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神様からのラブレター

作者: さむおど

【手紙】


   光思郎くんへ


 好きです。

 私、こういうの書くの初めてで、何を書けばいいのかわからないや。でも自分のこのあふれる気持ち、伝えたい。

 好きです。

 ひとめぼれでした。でも、外見だけが好きとかじゃなくて、話をしていく内にどんどん好きになって、今じゃとても胸にしまっておけないくらいで。

 好きです。付き合ってください。

 こんな気持ち初めて。

 もし、あなたにもその気があるなら、今週の土曜日十六時ハト時計台で。待ってます。


   神様より


第一章 火曜日


 光思郎こうしろうは目覚めると、すぐにリビングに下りた。


「おはよう」

 キッチンで朝ごはんを作っているお母さんが真っ先にそういった。


「おはよー」


「不思議なお手紙が光思郎ちゃん宛てに届いたわよ。テーブルに置いてあるから見てちょうだい」


「うん」


 それは四つ折りにされた手紙だった。

 開くと、横書きで何やら書かれていた。黒のボールペンで。


 すぐにラブレターだとわかった。

 心臓が高鳴る。

 しかし、最後に「神様より」と書かれているのを見て、その気持ちは消えた。

 いたずらだ。

 光思郎に神様の知り合いはいない。


 誰だろうか。こんないたずらをしたのは。

 光思郎の内に、自分の気持ちをもてあそんだ奴をとっ捕まえてやろうという考えが浮かんだ。

 目にもの見せてやろうじゃんか。


 まずは犯人捜し。

 犯人の目星はついている。

 友達が一番怪しい。

 友達を疑うなんて最低だが、いたずら、悪ふざけが大好きな連中ばかりだからな。

 本人には悪気がない可能性もある。


 まずは一番の仲良し、求男ひでお

 さすがに一番の仲良しを疑う気にはなれない。

 求男は大人びているところもあるから、犯人ではないと思う。

 同じクラスで家も近い。


 クラスは光思郎、求男含め、六人しかいない。

 この際だから、クラスの全員紹介しよう。

 全員怪しいし。


 男子はあと二人いる。

 一郎いちろう真八しんぱちだ。

 二人は同じマンションに住んでいて、部屋も近いとかで仲良しだ。

 光思郎と一郎も同じ郎の仲間ということで仲良しだ。

 真八とはそこまで。


 男子は計四人に対し、女子は計二人しかいない。

 かなとネロナ(漢字名はもちろんある。しかし本人が難しい、かわいくないといって嫌いで、カタカナ名を愛用している)の二人だ。


 小学六年生になって、男女間の壁を感じるようになった。

 だから、いくら少人数クラスといはいえ、話すことはほとんどない。


 手紙どおりに犯人の性別を判断するなら女ということになる。

 でも、女子がそんないたずらをするとは思えないんだよな。

 やっぱりこんな子供っぽいいたずらをするのは男子な気がする。


 他のクラスはない。

 一学年に一クラスしかない過疎学校なのだ。


 クラス以外の知り合いに塾友の三人がいる。

 男子は内二人。

 吏宮りく栗之助くりのすけだ。


 犯人はおそらく、いや間違いなくこの五人の中にいる。


 今日、塾はない。明日だ。

 だから、塾友に事情を訊くのは明日にして、今日は学校の友達に訊くとしよう。


---


 チャイムが鳴った。求男が来たのだ。

 光思郎はインターホンには出ずに、外へ出た。

 手紙をポッケに。


 見るとやっぱり求男だった。


「いたずら手紙が届いたんだ」

 光思郎は挨拶もなしに早速そう切り出した。


「誰から届いたと思う?」と続ける。


「一郎あたりじゃないか」


 二人は学校に向かって歩き出した。


「実際はそうかもしれないけど、文面上は神様だってさ。ほらね」

 そういって手紙を伸ばして見せた。神様の部分を指さして。


「神のネの部分だけシャーペンが使われているな。他は黒のボールペンなのに」求男はいった。


「ん? あっ本当だ。よく気づいたね。一体どんな意味があるのかな」


