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根絶、果てより来客

 少女は、幼い頃から高い場所に憧れを抱いていた。

 木があればてっぺんまで登り、バランスを崩さないよう恐る恐る立ち上がっては辺りを見渡していた。

 高ければ高いほど、心が『もっと上へ』と叫ぶ。


 だから、その心に従っていた。

 二段ベッドの上段はもちろん占拠したし、頻繁に登山にも行ったりした。

 入学初日に勝手に屋上に入ってこっぴどく叱られたこともある。

 でも、そこで大の字になって寝っ転がり、広い青空を見上げ、まぶたの裏に太陽の光を感じながら眠る……他者からすればただのだらしない行為を、暇さえあれば――いや、それをするためだけに暇を作って、屋上に入り浸っていたかもしれない。

 叱られたって、やめられるはずもなかった。

 周りに何も無いと感じられるから、ずっと空を眺めていたい。

 誰にも邪魔されず、ただ幸福感を得るためだけに眠りたいのだ。


――そんな少女、レイナがいつものように屋上で寝ていた、とある一日を覗いてみよう。


 思い出は、視界全てを覆う灰色の空と同じくらい遠く、『早く晴れろ』とあるかもわからない流れ星に向かって願う。

 ああ、歌のひとつでも口ずさまなくては気分が上がらない。

 そう思い、腕に装着されたタッチパネルを操作して音楽を流す。


「なんですか、その曲」


 黒いヘッドホンを介して、物静かな雰囲気の少女の声がした。


「んー、『無題』かな」


 レイナはひとつのメモリーカードをふわりと宙に浮かべさせ、そう答える。


「いい曲ですね。なんだか心が洗われるようです」

「でしょー? さっき拾ったメモリーカードに入ってたんだけど、こりゃ大当たりだね。まぁ歌詞がないし、タイトルも入ってないからもしかしたら作ってる途中だったのかもねぇ」

「……まさか、また変なものとか拾ってないですよね? 部屋に不必要なものを置かれると狭くなるんですが……」

「む、何を言うか我が相棒よ。これはちゃんと必要なものですー! 私の気分が上がるから必要でーす! それにこれもこの異世界を知るためには回収した方がいいでしょ?」

「あぁ、はいはい。それよりレイナ、どこに居るんですか? ラビットが『いい加減に合流しろ』って怒ってますよ」

「うへぇー……フユリが来てよ〜。私、母校の屋上でぼーっとするのに忙しいからさ」

「……レイナ、また」

「おぉっと、いけないいけない。どこに居ても空は同じ顔を見せてくれるからね。つい勘違いしちゃったよ。えー、レイナ・クラリア、《赫熱巨塔群(かくねつきょとうぐん)》にてお昼寝中でした! いやぁここ高いねー、何階あるんだろ? 古のダンジョンって感じはするけど、何の目的があって作られたのかなぁ……あ、そだフユリ、目印に氷塊でも撃っとく?」


 連絡を取りつつ、メモリーカードをしまって装備を整え、屋上の端っこで両手を広げてバランスをとる。

 一歩でも踏み外せば、(あか)く熱せられている地上へ真っ逆さまに落ちていくだろう。

 レイナが立つ『巨塔』――それは六十階はあろう超高層ビルだ。

 真下に広がるのは他のビルと住宅街。全て廃墟で、灼熱の大地が広がっている。

 そんなところでレイナは現代では見慣れぬ黒いスーツに身を包み、翼のような機械を背負っていた。


「やめてください、ボロボロでも貴重な建築技術の塊です。もし壊しでもしたらリーダーになんて言われるか……あと、もう見つけました。ラビット、これよりレイナと合流、交代します」

「ん、おそいぞ……」


 幼く、ダウナーな声をしたラビットは少々呆れながら言う。


「仕方ないですよ、あの人低所恐怖症ですもん」

「おーい、通信切れてないかんねー? 聞こえてるかんねー? あと高いところが好きなだけです〜」

「しってる。それより……レイナはフユリと交代したらすぐ戻るんだぞ。飛行ユニットのメンテナンスするんだから」

「ちぇ、ラビちゃんに言われちゃ仕方ないなー。まぁマナも切れそうだし、大人しく戻るよ」


 そう言ってレイナは超高層ビルから飛び降りた。

 真っ白な髪をなびかせながら、荒れた地上を眺める。


「曲は良いし、空も綺麗なのに……ホント、この《異世界》で何があったんだろうね」


 地上まであと少し、というところでレイナは飛行ユニットを起動し、空へ飛翔する。

 そう、彼女達はこの荒廃した世界の住人ではなかった。

 レイナが持つタッチパネル、ヘッドホン、メモリーカード、そして高度な飛行技術――全て、異世界と称されたこの地球上で発見されたものだ。


「それを解明するのが私達の任務ですよ。もっとしっかりしてください」

「あっ、お疲れフユリ〜!」

「八割方レイナのせいでお疲れですよ」


 レイナと同じ飛行ユニットと黒いスーツに身を包んだフユリが、飛びながら寝っ転がるという高度な技術を披露しているレイナの腕を掴んで起こす。


「ふむ……じゃあ次の帰還日に私のオススメお昼寝スポットを紹介してあげよう! 王国の大通りに魚屋さんあるでしょ? その裏手に木が一本生えてる小さめの広場があるんだけど、そこには異世界で発見された『猫』なる動物がよく集まってくるんだよ! あの子達いいよぉ、暖かいし、かぁんわいいんだぁぁ! 木登りも得意だし、一緒になって寝るとお腹の上に乗ってきてくれて寝心地が最高で……!」


 そこまで言うと、何かに気付いたように表情をハッとさせる。


「つまり、私は猫……?」

「はぁ……。ん? つまりレイナが可愛い……? それは猫に失礼です」

「なっ、なにをぉう!? 私だって年頃の娘! 可愛さの一つや二つ……!」

「顔は良いのにだらしないですし」

「あ、愛嬌があるでしょ?!」

「片付けは出来ず、むしろ汚すばかり。家事は私に任せっきりで手伝おうともしない……。四六時中寝るか、許可も取ってないのに高所に侵入……挙句の果てには寝ぼけて他人の家に雹を降らせる始末……屋根の修繕費、まだ全部返せてないんですからね?」

「や、屋根の一つや二つどうってことないよ! これで帰還すれば報酬金入るし!」

「ちなみに数十軒の被害ですが、それ全てと次の任務までの生活費を賄えるだけの報酬を貰えるほど成果を出していると?」

「……よ、よーしフユリくん。私は飛行ユニットのメンテナンスが終わり次第このダンジョン群を攻略するから、それまで周囲警戒よろしく!」

「やる気になってもらえたようで良かったです」

「いいから早く戻ってこい……落ちるぞ」


――彼女達は、異世界探索第一部隊。

 俗に言うところの冒険者であり、異世界(日本)を彷徨う異世界人だ。

読んでいただきありがとうございます!

感想などいただければ励みになりますゆえ、よろしければお願いいたす!


ではまた(あるかもわからない)次回作で〜(^q^)ノシ

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