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ボーナストラック バッドアス・ケイン

プロレスの日につき特別編!

 その当時のレスリングファンたちの間では常にこのような会話が繰り返されていた。


「やぁ今週の番組は見た? 君はどっち派? 僕はもちろん、ハンターヘッズ!」


「はぁ? 何言ってんだガキが、J・Dの方がクールに決まってんだろ!」




「──ダイナソーが突如乱入!? ミッシェルを棍棒で襲撃!! あー! 救出に向かったハンターをカクタスマンが妨害したぞ!? 一体何が起きているんだ!!」


 業界を二分する一大抗争の幕開けはこの事件だった。


「──タウンゼントがカクタスマンの大事なサボテンを持っている! アンビリーバボー! サボテンを人質にカクタスマンを操っている! なんという事でしょう! ミッシェルは脱落! これでバッドアス・ケインの勝利が確定しました!」


 バッドアス・ケイン対ミッシェルのインターコンチネンタル王座を賭けた一戦。

 リングからの脱落で勝負を決める特殊ルールでの試合での事だ。

 この試合に突如介入したのが、二年間の休養を経て復活したダイナソーだった。

 彼の右腕であるタウンゼントはミッシェルを攻撃し、救出に向かったハンターもカクタスマンの裏切りに合い撃退された。

 そして。


「俺は今ここに! ジュラシック・デモリションズの設立を宣言する! 標的はハンター! 貴様の首だ!!」


「──ワッツ!? 一体何を言ってるんだ!? ダイナソーがチームを設立するって!?」


「そしてバッドアス・ケイン! お前をチームに歓迎しよう この勝利は俺からの贈り物だ」 


 会場は凄まじい怒号とブーイングで揺れていた。

 バッドアス・ケインは近年人気急上昇中の中堅レスラーだ。

 ダイナソーと同じく、非常に荒々しく暴力的な試合展開で知られている。


「──ダイナソーがケインに握手を求めている!」



 バッドアス・ケインは握手に応えると見せ掛け、代わりにダイナソーからマイクを奪った。


「俺が今何を思っているか判るか?」


『what's!?』

 観客は彼の言葉に合唱で答える。


「俺が今、こいつらをどうしようと考えているかわかるか!?」


『what's!?』


「なら教えてやるぜ こいつらを|酷い目にあわせてやる!《kicked in the teeth》」


『yeah!!』


「──あーっ! ケインがダイナソーとタウンゼントに必殺のバッドアスDDT! 両者を撃退しました!」


『Badass!』『Badass!』『Badass!』『Badass!』




 これが2つのチームの苛烈な抗争の始まりだった。

 ハンターとミッシェルが率いるハンターヘッズ。

 ダイナソー率いる|ジュラシック・デモリションズ《J・D》互いに20名ほどのレスラーからなる巨大チーム同士の争いは注目の的となった。

 両者の戦いは日を追うごとに激しさを増し、リングの内外問わず繰り広げられた。


「──ブラックマンティスが買い物中のスピアーを襲撃! スピアーがビール瓶で滅多うちにされて、冷凍庫に閉じ込められてしまった!」

「──タウンゼントがハンターの車にガソリンを撒いてるぞ!? あーしかし、なんとトランクからウイッチャー・EYEが! タウンゼントの口にミミズを詰めこんだ!!」


 試合の妨害のみならず、メンバーの車の破壊や、家屋への放火などが繰り返され、業界はルールの無い戦争状態へと陥った。



 しかしどちらのチームにも従わない男が居た。


「今夜俺が誰のケツを蹴り上げるか!」


『what's!?』


「そいつは俺様が決めることだぜ!」


『yeah!!』


 バッドアス・ケインはどちらのチームにも従わなかった。

 彼は誰の言うことも聞かない男だ。社長のフレッドの言う事すらも。


「──バッドアス・ケインがフレッドジュニアにバッドアスDDT! 社長親子をまとめて制裁! オッオー、それはいけない! 妨害に入った社長婦人もDDTに沈めた! まさに傍若無人! 業界最大の問題児が暴れまくっている!」


 ケインは一匹狼だった。身長190センチとレスラーとしては並の体格だったがどんな巨漢が相手でも臆する事無く暴れ周り、パンチを繰り出す。

 だが時には優れた反射神経で、様々な技を繰り出す技巧も見せる彼は悪役レスラーでありながら絶大な人気を持っていた。

 しかし抗争の嵐はそんな彼をも巻き込む事になる。


「──大変だ、ハンターが車に轢かれた!! 降りてきたのは…… ケイン! バッドアス・ケイン!! そんな、JDのマークの入ったジャケットを着ている! バッドアス・ケインがダイナソーの傘下に!! 一体どうなってるのでしょうか!?」



「──ミッシェルとダイナソーの一騎打ちにまたもバッドアス・ケインが介入! おっと、あれを見てください、カクタスマンが客席に! 女性を連れているぞ…… あれは! あれはケインの妻のジョディーだ! やりすぎだ、家族を人質に取るなんて!!」


 バッドアス・ケインはハンターに続いてミッシェルを手にかけた。

 車に轢かれたハンターは右足を骨折。そしてミッシェルも腕を骨折の大怪我を負った。


「──なんという事でしょう!ハンター率いるハンターヘッズが大ピンチを迎えています! カクタスマンとバッドアス・ケインの裏切りでリーダーのハンター、そして相棒のミッシェルが重傷を負いました! どうなってしまうのでしょうか!」


