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第7話 最強の槍だね!女神様!

部員の集まるベンチ

震える足で、スゴミは姫神さんに駆け寄った。

まず気づいたのは祢音さんだった。うろたえるようにマリアンの肩を揺らす。


「お、おい……」


「ん……?」


言われてようやく気付く姫神さん。

そこに不意打ちを入れるかのように、ぺら袋を差し出す。


「あ、あのっ、これ……!」


一斉に集まる視線。


姫神さんは、きょとんとしながら、袋を受け取った。


中から、安っぽい箱が出てくる。

白地に金のロゴ。

ジラ・トゥエルフの箱は黒。

箱だけで、それとは違うと語るような安っぽさ。


「えっと……なになに?くれるの?」


突然のことで面食らう姫神さん。


『マジか!』って顔で、スゴミの顔とプレゼントを交互に見る祢音さん。

賞賛というより、バケモノを見て驚愕しているような目つき。


ワンテンポ置き、横の女子からくすくすと笑いが漏れた。


「コレ、ジラじゃなくね?」

「マリアン欲しいの、絶望の華じゃん?これじゃないよね」


姫神さんは箱を見たり左右を見たりして、こっちには目もくれない。


そのとき。


部室の中から、丸刈りでサイクロプスのようなガタイの男が出てきた。

見るからに野球部部員の男は無遠慮に会話に入る。


「え、なになに、誰コイツ?」


身がすくむ。


「あ、その……」


取り巻きの女子が代わりに答える。

「こいつがマリアンに告ろうってさ、なんか安もんのアクセ持って来てんの」

「うける通り越してキモいよね」


無慈悲な言葉。野球部員の顔が歪む。

「やべえな、ストーカーじゃん。姫神、大丈夫?」


「ま、まあ……大丈夫……かな?」


姫神さんは遠慮がちに縮こまっている。


野球部員が姫神から紙袋を取り上げた。


カサッ


そして中身の白い箱を乱暴に取り出し、眺める。


「……ピュア ステート……?マジでなんのブランド?」


……僕はブランドなんて知らない。


ブランドだからとかじゃなくて、ただそのデザインが可愛いと、マリアンに似合うと思って選んだ。


……それだけだったんだ。


部員が威圧的に、姫神に聞く。


「……で、コレ要るの?」


姫神は部員と祢音の顔を往復しながら、考える。

スゴミの方なんて見てもいない。


そして……


「ん〜、いらない……かなぁ?」


プレゼントの袋を見ながら、そういった。

スゴミは信じられなかった。

いらない……中身を見てもいないのに?


部員は嘲るように笑う。


「だよなぁー!!」


そのまま箱ごとヒザと肘で挟んで叩き潰した。

そして、部室の奥の後輩に投げつけた。


「おい、これ捨てとけ〜!」


スゴミの心は潰された箱の形を、そのままなぞるようだった。


部室の奥を眺めていると……


「で、コイツはどうすんの?」


部員がスゴミを指さす。


「ストーカーだよ!警察っしょ!」


そう言って部員達はゲラゲラ笑いだした。


なんだ……なんだよこの状況……

そもそも、プレゼント渡しただけで、告白すらしてない。


祢音さんは額の前で指を組んで、こっちを見ていない。


あんたは味方じゃねえのかよ……!!


