を震わせた。
「そうなんですね。電話は総務の管轄になるんですか?」
「ええ。そうよ。電話は総務で管理しているから、電話のことでなにかあったら総務に連絡してちょうだいね。」
「ありがとうございます。例えば、情報システム部に内線をもう一本引きたいなって言ったらそれも総務にお願いすればいいんでしょうか?」
「そうよ。総務で手配するわ。」
「わかりました。ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」
「ええ。いつでも連絡待っているわね。」
「ありがとうございます。」
私は吉井さんの席から離れて、数井さんの席に向かう。
「数井さん。電話が繋がらない件ですが、数井さんの方で対処をお願いしますね。」
「……わかったわよ。」
にっこり笑ってお願いすると、数井さんはそっぽを向いて答えた。
自分の仕事だとわかって、数井さんも罰が悪いらしい。
でも、謝らないのは彼女らしい。
「電話の件、数井さんの方で対処してくださることになりました。」
情報システム部の部屋に戻り、安藤さんに報告する。
「そう。よかった。数井さんの勘違いだったんだね。」
「ええ。そうだったみたいです。」
「多いんだよね。機械ものは全部情報システム部管轄だって思っている人って。実は麻生さんが席を外している間にも何人か、電話が繋がらないんだけどっていう問い合わせをねしてきた人がいるんだよ。困っちゃうよね。」
「そうですね……。」
どうやら数井さんの他にも電話は情報システム部の管轄だと思っていた人がいたらしい。
安藤さんの疲れた顔を見ながら私も小さくため息をついた。
不要なトラブルに巻き込まれるのも情報システム部なのである。