「さぁね。ちょっと貸して。読ませてよ」


 求男は三回ほど読んで、光思郎に返した。


「これはいたずらでも何でもなく、正真正銘のラブレターかもしれないぞ」


「でも神様なんてありえないだろ」


 求男はうなずいた。


「確かにな。でも最後の一文が気になる。日時を指定して待ってますだなんて」


「誰もいないところで待っているターゲットを傍から眺めて楽しむんじゃないか」


「だとしたら悪質だな。……光思郎、この犯人を突き止めたいんだろ? 協力するよ」


「本当か! ありがとう」

 といいつつも、光思郎は求男が犯人だった場合を想像した。

 いや、それはないな。

 だとしたら、大分サイコパスだと思う。

 光思郎は求男を信頼することにした。


「この手紙、学校では出すなよ」求男はいった。


「どうして?」


「さっきいったとおり、本当にラブレターかもしれないんだ。神様の部分だけが誰かにいたずらされた可能性がある。自分が書いたラブレターが教室で出回っていたらいやだろ? 事実関係がはっきりしない内にそうすれば、事態が余計、混乱する可能性もあるし」


「そうだね」


「タイムリミットは土曜日の午前中までだろうな」


「どうして?」


「土曜日の十六時ハト時計台が待ち合わせだろ? 本物の手紙の送り主が待っているかもしれない。光思郎が来るのをさ」


 その言葉に光思郎は違和感を覚えた。


「うーん、僕はやっぱりこの手紙、ただのいたずらな気がするよ」


「理由を聞かせて」


「ひとめぼれってのがな。僕、そんなにイケメンじゃないから」


「そうだな。平凡だ」


 光思郎はうなずいた。


「それに、話をしていく内に、っていうのも違和感がある。僕は女子とほとんど話さないから」


「でも、ほとんど話さないといってもゼロじゃないんだろ? それが相手にとっては大事な思い出だったかもしれない。

 顔にしてもそうだ。平凡とはいえ、その相手の好みに合っていたのかもしれない」


「そうかな」


「まぁイケメンといえば、一郎だよな」


「うん。間違いない」


 会話が途切れる。


「犯人の目処はついているのか?」求男が口火を切った。


「四人いる。一郎、真八、吏宮、栗之助だ」


「一郎と真八はわかる。同じクラスだから。りくとくりのすけってのは誰だ? 近所の友達?」


「いや、塾友だよ」


「塾友の二人は光思郎の住所を知っているのか?」


「知っているよ。だから犯人候補ってわけ。でも家が大分離れているから、手の込んだいたずらってことになる」


「恨みを買ったりしたことは?」


「ないと思うな。というかゲームの話しかしないから。塾友なのにね。みんな勉強しているのを隠したがるんだ。かくいう僕もそうだけど。

 要するに、当たり障りのない話しかしたことがないというわけ」


「なるほどな。まぁ塾の方の調査は任せるよ。もうそろそろ学校だな」


「だな」


「まぁこう推理を巡らしているわけだけど、案外すぐに謝って来たりしてね」


「そうだといいけど」


---


 教室の前の廊下では叶とネロナ、それから下級生の女子とが話をしていた。

 女子には上下の繋がりがある。


 教室には一郎と真八がいた。

 光思郎と求男はラストだった。

 まぁいつものことだ。


「「おはよう!」」二人は挨拶をして入った。


 一郎と真八は会話を中断することはせず、手をウサギのようにして返答した。


 荷物をかけると、光思郎は一郎に真っ先に話かけた。

 一郎は真八と話をしていたが、無理やり割り込んだ。


「今朝、とんでもないものがポストに入っているのを見つけたんだ」


「一体何が入ってたんだ」一郎が訊く。


 真八は自分の席に戻った。

 真八はちょっとシャイで、こうなるのはいつものことだった。


 遅れて求男も、僕も失礼するよ、といって混じってきた。


「神様からの手紙だよ。しかもラブレター。神様から寵愛を受けてしまうなんて僕はなんて罪な男なんだろうか」と光思郎は演者のように嘆いた。


 一郎は吹き出しそうなのをこらえていた。

 そんなに面白かったか?