救いを求める心が祢音さんに責任を求めようとする。しかし


……いや、当然だ。恐ろしい状況に直面した時、逃げる。


いかれた天使が降りて来て、剣で襲ってきて。

アルハを見捨てて逃げた。

イジメが怖くて、学校からも逃げた。

親の期待も裏切って。

ずっと、ずっと……嫌なことから目をそらし、逃げてきた――。


炊きつけられたとはいえ、安物を選んだのは自分。

祢音さんを責めるのは違う、それは分かる。

俯き、この敵しかいない地獄を味わう……


その時だった。

沈みきった空気の中、祢音さんが声をあげた。


「あのさ、コイツ、ヒサヅカってさ、うちのクラスメイトなんだ」


「祢音さん……!?」


絶体絶命のピンチに現れた、救いの一言に見えた。


野球部員が祢音さんに振り返る。

「マジで?姫神も同じクラスだろ?」


姫神さんは顔を上げない。

代わりに祢音さんが答える。


「ああ、そうなんだけどさ、ちょっと空気読めないだけで、そんな悪いやつじゃないんだ」


流れを止める祢音さんに他の部員が食ってかかる。

「マリアンに安物渡すようなやつが~?」

「姫神にアタックして玉砕した奴、何人いると思ってんだよ」


ただの噂、ただのレッテル。それだけのものが、

この空気をこんなに重く、息苦しくしている。


重い空気を切り裂くように、姫神さんの明るい声が飛んだ。


「そうだっけー!? 私、あんまし覚えてないなあ~!」


ぱっと空気が変わった。

場違いなほど無邪気な声は、まるで一筋の光だった。


まさしく、女神の神技・ホーリージャベリン――それは暗闇を貫く、光の槍……


わざとらしい演技で男子部員が割り込んだ。

「俺があげた指輪も覚えてねーのかよ~!」


「うーん、そうだっけ? 私記憶力悪くて! ごめんね!」


「そ、そ!そんなぁ~!!マリア~ン!!」


「アハハハハ!」


笑い声が、また弾けた。

さっきまでスゴミに向いていた視線は、少しだけズレた気がした。


一つの“場”ができた。そこに自分が居ること自体が、もう場違いだった。

一応、立ち去ることを伝える。


「あ、すみません、もう帰るんで……」


「…まてよヒサヅカ」


呼び止めたのは祢音さんだった。

また得意の追い打ちかと思い、構える。


「まだなんかあるんすか」


「今日この後、肝試し大会があんだよ」


祢音さんは額に手を当てながら、こちらを睨んでいる。

関わりたくない、それが先だった。


「そっすか、どうぞ頑張って……」


「お前も来いよ」


祢音さんの新しい提案に、背が低めの野球部員が反応した。


「正気じゃないっしょ、こいつ、連れてくんの?」


「…いやいいっすよ、迷惑になりますし」


祢音さんは、額の手を外し、周りに言い聞かせるように言う。


「みんな、こいつは今日転校してきたんだよ。ちょっとそそっかしいけど、友達は必要だと思うんだ」


転校――。

不登校じゃない、って祢音さんなりに気を使ってくれているのがわかった。

ただ、この集団にこれ以上関わりたくない方が大きかった。


「気にしてくれてどうも、でも自分、一人で楽しめるタイプなんで帰ります。」


女子が入ってくる。


「ほら一人で良いだって、やめときなよ~」


「お前は肝試し来ないだろ、口出しすんな」


祢音の強い口調に、静かに、女子たちは口をつぐんだ。


「メンバーは、私、マリアン、黒野、春原、それから後で合流する川田だ」


その場にいる人たちを指さしながら、祢音さんが名前を挙げていく。

それに姫神さんが乗って来る。


「いいね! おいでよ!!」


祢音さんが指さしていた背の低い部員、

坊主よりちょっと伸びた黒髪、黒野が不機嫌な顔になる。


「マジかよ……野郎はもういらねえよ」


「でも司馬が言うなら、もう決まりじゃね?」


低めの声、細い目、全体的に長いといった印象の春原は、祢音に流されるタイプのよう。

それでも、この輪に入るというのは気が引ける。


「いやだからホント自分は帰りますんで……」


「ヒサヅカ……来い」


断るのを許さないと言った即答で逃げ道を塞ぐ祢音さん。


しかし、祢音さんは髪を軽く揺らしながら、

スゴミにだけわかるウィンクを飛ばした。

その笑顔は、"任せろ"と語っていた。


「…はい。」


断るという選択肢は無いのだと悟った。

肝試しか……不穏な人間関係……