 そしてその翌週、両チームのレスラーが一同に集って戦う世紀の大イベントが開催された。

 サンデー・ナイト・コンフリクトと名づけられたその戦いは、団体史上最大の盛り上がりを見せる事になる。


「──見てください! リングの上だけではなく、地下や駐車場、控え室、あらゆる場所で両チームの選手が入り乱れて戦っています! 今夜はサンデー・ナイト・コンフリクト! 因縁のある二つのチーム、総勢40人以上のレスラーが参加する史上空前の戦いです!」


 それはもはやプロレスではなかった。バットや椅子を手に会場のあちこちで選手たちが潰しあいを繰り広げている。

 リング上では10人以上が入り乱れ、その中にはギブスをつけたままのハンターとミッシェルの姿もあった。


「──筆頭選手二人が怪我をしているハンターヘッズが苦境に立たされています! ざっと見たところリングの上に残っているハンターヘッズは僅かに4人、ダイナソー率いるJDは6人居ます 数的にもJD有利か! ああ、またハンターヘッズが一人脱落!」


 ダイナソーのタックルを受け、ハンターヘッズの面々は次々とリング外へ弾き飛ばされていった。残るは二人、ハンターとミッシェル。

 だが二人とも怪我で思うように動きがとれず、最早戦いではなく拷問ショーの様相を呈しつつあった。


「──!? まってください! 会場の外で何かあったようです…… あれは!?」


 駐車場で乱闘していた三名に突如男が襲いかかった。

 手にした折りたたみ椅子であっという間に三人を叩きのめすと、カメラに向けて中指を突き出す。その男は……


「──バッドアス・ケイン! なんて事だ、バッドアス・ケインが一人で両チームのレスラーを次々と襲撃! 恐ろしい勢いでこちらへ向かっている!」


 場内はバッドアスコールで満ちた。3万人の観客と有料放送で中継を見ている全てのファンがこの日同じ言葉を叫んだ。



『Badass!』『Badass!』『Badass!』『Badass!』『Badass!』『Badass!』


 リング上のダイナソーたちは困惑し、思わず争いの手を止めて周囲を伺った。

 どこからバッドアス・ケインが現れるのか……

 それは余りにも意外な登場だった。


「──ワッタヘル!? ブルドーザーだ!! 会場に突然ブルドーザーがリングへ!!!」


 巨大ゲートをくぐって現れた約3tのブルドーザーはそのままリングに衝突、リングを半壊させた。

 リング上に残っていた選手達は振り落とされるか、自らリングから飛び降りた。

 残ったのは負傷したハンターとダイナソーの二人だけだ。

 そしてブルドーザーの運転席から現れたのは、当然バッドアスだ。


「──ケインが現れました! 怒りを露にダイナソーを指差しています! ああっとあれは!?」


 客席にスポットライトが当たり、会場のスクリーンに人物が映し出される。カクタスマンに捕まった人質のジョディーだ。


「──カクタスマンとジョディーです! 妻が人質に取られている今、ケインはダイナソーの言うことを聞くしかないでしょう! いや、待ってください!? あれは…… ケインが何かを取り出しました! あれはサボテンだ! 人質にとられていたカクタスマンのサボテンです!」


 バッドアス・ケインはサボテンをカクタスマンに向けて示し、それをリングの隅に置いた。

 それを見たカクタスマンはジョディーを離し、背を向けて去っていく。


 会場の歓声とは裏腹に、切り札を失ったリング上のダイナソーは青ざめていた。

 怒り狂い、リングに駆け登るバッドアスの剣幕に恐怖し逃げ出そうとするが、それをハンターに阻まれる。

 ハンターとバッドアス。二人は互いに目配せする。


「──ハンターがダイナソーの巨体を抱えあげた!! 必殺のラストライド!!」


 肩の上までダイナソーを持ち上げ、高く放り投げる!

 そこをバッドアス・ケインがタイミングよく飛び上がり、空中でダイナソーの腕と頭を固めたDDTを放つ!


「──アンビリーバボー! 互いの必殺技が共演!! ダイナソーを撃退したぞ!!」


 そしてリングには二人の男が残った。満身創痍のハンターはヨロヨロと歩きながら、バッドアスの腕を挙げ、勝者を称えた。

 満員のスタジタムに洪水の様に歓声が響く。伝説の一夜を彼らは目撃したのだ。


 そしてリングの上にカクタスマンと、彼に連れられてジョディーの姿が現れる。

 ハンターとカクタスマンは実に100日振りに握手しあい、互いに抱擁した。

 バッドアスもまた、美しい妻のジョディーを抱き締めた。


 絶叫のような声援に送られ、両者はリングを後に……いや、バッドアス・ケインが動きを止めた。

 彼の手にはいつの間にかマイクが握られている。



「俺が今何を思っているか判るか?」


『what's!?』

 観客は彼の言葉に合唱で答える。

 リングを降りようとしていたハンターとカクタスマンは、困惑していた。


「俺が今、こいつらをどうしようと考えているかわかるか!?」


『what's!?』


「なら教えてやるぜ こいつらを|酷い目にあわせてやる!《kicked in the teeth》」


『yeah!!』


 奴はバッドアス・ケイン。今夜誰がケツを蹴り上げられるのか。

 そいつは奴が決めることだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素晴らしい!! とても面白かったです!! プロレス愛が凄い! 空気が伝わってきて、読みながらドキドキワクワクしました。 キャラクターがとても生き生きしていて、ほんと素晴らしいです。 [一言…
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