「しかも付き合ってほしいらしい。今週の土曜日に会う予定。神様と会うなんて、いやー楽しみだ」と光思郎は続けた。


 一郎は吹き出した。


「キミは神様と話したことあんのかよ?」


「いやないよ」


「手紙には、話していく内に、とかって」

 一郎は話を途中で止め、一瞬バツの悪そうな顔をした。


 光思郎は察した。


「お前……」


 その時には一郎は開き直っていた。


「……ああそうさ。神様からの手紙を出したの僕さ。でも言い訳をさせてくれ。オレも被害者なんだ」


「どういうこと?」


「あの手紙がオレの元に届いた時の状態から話そう」


 一郎は光思郎、求男と視線を移動させ、最終的に宙を見た。


「あの手紙は元々、オレ宛ての手紙だったんだ」


「でも、光思郎って書いてあったぞ」光思郎が口を挟む。


「簡単だよ」

 そういって、一郎はノートを開き「一郎」と書き込んだ。


「見てろよ」


 次に、「一」の前に「光」を書き、「一」を「思」に変形させた。


「あ!」光思郎は思わず声を出した。


 求男は察しがよく、うなずいただけだった。


「そして、オレ宛ての手紙は神様からのではなかった」


「じゃあ誰からの手紙だったんだ?」


「ネロナさ」


「それを同じ手口で神様に変更したんだな」


「そういうこと。ロを申に、ナを木にして羊みたいな漢字を加えて神様にしたってわけ。この手紙はいたずらですよ、とわかりやすいようにな」


「なるほどな。でも君は被害者だったんだろ? 何処にもいたずら要素が見えないんだが。ネロナからの手紙が一郎に届いたんだけじゃないか」


「そうだ。そこまではいいんだ。で、オレは手紙を受け取った翌日、つまり昨日、月曜日にネロナに確認したんだ。オレは待ち合わせ場所には行かないつもりだった。つまり付き合わないってこと。だけど女の子を待たせる趣味はない。だから前もって伝えておこうと思ったんだ。ところがどっこい彼女はそんな手紙を出した覚えがないというじゃないか。オレは恥をかいた」


「それで憂さ晴らしに八つ当たり代わりの手紙を僕に送ったってわけか」


「そうだ。すまん。でもいたずらってすぐにわかっただろ?」


「ああ、すぐにわかったよ。まさか本当に神様を惚れさせたと勘違いするほど、ファンタジーな頭はしてないよ。まぁ気持ちをもてあそばれてムカついたけど、君よりかはましだな」