怖い目も、恥をかくのも、うんざりだけど、

あのイカれた天使や、アルハの密室殺人よりは、きっとマシだろう。


空を仰ぐ。


巨大な黒いピラミッドが、静かに、

緑色の光をまたたかせながら、夜空に浮かんでいた。




姫神さんと女子たちが部室に着替えに入った。

しばらくして…




「ちょ、祢音さん近いっす!」


スゴミが顔を赤らめながら体を引いた。


「狭いんだから仕方ないだろ」


すぐ目の前、覆いかぶさる祢音が

きつめに言い返してくる。


「い、今……胸、当たって……」


「バ、バカ! 離れろ!!」


怒鳴るような声と同時に、

祢音がスゴミの胸ぐらを小突く。

それはもう、反射のような動きだった。


スゴミは焦っていた。


秘密の話があるって呼び出されたのはいい。

……だが、まさかこんな場所だとは思わなかった。


野球部の部室から少し離れた、階段下の小さな扉。

その中は、バットや備品が乱雑に押し込まれた、

空気の淀んだ倉庫だった。


夜になっても、昼間の熱気がまだこもっていて

汗ばんだ空気が肌にまとわりつく。


スゴミは野球ボールのカゴに尻を乗せ、

体を反らせるように座っていた。


その上を、天井に手を突いてバランスを取る祢音が

またぐように、覆いかぶさっている。



……近すぎる距離。


マリアンの甘い香りとは違う、

野生味を帯びた祢音の匂い。


乾いた夏草のような、

どこか懐かしくて

ドキリとする匂いだった。


そして……

触れざるを得ない太ももの体温に、

頭がどうにかなりそうになる。


「ったく……お前さ、

あんな大勢の前でプレゼント渡して告白とか、

あるか普通!? タイミング考えろ!」


祢音は苛立ちを隠さず詰め寄る。


「いや僕も必死だったんですよ、

間に合うかどうかで!」


スゴミが苦しい言い訳を吐き出す。


「そういうときは明日にしとけ!」


「七夕だって煽ったの、司馬さんじゃないっすか!」


「お前のアホを私に上乗せするな!!」


言いながらも、祢音の顔は

どこか呆れて笑っているようにも見えた。


「結構、屈辱だったんですけど……

フラれたし……」


スゴミのぼやきに、祢音はため息をひとつついてから

少し声を落とす。


「……吊り橋効果って、知ってるか?」


「なんか、ピンチを一緒に乗り越えると

仲良くなるってやつっすよね」


「それそれ。そういうとこだけ詳しいなお前」


「アニメじゃあるある展開ですから」


「……」


祢音は一瞬だけ笑みを浮かべ、

にやりと口角を吊り上げた。

そして、唐突にテンションを上げる。


「これから肝試しに行く。

吊り橋効果、使って、

いい感じにマリアンに男見せろ!」


「いい感じって、めっちゃアバウトじゃないっすか!!」


「私がいい感じにサポートするから!」


祢音は勢いそのままに力強く言う。


「めっちゃ必死っすね……」


スゴミが引き気味にそう呟くと、

祢音は少しだけ視線をそらして、ぽつりとこぼした。


「お前が失敗したら……

私がお前と付き合わなきゃいけないだろうが……!」


あ、あの約束。


本当に、守ってくれるつもりでいてくれたんだ。


祢音さんの、ちょっと不器用な“良い人感”に

スゴミの胸はほんの少し、

ふっと軽くなった。




──肝試し大会・ルール説明──


夜、20時。

場所は、街外れの丘の上に、ぽつんと打ち捨てられた──

かつての「丘の上病院」跡地だった。


『夜になると、デスマネキンが歩き出す』


そんな、ありふれた都市伝説がまことしやかに語られる廃墟。


少し前にも、某動画配信者が肝試し中にボヤ騒ぎを起こし、

地元ニュースで盛大に取り上げられた……

いわくつきの、地元民御用達の心霊スポットだ。


現地に到着すると、

蔦に呑まれた外壁、割れた窓ガラス。


そこから覗く内部は──

暗すぎて、向こうの壁さえ見えなかった。


想像以上に、不気味だった。


ふと見上げた夜空には、相変わらず、静かに浮かぶ黒いピラミッド。


その巨体は、夜の闇に溶け込み、目に映らない。


ただ、星々だけが、奇妙に“切り抜かれた”ように消え、

空にピラミッドの輪郭を描いていた。


緑の光の筋は、血管のように脈打ち、うごめいていた。


──そんな場所で行われる、今回の肝試し大会。


ルールはこうだ:


