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【本編完結】毒吐き蛇侯爵の、甘い呪縛  作者: 卯崎瑛珠
甘い呪縛

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22/42

【番外編】仲直りは、メンズトークで。



「ウォルトと仲直りだぁ?」

「そーです」


 お披露目夜会の出席準備をこなす毎日の中で、私がそう提案すると、ユリシーズが片眉をひそめた。


「あれは、勝手に乗り込んできたあいつが悪いだろ!?」

「王命に逆らえない騎士団長様が、わざわざ忠告に来てくれたんですよ」

「……そんなん、奴が勝手に」

「ダメです。ちゃんとごめんねとありがとうしましょう」

「……」

「友達少ないんですから。大事にしなくちゃ。ね?」

「おまえなあ」


 私が知る限り、ユリシーズが遠慮なくぽんぽん言葉を交わしているのは、騎士団長のウォルトだけなのだ。領内にいつでも入れるようにしているのは、彼だけのはずだ。

 

「彼は実直で信頼できる人だと思うんです」

「それはまあ、そうだけどよ」

「この王国で、ウォルト様のような方、貴重でしょう?」

「裏表のないバカ犬なだけだ」

「ぶふっ、ワンコ! 確かに!」


 がしがしと頭をかくユリシーズが、渋々「しゃあねえ。酒にでも誘うか」と言ったので、私は大きく頷いた。

 

「ノエルと、お料理の相談しときますね!」

「嫌な予感しかしねーけど、任せた」



 任せてもらえたことが嬉しく、嫌な予感について私はあまり深く考えていなかった。――すぐに後悔したけど。




 ◇ ◇ ◇




「本日はお招きいただき、ありがとう」

 

 ある日の夕方のこと。銀髪碧眼で分厚い体躯の、ユリシーズより一回り大きい騎士団長が、一人で馬を駆ってやってきた。

 騎士服ではなく、チュニックにトラウザというラフな格好でやってきたウォルトは、手にワインボトルを持っている。


「遠路をようこそお越しくださいました。さあどうぞ」


 執事のリニとふたりで土産のワインを受け取ると、ユリシーズの待つダイニングルームへと案内をする。

 

「まさか呼んでいただけるとは」

「ふふ。あの時のご忠告、夫婦ともども感謝いたしております。ウォルト様の正義感と友情に、感銘を受けました」

「っ! 嬉しく思う」

 

 がちゃり、と開けられた扉の向こうには、黒いローブ姿のユリシーズが既に座っていた。


「よお、ウォルト」

「リス!」


 両腕を広げて近寄る騎士団長を、渋々立ってハグで迎える。

 ウォルトは嬉しそうに、ユリシーズの肩をぽんぽん叩き、体を離すと今度は真剣な顔で


青晶石(せいしょうせき)の件は、すまなかった」


 と謝罪した。

 

 ユリシーズの実験の過程で偶然精製できた石、と言ってある。

 私の歌声で偶然できた石、なのだが「大して違いはないだろ」と言われて、それもそうだなと受け入れた。

 ちなみに、私の声の力で無理やりウォルトを退室させたのは「結界が作動した」ということになった。


「いい。王国も必死だったってことだろう」


 真剣な表情で話し出すのを、私は脇で黙って見ている。この時ばかりは侯爵と騎士団長の顔で、ふたりとも凛々しい。

 

「今や資源が枯渇していっているのは、目に見えているからな」

「騎士団長の耳に入るほど深刻か」

「その通りだ。貴族たちは自分の財産を守ることしか頭にない。民の暴動を抑えるのは俺たちの役割だが……切ないよ」

「だろうな……まあ、座れ。我が妻がウォルトのために色々作ったそうだぞ」

「え、まさか手料理! ですか!」

「はい! お口に合えば嬉しいのですが」


 リニがワゴンに乗せて運んできたのは、ノエルと一緒に作った料理の数々だ。

 とうもろこしをすりおろして作ったコーンポタージュに、燻製(くんせい)肉のチーズ焼き。新鮮な野菜を使ったサラダや、鳥のステーキなど。

 がっつり楽しんでもらいましょう! と腕によりをかけたものばかり。ちなみに食材や調味料は、中庭で採れたものと、ディーデから分けてもらったものだ。

 

