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2 世界のお話

「さて、皆様のステータスの登録が終わりましたので、この後この世界について説明させていただきます」

「すみませんが、みんな疲れていると思うので、少し休ませてあげてください」

「なるほど、まあ焦っても仕方ありませんね。では、一度宿舎に戻り休憩の時間としましょう。

 機を見て呼びに伺いますので、ごゆっくりしていてください」

 

 先生のナイスな物言いのおかげで宿舎へと歩いていく。

 町並みはまさに中世のヨーロッパ!

 なーんてね。ただの石造りの家が立ち並んでるだけ。

 そして前に見えるは圧倒的な城!

 贅の極みとも思える圧倒的な建築物へ向かって行き、その大分手前にある大きな平屋に入っていった。

 あれー? 呼ばれて飛び出てこの平屋?

 

「はっはっはっ、わりーな。あっちの王城にはさすがに入れられないみたいだ。無理やり呼ばれた勇者様方なのに、貴族ってのはよくわかんねーよな」

「ちょっと期待して損したわ……」

「まあ、一人一部屋は用意するからそれで我慢してくれ」


 へっ、期待なんかしてないやい!

 むしろ、城で寝るとか緊張しすぎて逆に落ち着かないからこっちのほうがよかったんだい!

 

「まあ、城で寝るなんざ緊張して落ち着かないだけだぞ」


 はっ、心を読まれた?

 で、でも一日ぐらい……

 

「でも一日ぐらい……」


 はっ、口に……でてない。

 まさか、クラスの人からも心を……ないだろ。

 みんな小市民なのさ。

 

「ははっ、それはおいおいな。それより今は休め。各自の部屋は中のやつが案内する。それと説明もここでやるから安心していいぞ」

 

 どうやらこの平屋は守護団の駐屯地のようだった。

 なるほど、ここでなら勉強も訓練も十分にできるだろう。

 案内された部屋は、勉強机と木のベッドが置いてあるだけの質素な内装だった。

 そして部屋を確認した後、寝た。

 

 

 

 次の瞬間、音が聞こえて飛び起きた。

 ドアが叩かれたようだ。

 守護団とかいうやつの人かな?

 立ち上がってドアを開ける。

 綺麗な女の人がいた。


「はじめまして、ヒライ様に付かせて頂くことになりました、マリナと申します。よろしくお願いいたします」


 そう言ってお辞儀をしてくる。

 けど、頼んでない。


「あの、すいません、聞いてないですけど」


 マリナと名乗る人は姿勢を正すと、しっかりと目を合わせてくる。


「はい、ヒライ様が突然のことで戸惑われているであろうこと、さらにこの先慣れないことをされるであろうこと、それらを踏まえ少しでも快適に過ごして頂こうと、身の回りのお手伝いをさせて頂くために参りました」


 優しそうな自然な笑顔を見せているが、しっかりと訓練された作り込まれた自然な笑顔だということは看破している。

 つまり、なにかしらの利害がある。

 うん、当たり前の結論に遠回りして辿り着いただけだ。こんなものは新聞とか宗教とかの勧誘とか商材販売とか街頭アンケートと同じに決まってるんだし、顔に騙されちゃいけないのだ。


「あ、そういうことなら、大丈夫です」


 軽く頭を下げてドアを閉める。

 閉めれた。

 どうだろう、すぐ帰ってくれるのか。

 ……

 ドアが叩かれた。

 ……守護団とかいうやつの人かな?

