狐に用はない
「なぜなんです⁉あらかじめ連絡が行って、さっき決めておいてくださいといましたよね⁉」
「お前、先輩に対して何言ってんだ。お前、一年だろ⁉」
こうなることを想像できなかった自分がひどく恨めしい。
卓球部、バレー部、バスケ部、剣道部という体育館を使用する部活との話し合いを順調に終わらせ、次はグラウンド種目と思い、野球部に向かった。ところが、野球部は次の練習試合が近く、相手にしてもらえなかったため、仕方なく三十分後にまた来ると伝えた。その間、ずっと練習風景を見ていたが、練習しているだけで事態は好転している様子はなかった。
その結果が先ほどの言い合いである。先輩というだけで何をそこまで威張れるのだろうと考えながらも、言い合う俺らは周囲から見ても加熱していった。
これだから野球部は苦手なんだ。
「お前のせいでレギュラーになれなかったら、お前の責任として退学しろ、入学早々退学して、行き場を無くしてニートにでもなってろよ。お前、ゲームとか好きそうな顔してるから、ニートの才能あるよ」
「ああそうかい、そっちこそ、レギュラーどころか新入生誰一人として入らず廃部してしまえ。そんなことも理解できずに、俺を退学にしていいのか?このままだと、きっと甲子園でもいい成績残している野球部が、新入生オリエンテーションで恥を掻くだけですけどね。あれ、この高校って後にも先にも甲子園の土って踏んだことありましったっけ?」
「っく、コイツ!大概にしろよ⁉俺らのことバカにしやがって!部員呼んで囲ってやる‼」
「ついでに部長連れてきてくださいね、その方が絶対話せると思うので」
言い過ぎだというのは理解していた。もちろん、部長には謝るつもりであり、ただ、この高校野の野球部ってこんな治安が悪かっただろうか。と江梨を疑った。
「それにしてもまさか、話しかけただけで要件すら聞かずにガン飛ばしてくると思わなかったな、これが運動部の花、夏を盛り上げる要素の一つなのか」
数分待たされ、本当に数十名・・・連れて俺を囲った。数十名というより、部員全員で。その中には自分のことをキャプテンという人が混じっていた。全員鬼の形相で、神前生徒会長に電話をかけてしまおうかと本気で思ったぐらい怖かった。
「で、お前か。うちに喧嘩売りに来たってのは‼」
「違いますよ、生徒会の者です。ただ新入生オリエンテーションのことで、部長さんを呼んでくださいといっただけで、ケンカ腰になったので言い合いになってしまいました。皆様に心でもないことを言って申し訳ございません」
接客業のアルバイトで読んだクレーム対応のマニュアル通りに対応してみた。本来、マニュアル通りではなく、相手に寄り添った対応をしなくてはいけないが、この際関係ないと判断した結果だ。あと、からかい半分。
「そうか、こちらこそ、すまなかった。うちのバカが迷惑をかけた。コイツ、早乙女は一年で早めに部活に入れられて、プライド高いんだ」
部長の言葉に部員が散り散りになっている中、早乙女と呼ばれた一年は部長にヘッドロックされ、動けずにいた。うめき声が聞こえるような気がしたが気にしない方向に決めた。
「コイツな、先輩たちにも「俺推薦されたんすよ」って言いまくって居場所ないんだよ。言う割には実力もないしな」
ああうん。器が小さいというか。全体的に小物だ。これは単純に話しかける相手を間違えたな。と、待て。これもしや、江梨の悪戯か?なんて、思いながら話を進めた。
「で、新入生オリエンテーションだっけか・・・」
案外話の分かる人で、聞いてみると自慢ではないが内申点は満点近い人で、何かお世話になることがあるかもしれないと、連絡先を交換した。名前は、藤上。さっそく、ガッツリ美少女系のスタンプが送られてきたのはびっくりしたが、趣味の面でも話せそうな先輩だった。
野球部でかなり時間を取られたので、今日はここまで切り上げた。時刻は十九時前で、型落ちのスマホで野球部を監視していた時に純玲に遅くなると伝えておいたが、バッテリーの状態的に既読されているのか見ることすら危うい。帰路に着こうと校門を出たところで、後ろから声がした。




