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タムケノハル  作者: 雪水湧多
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天才の始まり

「えっと、なら名前を決めよう」

「私たち全員に?」

「めんどくさいから、全部あわせて、あだ名みたいに」

「どんなの?かっこいいのがいいな」

「かっこいいのか・・・そうだな、苗字と名前の初めの文字と、いや・・・そうだ!シグマ。シグマなんてのは、どう?」

 こんな私たちにも平然と接してくれる治人は面白い奴だった。何かしてあげれば、ちゃんと別の形で返ってくる。例えば、都会にPCパーツを見に行った帰りに買った、限定のお菓子を渡せば、母が職場から持ってくるという、お菓子を大量に持ってくる。そんな治人を好きになることは必然だった。もとより、本来の私も惹かれていたようだったし。

 ただ盲点だったのは、中学に入るとあいつは私を置いて行った。クラスの中心とはいかなくても、いつも中央付近にいて、笑っている。そりゃそうだ。能力はイマイチで誠実だけど、顔とノリは良い。それでも私なんかを気に欠けようとしていたから、私は家に引き籠った。このころには、一つの体で既存のゲームを再現できるようになっていた。性格が違うだけだと思っていたのは見当違いで、思考回路も同じようで別物だった。物事を多角的に見れて、便利だった。

 部活は適当に卓球を選択したら、たまたま治人と一緒だったのは意外だった。私たちは案外卓球が好きなようで、部活だけやりに来た日もあったぐらいだ。そのため、打ち合える相手というのは非常に便利だった。

「最近どうしてる?」

「最近はね、最新ゲームの解析と模倣をしてるかな。もう過去の作品は大体わかってきたし、最新技術に触れてみたくて」

「お、おう。凄いところまで行ってんな。というか、最新技術と言えば、VRなんてのはどうだ?」

「VR?ヴァーチャルリアリティ?あれってまだ続いてたんだ。てっきり、見捨てられた技術だとばかり」

「そうでもないぜ、今のはゴーグルつければ別の世界だ。しかも、PCがなくてもスマホを使えば・・・」

「それって、目の錯覚を利用してスマホは映像流してるだけじゃ」

「夢のないことを言うなよ」

 こうして私たちはVRに興味を持った。他でもない、治人が興味のある分野だから。みんな納得して、勉強が始まり、ゲームを作りたいと考え始めた。

 再び引き籠り始める日々の始まりだった。あとから聞いた話、この頃、治人を踏めた三人で遊び始めたらしい。学校の勉強は別に勉強しなくてもできる、とかいう神に愛された天才ではない。それでもテスト日には思考体操と称して登校していた。当然、思考すればある程度わかる数国は平均以上で問題ないが、社英は壊滅的だった。あまりにわからず、知っている英語と言えばプログラムなもので、テスト用紙にプログラムを書いて生徒指導室に呼ばれたこともあった。行くことなんてないけど。

 半年でVRゲームのα版を作り出した。それでも、できるのはただの既存のVRゲームの劣化版。無難なシステムに水増しのための作業をプレイヤーに与えるただのクソゲー。現代ゲームもあながち当てはまるものなのだ。それを治人に言って怒られたのは反省点だ。

「つまらない。何がVRだ。結局は視覚情報を誤認させてるだけじゃないか」

 VRゴーグルをベッドに投げたこともあった。それでも、何か面白そうなものができて欲しいと、先生と治人のためにとすがるような気持ちで開発を進めていた。偶に治人を家に呼んでテストをさせていた。その時の父親の目は否定的で、呼んだ日には必ずこの体を“汚して”いた。終わると必ず数万のお小遣いをくれたため、どうしても必要なパーツがあった時には、あえて呼んでいたこともあった。治人には悪いとは思うし、まるでソリッドブックのような展開だが、幸い私は不感症らしく、全く感じることはない。また、父親も私が身ごもったら社会的に死ぬことになるため、避妊は徹底していた。終始最悪な気分だったことを覗けば非常にいいアルバイトになっていた。

 そんなことまでして必要だったパーツはネットで見た最新パーツ。いや、繊維というべきだろう。“電気粘性流体のように、電気を流し固くなるだけでなく、各色のLEDを付けたかのように色のついた光を放つ数ミクロンの繊維のSerサー。”の試作品。試作品でも問題ない完成度。私はその電気に目を付けた。電気の代わりに人の感覚信号を送れないかと。ただ問題はどうやってその実験をすればいいのか。問題はそのサイズだ。人の神経のサイズよりも格段に太いミリサイズ。

私はSerを分解して内部を調べた。面白いことに、速すぎる通信速度を抑えるために抗体が使われていたのだ。試作というのはその抗体をどれだけ使えばいいのかわからなかっただと気づいた。おそらく完成品は抗体を増やし、更に速度を落としたものが発売されるだろう。一メートル程度のSetをミクロンまで見られるデジタル顕微鏡で人の神経サイズにまで慎重に抗体を外した。

このまま自分の腕を切り落として確かめるのも悪くないと考えたが、プログラムを書く都合上どうしても手が必要なので、手ごろな人に頼むことにした。

「なんだ?今日はヤる気じゃないか、そんな薬なんかを用意して」

「これは精力剤よ、飲んでみて」

「へ、これでお小遣いを一杯もらおうってか」

 父親に瓶に入った薬を手渡した。躊躇せず飲み干す父親。中身はもちろん精力剤なんかじゃない。そんなもの間違っても渡すことはない。中身は睡眠薬。確実に過剰投与で、死なないギリギリを計算して入れてある。

「へへ、これ・・・で・・・」

「これでこの関係も終わりかな」

 気を失い、倒れた父親の背中を切り、脊柱の神経の一部切りSerに置き換える。ここまでしても、うめき声をあげ、眉間に皺を寄せているようで実験は成功したようだった。

ただこのままでは、実用性に欠けるため、コネクターを付けることにした。コネクターと言ったものの、Serの電気で動く性質を利用しSerの給電に使われる生体電気のオンオフを切り替えるものだ。外部から接続したときに、普段つながれているSerがオフになり、置換されていた神経の両端が入出力口になるというものだ。体を動かす信号だけを排除し、外部の映像を直接脳に流すことができる。当人からすれば夢のように見えると思われる。父親はこのまま黙っていて欲しいので、コネクタを外し全身不随にしたまま放置した。

「財布の終わりはあっけないな。これじゃまるで、ATMだ」

 どっちがクズかと言われたら、両成敗だろうか。クレジットカードの回収と腐敗のチェックで偶には戻ってこよう。

 冷房を最低温度で起動し、一旦最低限度の荷物を持って家を出た。


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