 開けない。

 もう一度ドアが叩かれる。

 こういうやつはこっちが折れちゃいけない。しつこく迫って契約なりを得るのだから。

 まあ、ドアには鍵が付いてないからあんまり意味は

 ドアが開けられた。


「失礼します。先ほどの説明に不備がありましたので、付け加えさせて頂きます。

 申し訳ないのですが、ヒライ様がここで生活される中で複数の制限が付くことになっておりまして、それらの行動には私の帯同を伴う必要があるのです。

 ですので、私がいないと生活にご不便が生じてしまう場合があります。

 そういったことも含め、お手伝いさせて頂くために参りました」


 再度お辞儀をしてくる。

 けど、今困ってないし。


「あの、じゃあ困ったらその時また誰かに言うんで」


 そう言うと、マリナと名乗る人は顔を上げた。が、若干空気が変わったのを感じる。

 怒気。

 日本人として人並みに空気を読めるので、微妙な空気の変化には敏感だ。

 それが怒気ならなおさらだ。

 けどこっちだって不要なものを買わされたくないんだし、仕方ないじゃないか。


「その他、ヒライ様に給付されるものも私を介すため、基本的な生活にも影響が出てきてしまいますが、よろしいですか?」


 はあ? じゃあ強制じゃん。強制ですって言やあいいじゃん。

 てか、なんだし。


「えと、例えばなんですか?」

「はい、普段着るお着替え、食堂で使用できるお食事券、一律の給付金、その他備品などです」


 ほら強制。

 これ、試しに断ってみたらどうなるんだろう。

 ……やめとこう。


「そういうことでしたら、お願いします」

「ありがとうございます。精一杯お世話させて頂きますので、よろしくお願いいたします」


 再再度お辞儀をしてくる。

 改めて全体を見ると、メイドっぽい感じだ。

 黒い全身ワンピースみたいなのに白いエプロンみたいなのがついてるあの感じ。


「それでは、早速で申し訳ありませんが説明会がございますので、会場へご案内致します」

「はい」


 そうだった。



 説明会の会場とか言って、普通の教室だった。

 まあ、どうでもいいんだけど。

 その教室には生徒たちがもうほとんど集まっていて、わちゃわちゃと話し合ったりしていた。

 また、他の人に付いているであろうメイドっぽい人も数人いる。

 男もいる。男には女、女には男、ってことだな。

 そして、全員美人。

 うん、何かな、みんなたぶん嬉しいのはそうだと思うんだけど、なんというか、美人局(つつもたせ)感。

 これはそうだな。監視して弱味を握って思い通りに使おうとしてるに違いない。


 そんなメイドのマリナさんは、教室に着くとすぐに戻っていった。

 一回手を出してしまったら最後……普通にダメだろ。

 でも何もしてなくても、何かしたことにされて……敵を見極めなくては!

 

 さて、席を探していると、尚正が隣に来るように促してきたので、それに従って座る。


「平井ぃ、さっきの話本当だと思うか?」

「さっきの話って、日本に帰すってやつ?」

「ああ、嘘だと思うか?」

「ほぼ嘘でしょ。あんなごまかし方はない」

「そうか」


 尚正がこうやって話しかけてくるのは意外だ。

 こういう時だったらオタク仲間、通称オタクちゃんズと一緒にいるかと思ってた。

 けど嫌じゃないからいい。当たり前だけど、嫌いな人じゃなければ話すのは楽しいからね。


「てかあれ、メイドいるじゃん。あれ強制だよね」

「ああ、あのブスな」


 ん? それは、わかんないや。


「いや、それはわかんないけど、とりあえずあれなんなんだろうね。自由なすぎじゃね」

「いや監視に決まってるだろ。あいつらそもそも俺らのこと道具としか思ってねえよ」


 ねー。決まってるよねー。


「やっぱりそうだよねー」

「平井ぃ、わかってなかっただろ」



 ほどなくして、ブラマさんが入って来た。


「お待たせいたしました。皆様揃っておられるようなので、早速始めさせて頂きます。

 まずはこの世界の数十年の歴史をお話ししましょう」


 こういうことらしい。

 この世界には現在四つの大国がある。

 この本国である南東の王国――ファリク王国、北東の帝国――ガシュー帝国、北西の王国――グラゼ王国、北部中央の共和国――アノク共和国だ。

 

 そのうちファリク王国とガシュー帝国は統一を図って激しい戦争を行っていた。

 しかしある時、南西に存在している暗黒大陸から魔族が襲来してきた。

 危機を感じた二国は戦争を止め、共同戦線を張りこれに向かえ打った。

 この二国は、暗黒大陸との間にある広大な地――不夜砂漠で敵と対峙することした。

 

 この両国は多大な被害を受けながらもこれを撃退した。

 しかし、このファリク王国はひどかった。不夜砂漠だけならまだよかったが、突出した海岸部からも攻め込まれたのだ。

 結果、なんとか魔族は退けたものの、国内も被害を受けて我慢ができなくなったファリク王国は、勇者を召喚して魔族に打って出ることにした。

 

 北の国々も攻められたが、北にはメンソ山とその山脈が天然の要塞となり、被害はほとんど出なかった。

 また、二国間の緩衝地帯となっていた地域は、現在小国が集まり独立国家を名乗り、新たな火種になっているという。

 

 魔族は、それぞれ元の暗黒大陸まで下がっていった。



(ファリク王国かわいそう)


 尚正と小声で話す。

 小声で話すぐらいはみんなやっているので問題はない。


(嘘かもしれねーぞ?)


 そうだ。嘘かもしれない。ブラマさんは怪しさの塊なんだった。

 けど嘘なんて全然わかんなかった。めちゃくちゃ自然に話してるしつじつまも合ってる。と思う。


(どこっぽい?)

(さすがにまだわかんねーわ。推理しようぜ)


 なんか楽しそうだ。

 もちろんやるぜ!