「うわぁ」


 座ったウォルトが目を輝かせたのが、単純に嬉しい。

 一つ一つサーブするのではなく目でも楽しめるよう、一気にテーブルに並べていく。


「どうぞ召し上がれ」

「はい! ……その前に、奥方にも謝罪をしたい」

「え?」


 ウォルトは座った姿勢のままサーブしている私に体を向け、深々と頭を下げた。


「ウォルト様!?」

「近衛の一部が腐っていた。そのせいでいわれなき中傷を許してしまった。申し訳ない!」

「どうかお顔を上げて下さいませ」


 責める気持ちは、今の私にはない。

 だってそのおかげでユリシーズと結婚できたのだから、恨みよりも幸せな気持ちの方が強いのだ。恥ずかしくて、言えないけれど。


贈賄(ぞうわい)の証拠は掴めなかったが、陛下と殿下には報告をした」

「それだけで十分ですわ! さ、もう気にせず思いっきり召し上がってくださいませ。遠慮は不要ですわよ」


 ウォルトが顔を上げ、不安げにユリシーズを見ると、彼は肩を(すく)めて苦笑した。

 

「セラがいいならいいだろ。セラ。こいつ、ほんとに遠慮しないからな?」

「言うなよリス~! では、お言葉に甘えて」

「どうぞ!」

「食え、食え」


 あっという間に空になっていくお皿の勢いに、はしたないがゲラゲラ笑ってしまった。

 さすが騎士、食欲がものすっごい!


「うまい! うまい! これもうまい! うわあ、うまい!」


 

 ――れんご〇さんかな?


 

「はあ。なんて素晴らしい奥さんなんだ……羨ましいぞ、リス」


 食事後は腹ごなしの散歩をしながら、中庭のガゼボへ案内した。

 さわさわと揺れる季節の花々と、ハーブの香り。月明かりの下でそれらを楽しみながら飲むワインは、また格別なのだ。

 ガゼボには半円になる形でソファが設置してあり、ユリシーズ、ウォルト、私の順に座った。私の真向かいに、ユリシーズ。横にウォルトだ。

 ローテーブルには、リニが予め軽食をセットしてくれている。

 

 ユリシーズがワインボトルを傾けて、ウォルトのグラスに注ぎながら早速毒づいた。

 

「お前も早く嫁見つけろ」

「って言われてもなぁ」

「えっ!? ウォルト様、独身!?」

 


 騎士団長ってモテないのかな?


 

 そんな私の疑問が、言わなくても分かったようだ。

「我が家は男爵家でして……しかも遠征も多い身で」

 いじいじしながらグラスを回すウォルトの耳は垂れ、尻尾は完全に足の間に入っている(幻だけど)。

 

「そんなのただの言い訳だろ。鈍感でガサツだからだ。女心も分かってないしな」

「ああ!? リスだって何回もキレられてただろう!」

「おっま! それ言うかぁ!?」

「セラちゃん、なんでも聞いて! 俺、全部知ってるから!」

「えっ、全部!?」



 どうしよ、リスの過去の恋バナ聞いちゃう? 聞いちゃうー!?



「言うな! 聞くな!」

「えーと。えへへ」

「うわーかっわいいなー。えへへだって」

「見るな」

「なんでだよ。見るぐらいいいだろ! 可愛い女の子を見る機会、ないんだよ!」

「俺の嫁だっつの」

「セラちゃん! 今から乗り換える気はない? 俺、優しいよ!」


 

 はーーいーーーー?

 


「だってリスはさぁ、寄ってくる女が金目当てだからって、てめえにやる金は幻ですらねえよ! って魔法で雷出したんだよ。すごいでしょ」

「わーお!」


 かっけえ! って思っちゃった。

 

「てめ、まじで言ったな? 信じらんねぇ!」

「それでもすり寄ってくるのがいたから、今度は紫の霧出したんだよね。近づくと毒で死ぬぞって。ぶっはは! あれはおかしかったなー!」

「え!! 毒吐いたの?」

「吐いてねーよ。色だけだっつの」

「すっご! 見たい!」


 思わず立ち上がって、ユリシーズに駆け寄った。

 

「やんねぇ! 座れ!」

「見たい~! 見たい~!」

「やんねーっつの」


 脇に立って、袖を持ってぐいぐい引っ張ってたら

「おねだり可愛い~俺にもやって~」

 とだんだんウォルトがうざくなってきたので、無視してたら――


「あー。可愛い嫁が欲しい~シクシク」


 泣きだした。


「だから嫌だったんだ。こいつ、酔うと泣いて大変なんだよ」

「だいぶ鬱陶(うっとう)しいですね」

「だろ?」

「これ、どうするんです?」

「寝たらリニに運ばせる」

「うわー。リニごめーん!」

「気にすんな、慣れてっから。それより……セラの手料理、本当に美味かった」


 微笑むユリシーズが、私の手を握った。相変わらず、温かい。

 夜風で前髪が舞って、瞳が輝いて見える。


「ほんと? また作ってもいい?」

「ああ。また食べたい」


 嬉しくて、抱き着きたいけど我慢してたら

「うわーん! おれも嫁ほしーよーーーあああーーー! ……ぐー」

 という断末魔でもって、ウォルトが膝に突っ伏して寝た。



 顔を見合わせて、ふたりで笑った。


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