「そうだろ」


 一瞬の沈黙が流れた。


「そろそろいいかな?」求男は突然、話し出した。


「「何が?」」

 光思郎と一郎は口を揃えてそういった。


「真犯人と真の手紙の送り主がわかったよ。おそらくだけど」


「「え⁉」」二人は再び口を揃えた。


「聞かせて」光思郎はいった。


「一郎が手紙を受け取った時、ネロナより、と書かれていたんだよね?」


「そうさ」一郎は答えた。


「『ネ』だけシャーペンで描かれていたことに気づいたかい?」


「そうだったのか? 気づかなかった。けど、それがどうしたんだ?」


「いや、真犯人と君は似ているよ。手口が。優しさが感じられる点もね」


「一体全体、何処が優しいというんだ? オレは恥をかいたんだぞ」


「まぁそれは一旦、置いておこう」


「そうだな。話を中断してしまった。すまない」


 求男は話の続きを始めた。


「真の手紙の送り主は叶だよ」


「どうして?」


「ちょっと借りるよ」


 そういって求男は一郎の鉛筆を借り、開かれたノートに「叶」と書いた。

 そしてその左に「ネ」と書いた。


「なるほどね。叶の十の部分がナにしか見えなくなった」光思郎は興味深そうにいった。


「つまり、コレは叶ちゃんからの手紙だったのか⁉」

 一郎は顔を赤らめていった。


「君もしかして……。いやーおめでとう。相思相愛ってやつ?」光思郎は拍手した。


 求男は興味なさそうに、ただ拍手した。


「オレ、叶ちゃんに話かけてくる」一郎はそういって席を立った。


「真犯人を聞きたくはないのか?」光思郎が諭す。


「今から行くのはむしろ不自然だよ。昨日気づいて然るべきだったんだから。こうなったら土曜日まで待つのが得策だと思うね」求男は論理的に諭した。


「そうか。確かにな」一郎は席に座った。


 けれど依然、うずうずしている。


「で、真犯人は誰なんだ」光思郎が訊いた。


「おそらくだけど、真八だ」


 一郎と光思郎は一斉に真八の席を見た。あいにく真八はいなかった。

 トイレにでも行っているのだろう。


 一郎と光思郎は求男に視線を戻した。


「で、どうして真八が?」光思郎が訊く。


「彼と君は同じマンションに住んでいるだろ?」


「そうさ。それが?」一郎が返答する。


「きっかけは偶然だったんだと思う。おそらく叶は間違えて真八の家のポストに入れたんだ」


「それはあり得るな。オレん家のポストと真八ん家のポストは隣同士だから」


「やっぱり。で、真八はいたずらを思いついた。イケメンな一郎を妬む気持ちがあったんだろう。でも彼には良心もあった。だからすぐに気づくように、シャーペンで一文字だけ付け足すといういたずらしたんだ」


「しかしそのいたずらが案外、質が悪くてオレは気づけなかったってわけか」


「そういうわけだな」


「でもオレはすぐにいたずらしたと白状したぞ。あいつはしていない」


 一郎はお怒りの様子。


「君だってきっと、こんなに早くタネ明かしするつもりはなかったんじゃないか」


「まぁそうだけどさ」


「きっと彼はいつまでバレないか、が気になりだしたんだろう。それでも金曜日にはタネ明かしするつもりだろうけど」


 先生が入って来た。真八も。

 叶、ネロナも遅れて来た。


「ホームルームを始めるぞー」先生が合図した。


 三人はその場をもって解散した。


エピローグ 金曜日・土曜日


 金曜日。

 今日は学校に少し早く行くことにした。

 ことの顛末を知りたかったから。


 教室に入ろうとしたら鍵がかかっていた。

 そうだった。

 朝一番の生徒が教室の施錠を解除するんだった。


 教員室で鍵を取り、教室に入った光思郎と求男はしばしだべって時間を潰した。


 しばらくすると、一郎が真八の肩に腕を回し、軽く首を絞めるようにして入って来た。


 一郎は楽しそうだった。

 無事、タネ明かししてくれたようだ。

 光思郎と求男はそれを察した。


「おはよう!」一郎はいった。


「「おはよう」」と返す光思郎と求男。


 遅れて真八も小さい声で「おはよう」といった。


---


 土曜日。

 クラスの男子四人はハト時計台近くの公園に集まった。

 一郎が受けた告白を見届けるのだ。


「一郎。もう行く時間だぞ」と光思郎。


 時刻は十五時四十分。


「そうだよ」と真八。


 実をいうと、真八も叶のことが好きだったらしい。

 だからあんないたずらをしたんだそうだ。

 けど、それで自己嫌悪に陥った。

 今は自分で自分を認められるように努力している途中。


 一郎は依然、動かない。


「どうしたんだ? 火曜日はあんなにうずうずしてたじゃないか」と求男。


 そこで「しゃー!」と、一郎は自分に活を入れた。


「行ってくる」


 一郎の背中を十歩以上離れて進む三人。


 突然、一郎は走り出した。

 叶がもう待っていたのだ。


 一同は遠くの草陰から、うまくいったのを確認した。


 一郎も叶も照れ照れだった。


「これ以上は野暮じゃないかね」と、求男がいった。


「そうだね」と光思郎。


 真八もうなずく。


 しばし三人は空を眺めた。そしてそのまま帰途についた。

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