(いいよ)

(そうこないとな。とりあえずもう少し聞くか)


 でも魔王を倒しても帰れないっていうのは大きいヒントっぽいよな。

 まるで、とにかく魔王を倒せればどうなってもいいと言ってるような感じ。

 とにかく話を聞こう。



「続いて、皆様の敵となる、魔族について説明いたします」


 こういうことらしい。

 魔族は、その昔女神イオ・トリニティ様に敵対する邪神バムアンによって生み出された邪悪である。

 体には膨大な魔力を有し、身体能力は人より高く、見た目も人に似ている。

 そして、多少の人語を話すも互いに理解し合うのは不可能だという。

 理解し合えないと分かるや否や、すぐに襲ってきて骨も残さずに食らいつくす。

 そしてそんな魔族たちを従わせるのが魔王。

 それを倒すために、俺たちは呼ばれたということだ。



(平井ぃ、これはさすがに信じられないわ)

(嘘っぽいよな)

(だな。それで魔族の神を邪神と呼んでる。宗教問題が絡んでるな)


 そうか、邪神ときたか。

 となると、とにかく魔王を倒せればどうなってもいいと言ってるような感じが強くなった。


(どうだ? さっきの話の嘘はわかったか?)

(それはちょっと難しい。けど魔王を倒せればどうなってもいいと言ってるような感じはある)

(確かにな。とすると……魔族が攻めてきたっていうのが反魔族感情をあおれるな)


 うーん、どうだろう?

 ちょっとこじつけすぎな気がしないでもないなあ。さすがにうがった見方をしすぎな気がする。


(いやあ、それはどうかな? 魔族が攻めてきたから俺たちを召喚したんじゃないの?)

(それもあるが、タイミングが重要なんだよ。こんなに魔族が嫌いなら、いつか攻めてくるかもって普通思うだろ? だったらとっくに召喚してこっちから攻めた方がいい。さすがに違和感あるだろ)


 確かに。


(じゃあ魔族が攻めてきたってところが嘘かもしれないってことか)

(ああ、だがこれ以上は実際に見て確かめないと無理だな。これが限界だな)

(十分でしょ)


 魔族だろうが魔族じゃなかろうが、怖いことには変わらないだろ。

 魔族なら人を食ってくるし、魔族じゃないやつはよくわからないという怖さがある。

 いや、ちょっと怖すぎる。帰りて……



「ですが、まだ皆様には魔王を倒すほどの力はありません。これから数か月の訓練で強くなっていただき、その後は暗黒大陸へ向かい邪悪を討伐していただきます」

「冒険者ギルドってありますか?」

「ありますが、皆様には関係ないでしょう。ですがそうですね、それも説明しておきましょう」

 

 こういうことらしい。

 邪悪を断つ力は二種類ある。

 守護団と冒険者だ。

 守護団は使命感で戦うが、基本的に守りの力だ。

 冒険者は攻めの力だが、使命感で戦わず金とリスクで戦うかを決める。

 が、その力に世界を救う信念はない。

 そこで世界を救うために、守護団の攻めの力として俺たちを召喚した。

 つまり俺たちは守護団所属になるため冒険者にはなれない。

 当然だが、かなりの援助、報酬は惜しまない。

 

 ……はあ? 守護団所属? なんで頑張らないといけないのですか?

 思い入れがない。どころか嫌なことしかない。

 てかこっちの金、日本で使えないし。


(なあ平井ぃ。これ嘘とかの前に意味がわかんないな)

(な。こりゃヤバいってばよ。何がヤバいって、ヤバすぎることだよな)

(ヤバいな~、ヤバいよ~。たぶんやるっていうやつがいるからもっとヤバい)


「やるに決まってます! こんなに困っている人がいるのに見捨てられるわけがありません!」


(ヤバ来った~ヤバヤバ)

(ヤッバヤバヤバヤッバー)

(吐ーきそー吐きそー)

(尚正、俺はもう、全部終わるまでずっと訓練してることに決めたよ)


 なんで他国の戦争地帯に行って参加しなくてはいけないのか。

 自衛隊員でも軍人でも傭兵でも、もっと現実的に言っても戦争カメラマンでもないのに。というか海外旅行すらしたことない。

 現実を見るべきなのか? ということはやはり、この世界で平和に生きていくべきだな。

 

 でも話はとんとん拍子で進んでいくわけで……


「ありがとうございます。では、明日から訓練を始めていただきたいと思いますがよろしいですか?」

「あの、明日は街を見て回りたいのですがよろしいですか? やはりあまりにもこの世界を知らなすぎます」

「ふむ、そうですね。早くこの世界にも馴染んでもらいたいですしね。では守護団には伝えておきましょう」


 やりやすいだろうなあ……

 一応先生のナイスな物言いのおかげで明日は休日になった。


(やっぱり勇者はがばがばだべ)

(尚正、俺が死んだら火葬にしてくれ。形が残るのはどうしても嫌だ。灰は適当に捨ててくれてもいいから)


 つい本音が出たところで席を立つ。

 悲しいかな時は進んでいく。

 さらに悲劇なことに自室の前についてしまった。

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