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9話 魔法おっさん

 仮面を被り、周囲の気配を探る。

 化け物に似た気配が何体か見つかった。おそらく、先ほど倒した化け物と同じような存在だろう。源さんを弔うためにも倒すべき相手だ。


 ついでに言えば、化け物たちによって源さんのような犠牲者が生み出されてしまうかもしれない。俺ならそれを止めることが可能だ。

 助けの手を差し伸べるのが元勇者としての役目だろう。


 俺は夜の街を駆ける。道中には人や車などの障害物が無数にある。騒ぎを起こさずに素早く通り過ぎることは難しい。ならば選ぶべき道は上だ。

 マンションの屋上に飛びうつった。ビルやマンションの屋上から屋上へと跳んで移動し、最短で目的地へと向かう。


「見つけた!」


 平屋建てのコンビニの屋上に化け物がいた。近くにあるマンションの屋上から様子を眺める。


 化け物はコンビニの上で咆哮している。川で見た化け物は巨大なタコのようだったが、今回の化け物はまた違う形をしていた。

 似ている動物を挙げるとすると熊だろうか。長く伸びた爪が凶悪だ。あっちの世界ではグリズリーと呼ばれていた魔物が近いかもしれない。

 種族が全く違うような見た目をしているが、タコの様な化け物も熊の様な化け物も似た気配を持っていた。どちらも本質は同じということだろうか。


「うぁぁぁぁ!?」


 コンビニを出てすぐのところで、店員が尻餅をつき、化け物に怯えて悲鳴をあげている。腰が抜けて動けないらしい。

 駐車場を挟み、歩道には何人かの野次馬がいて、携帯電話……いや、スマートフォンで化け物を撮影している。


 なんとまぁ平和ボケしていることか。

 逃げることもせず、店員を助けに行くこともせず、化け物の射程圏内で呑気に眺めている。あっちの世界の住人なら一目散に逃げるか立ち向かうか、どちらかを選ぶだろう。


「愚か……いや、違うな」


 これでいいんだ。

 平和ボケしていることこそ、平和である証だ。あっちの世界のような魔物の脅威がなく、人々が平穏無事に暮らすことができている証だ。

 化け物はその素晴らしい平和を脅かす。見逃す訳にはいかない。


 化け物が再び咆哮し、へたり込む店員に狙いを定めた。今にも飛び降りて喰らいそうだ。店員もその気配を感じ取ったのか助けを求めている。


「だ、誰か……」


 ありもしない助けだ。野次馬に助ける根性はない。店員に救いの手は差し伸べられず、化け物に殺されてしまうだろう。


 ――俺がいなければ。


「助けに来たぞ」


 店員の前に降り立ち、雷槍を構える。

 突如現れた俺に驚いたのだろうか。化け物は四足歩行の状態から後ろ足だけで立ち上がって威嚇してきた。


「こけおどしだな」


 さっき戦ったタコみたいな化け物の方が厄介だった。

 パワーは目の前の熊みたいな化け物の方が強いのかもしれないが、攻撃の多彩さという点では複数の触手を持っているタコの方が上回っていた。まぁ、いずれにせよ俺の敵ではない。

 俺の余裕な姿が癪に障ったのか、化け物は平屋の屋上から襲い掛かってくる。


「ひぃぃぃッ!」


 店員が悲鳴をあげた。

 俺が避ければ化け物は店員に直撃する。俺の実力を知らない店員の恐怖は計り知れないはずだ。


「安心しろ」


 化け物を迎え撃つ。相手がその爪で攻撃してくるよりも先に、雷槍をその胴体へと突き刺した。

 化け物はすぐに力を失って倒れる。その肉体が消滅した。

 食べたら美味しそうなのに……。

 化け物を倒すとその身体は消えてしまうことが残念でならない。


「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます」


 まだ他にも化け物の反応は残っている。

 次の目的地へ行こうとすると、スマートフォンのカメラで戦闘を撮影していた野次馬の少年が近づいてきて、待ったをかけた。


「あなたは魔法少女……なんですか?」


 どういうことだ。

 妹がかかさず見ていた魔法少女のアニメを、俺も一緒に見させられたことがある。魔法少女がどういうものかは俺にも分かる。

 今の俺にそういう要素があるとは思えない。そもそも、どこからどう見ても俺は男だ。仮面を被っているとはいえ、骨格や声ははっきりと男だと分かる。魔法少女という概念からはかけ離れているだろう。

 にもかかわらず少年は俺が魔法少女なのかと問うた。


 謎の化け物と魔法少女……か。


 この世界には化け物がいる。ならば、それを狩るものがいてもおかしくはない。化け物たちを狩る存在こそが魔法少女ということか。


 ファンタジーな異世界からファンタジーが存在しない現代日本に戻ってきたと思っていたが、どうやら俺が知らなかっただけで、この世界にもファンタジーが存在していたらしい。魔法少女の活躍する世界だったらしい。


「くくっ」


 思わず笑ってしまう。

 レティシアもついてなかったな。

 どうせなら俺みたいな一般人じゃなくて、化け物との戦いに明け暮れている魔法少女とやらを召喚すればよかったのに。俺なんかよりももっと上手くやったことだろう。被害を抑えて魔王を倒すことができただろう。


「俺は魔法少女じゃない」

「魔法少女しかヴェノムは倒せないはずなのに、男のあなたがどうしてヴェノムを倒せるんですか!? あなたは一体何者なんですか!?」


 魔法少女だけがあの化け物を倒す力を持っているらしい。そんな世界で、化け物を倒すことができる俺は異端なのだろう。


「あえていうなら……魔法おっさんってところかな」


 まだほかにも化け物――ヴェノムと呼ばれているらしい――は複数いる。次のヴェノムを倒すため、俺はこの場から立ち去った。

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