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08 思いついた名(迷)案


「ねぇ、私みたいな死にかけの人間を召喚することってできないの?」


 生かしてもらった身としては当然の提案であるように思う。

 自殺であればともかく、巻き込まれた事故死であれば生に未練がある人は多いのではないだろうか。


「えっ…どうだろう? できなくはないかもしれないけど…」


 そう言ってテルースは目を閉じて集中する。

 ちょっとの間のあと、困った表情を浮かべた。


「絶対にできないわけではない、と思う。ただ、条件がすごく厳しいわ」


「条件?」


「うん。まず、第一にタイミングよく死んでしまう瞬間に立ち会えるかどうかってことが問題。

 ずっと監視してるのも疲れちゃうし…」


「なるほど。こう、魂が抜けかけの瞬間に引っ張ってくるみたいな、タイミング勝負になっちゃうのね」


 人が死ぬのを見張っているというのはなかなか気が滅入る作業のように思えた。心理的にもちょっと厳しいだろう。

 それでも、この世界の存続のためならやる価値はあるようにも思えるのだが。


「もう一つの問題は、私とうまく縁が結べるかどうかってこと。

 あなたはほら…言っちゃ悪いけど数年前廃人レベルだったから簡単にできちゃったのよね」


「あ、そういう…」


 学生時代は学業そっちのけでやっていたことは認める。卒業論文や就活が終わったあとは『人生最後の夏休みだ!』と言わんばかりののめり込みようだった。

 そのお陰で命を拾ったのだからまぁ結果オーライ。

 逆に言えばルチアと同じくらいこのゲームをやっている人間が死ぬところを目撃しなければならないのだろう。

 そういえば、このゲームはあまり冒険にいかないチャットオンリーの人も一定数いたが、そういった人たちはどうなのだろう?


「やり込み具合が大事ってこと? チャットゲーしてた人はアウトかな?」


「んー…大雑把に言えば稼働時間が長いほど、こちらの世界に引っ張る力が強くなるって思ってくれればいいわ」


「なるほどねぇ。確かにそりゃ厳しい」


 TTOというネトゲは最大登録者数で言えばそれなりの人数がいたように思う。

 それでもそれは登録者であって、実際のプレイ人数ではない。事実、ルチアだって複数のアカウントを登録してプレイしていたのだから。

 実際にプレイした人が、事故に巻き込まれて死んでしまう確率というのはいったいどの程度のものだろう。


「不可能ってほどじゃないけれど…それなりの費用対効果がかなりしんどそうって感じね」


「だよねぇ。苦労して引っ張ってきても一人だけなんだもの…。

 でも、何もしないで終わるの待ってるよりは気がまぎれるんじゃない?」


「…やらないよりはマシ、かな。

 うん、黙って待ってるよりはいいかもしれない。時間があれば取り組んでみるわ」


 暫く二人で考え込んでいたが、この件はとりあえずやってみよう、ということになった。

 どうせ終わる世界なら、色々やってみる方が気が晴れるだろう。

 そしてそれはルチアも同じことだ。折角縁があってきた世界なのだから、出来る限り存続してもらえるように骨を折るのはやぶさかではない。

 この世界が存続するにあたって必要なことは祈りだ。

 なら、もとからこの世界にいる人が祈ってくれれば手っ取り早い。


「あとはこっちの世界の人がどうすれば祈ってくれるか、よね。

 でも祈りのメリットが広がったら普通に祈ってくれそうじゃない?」


 ドロップ確率のアップや生産能力の向上はかなり魅力的だとは思うのだが。


「うーん…冒険者の間ならそうかもしれないけど」


 テルース的にはイマイチなようだ。女神自身が恩恵がどれほどのものになるかをわかっていないらしい。


「冒険者以外にも職人さんなら武器防具の生産アップって嬉しくないかな?

 あと、エイリスの場合かなり物資不足してるみたいだからドロップ率アップも嬉しいんじゃないかなぁ。レアドロップ品欲しがってる人相当数いたもの」


「…確かに」


「ギルドに逆依頼だしてみるとかもありかもしれないわね。

 報酬を下げる代わり女神と私に祈ってくださいってやるのよ」


 依頼を出した方は渡す報酬が減ってお目当てのモノが手に入り、冒険者の方はドロップ率が増えて結果的にたくさんの物資を納品できる。

 悪くない提案のように思う。


「そっか。私は無理だけど、ルチアは下界で色々アプローチできるのよね」


「そ、そゆこと。だから、諦めるにはまだ早いんじゃない?

 せっかくだから私も観光とかしたいしね」


 これは心からの言葉だ。

 あちらの世界では見ることが出来なかった景色を見ることができるのは、ルチアにとってかなり胸躍る報酬である。

 そのためなら、できることは協力したい。


「ありがとう…私もできること、やってみるわ」


「そうそう、その意気…ってあれ?

 なんか周りが」


「あ、時間切れか。結構話しこんじゃったものね」


 聞けば、祈りの力が不足しているテルースは、こうやって人間と話すだけでも消耗してしまうのだとか。

 意思も聞かずにこちらへ引っ張ってしまった罪滅ぼしの意識も手伝ってか、随分頑張ってくれたようだ。ルチアとしては第二の生をそこそこエンジョイしているので、そこまで気にしていなかったのだが。


「私の力が回復していれば、また呼ぶこともできると思う。…またお話してくれる?」


「うん、勿論。

 やれることを無理しない範囲で頑張ろうね。じゃないとここに来るまでの私みたいになっちゃうからさ」


「あれは酷かったわね…うん、適度に頑張らせてもらうわ。

 ちょっとでも力が戻ればあなたも冒険しやすくなるしね」


「あー…ポーチ拡張とか課金アイテムとか欲しい…」


「力が戻ったら真っ先にできるようにがんばるわ。っと、ホントに時間切れみたい。また教会にきてね。私の力が回復してればまた呼べるから」


 話している途中で、景色とテルースが霞がかっていく。

 数度の瞬きのあと、霞は晴れて教会の中の風景へと戻ってきた。


 キョロキョロとあたりを見回す。

 先程のアレは一瞬の事だったようで、誰かが不審な目をこちらに向けていることはないようだ。


「神様も不便なのねぇ…」


 誰にも聞こえないようにボソと呟く。

 作られた神様であり、神様らしい力も今はほとんど使えないテルースは正直気の毒に思う。

 とはいうものの、ルチアに出来ることは先程も話した通りのことだけだ。


「まずは最初の目的の転職から、だね」

閲覧ありがとうございます。

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