3分おきに、一人ずつ出発。

病院跡地の階段を、最上階まで登る。


持参した空き缶を、最上階に置いてくる。


次の人は、前の人が置いた空き缶を回収し、

代わりに自分の空き缶を置く。


マリアンの空き缶回収担当にスゴミが指名されたとき──

男子たちの一部から、明らかに不満の声が漏れた。


ルールを仕切っていたのは祢音。

このグループの、疑いようのない「王」だった。


「うし、最速ギネス記録出してくるわ!」


意気揚々と出発前に気合を入れるのは黒野。


「ギネス登録されんだコレ」


冷静にツッコミを入れる春原に、


「されねーよ」


祢音がぴしゃりと返す。


「が、がが、がんばってね……」


マリアンは、手を振りながらも声が震えていた。


「姫~! やばかったらすぐ呼んで!

俺すぐいっちゃうからさぁ~うっうっ」


川田がブリブリとキモさを炸裂させている。


しかもTシャツには「I♡姫」──制服組の中で完全に浮いていた。


というか、他の男子たちも、程度の差はあれど全員マリアン狙い。


完全に、マリアンファンクラブ状態だった。


──肝試し大会が、始まった。


野球部倉庫の前で、スゴミは祢音から一枚の紙を手渡された。


【GOGOネオン!吊り橋効果プロジェクト!!】


なんとも言えないセンスの作戦名に、思わず絶句する。


祢音さん、ちょっと芋っぽいところがあるんだよな……


メモには、太字でこう書いてある。


【絶対条件その1・幽霊なんて出ないからびびるな。】

【絶対条件その2・女子は怖い時は覆い被さるくらい守って欲しい。】


……雑にハードルが高い。

熱血系なのかな……


【ネオン吊り橋プロジェクト①】

──男子たち3人が出発したあと、

マリアンが出発するぞ、3分待たずに行け!!


予定通り、3人の男子が3分おきに出ていき、12分目。


姫神さんが「よーし! よし! よし! 行ける行ける! 行くよーー!」

と自分を奮い立たせながら、スタートしていった。


なんかもう、何してても可愛いなこの人。


その30秒後、祢音が声をかけてくる。


「よし、行け」


「は、はい」


スゴミは反射的に返事し、スタートを切った。

プロジェクト通り、3分待たずに30秒で発進する。


【ネオン吊り橋プロジェクト②】

──マリアンはどうせ途中でビビって動けなくなるから、すぐ追いつけ。


とは言っても……

出発の時、結構気合い入ってたけどな……


そんな疑問を抱きつつ、

懐中電灯を手に廃墟前の茂みを進んでいく。


数十歩進んだだけで、前方に人影が見えた。


姫神さんが、スタートから大して進んでいない場所で

立ちすくんでいた。


「あ……スゴミ君……やっと来てくれた……

ずっと待ってたの……怖かったよ……」


目をうるませながら、スゴミの袖をぎゅっとつかんでくる。


さっき出発したばかりだし、正味30秒くらいしか経ってないのに、

ずっと待ってたらしい。


でも、そんなのどうでもいいくらい、可愛い。

暗闇の中で、懐中電灯の光に照らされた姫神さんが、

妙に綺麗で、ドキッとする。


……3分も待たせなくてほんとに良かった。


その瞬間、次のプロジェクトが脳内で起動した。


【ネオン吊り橋プロジェクト③】

……「大丈夫だよ、一緒に行こう。」と、お前から言え。


ちょ、マジか。

心の準備……まったく足りてない……!


「あ! マリアン! その、だ、大丈夫っすよ…あ、あの…いっ…い…」


しどろもどろのスゴミに、姫神さんが先に声をかける。


「一緒いこ?」


「は、はい! よろしくお願いします!!」


言われた瞬間、反射で背筋が伸びた。

スゴミはぎこちなく頷き、姫神さんの袖に触れられながら、

一歩ずつ歩き出す。


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