門出と祝いとあの子の○○
「レンさん、今日はいつにも増して元気ですね!」 (君がいるからだよ)と心の中でつぶやく。
エリーは可愛い。サラサラの綺麗な髪も、小さく白い猫のような手も、全て彼女をより美しくしている。
5日間何も食べずに生死の狭間を漂っていた僕に何のためらいもなく手を差し伸べてくれたのも彼女だ。
「そっか、今日でやっと冒険者ですもんね。」ここに入りびたって3ヶ月、僕は食事をまかなってもらう
代わりに店の用心棒として、その身を粉にして働き、同時に冒険者の資格も取っていた。冒険者になれることをエリーに話すと、ぴょんぴょん跳ねて自分のことのように喜んでくれた。そんな彼女の笑顔がたまらなく好きだった。「はい、毎日そばにいて手伝ってくれたあなたのおかげです。」そう言うと「私は何もしてません!全部レンさんが頑張ったからです!」手を横にブンブン振りながら彼女は言う。ここまで来れたのは間違いなく彼女のおかげだというのに…。エリーの優しさに心を打たれていると「おはようエリー、んぁ?レンじゃねぇか。」キッチンの奥から大男が出てきた。彼はケング、この店の主人だ。「なんだ?ビシッと決めてよ、ついに路地裏マスターの公認式に行くのか?」「もう!からかわないの!お父さん!」「冗談!冗談だよ!」ケングもまた僕の話を真っ先に喜んでくれたうちの1人だ。「冒険者か…いいねぇ俺も若い頃は…」
「お父さんの昔話は聞き飽きました。」「冷てぇなぁ。まぁとにかく…おい!お前ら聞いてたか?今日は俺の息子同然のレンが冒険者になる日だ!記念すべきこの日に…乾杯!!」「乾杯!!」と朝の店内に響き渡る。客達はみんな祝ってくれた。「おめでとう!」「いよいよだな!」「毎日頑張ってたものねぇ。」この店のこの距離感が大好きだ。「みなさん、ありがとうございます!」最大限の感謝を伝え僕は席をたつ。みんなが酒を飲んでいる中、エリーは涙目の僕を連れて隅のテーブルに座らせてくれたのだ。
「改めて、おめでとう。」静かに彼女は言った。「本当に頑張ったね…それで…」彼女はためらいながら言った「記憶は…まだ戻らないの?」「…うん。」そう僕は記憶がない。なぜそこだけなのかもわからないが、
5歳から14歳までの記憶がすっぽりと抜けている。覚えていることといえば最後に黒いローブとフードを被ったやつに何かされたことだけだ。「でも支障はないよ。みんな助けてくれたし、犯人も恨んでないよ。」
「そっかレンさんがそう思うならそれでいいや。」彼女なりに心配してくれたのだろう。「それで、これからどうするんですか?」「ひとまずはギルドで登録を済ませたら、少し寄り道してすぐ帰ります。」
「これからはなかなか会えなくなりますね…でもいつでも来てくださいね!」「…もちろん。」
「じゃあそろそろ行きます。」「おぅ!!行ってこい!今夜はお前の就職祝いだ!早く帰ってこいよ!」ケングが大きい声で言う。「もぉ!まだ飲むつもり!?」エリーは一括入れながら、最後にはまっすぐ笑顔で
「待ってますよ。」という。よし決めた今日はすぐ帰ろう。心に誓い店を出ようとすると「...レンさん!」
エリーが僕を呼んだ振り返ると...「ッ!!」柔らかい感触がほっぺに当たる。全身が痺れた感覚に襲われながらエリーは「本当に待っていますから、返事は帰ってきてから聞かせてください。」と言った。
声が出なかった。というより出せなかった。僕は足早に店を出て、見たことないような満面の笑みで
ギルドへと歩みを進めていった。
風邪引きました。とりあえず冷奴食べます。