45 脳筋の集まり
「もらってばかりでは心苦しいので、私も生産スキル取得してみました」
ルチアが裁縫スキルを取得した次の日の午前中。いつもの面子がギルドに集合してすぐに、リリィがそんな言葉を口にした。
「じゃーん! ポーションです。
アルナスルさんには命中強化、ルチアさんには回復力アップ、そして全員分の移動速度アップも作りました。ちなみに効果は1時間です」
自慢げに掲げたそれを全員に分配する。
回復のためのポーションではなく、能力強化のためのポーションを作ってくるところはさすがというべきか。このパーティに足りないものが何かきちんとわかっている。
「今までのダンジョン探索は、初回の調査を兼ねた探索が約30分、補足調査がある場合は約20分。ボスに直行する場合は5分かからない場合が多いですよね。
そして、同じダンジョンを10周ほど、というサイクル。なのでちょっと今までの調査とパターンを変えてしまうのが恐縮なんですが、調査と補足調査で1セットで一度ギルドに戻っても良いでしょうか?
ポーチの圧迫を避けたいので」
「あぁ、そっか。ポーション持っていったらポーチの枠圧迫しちゃうもんね」
今までの経験から、加護あり大容量のルチアのポーチがあっても、ダンジョンを何周かすればポーチから物が溢れてしまうことがわかっている。なので、いつも早め早めにギルドへ戻り、その都度アイテムを整理していたのだ。
幸い2周しただけで全員のポーチが一杯になったことはない。
「ありがたく受け取ろう。ダンジョンの最初の部屋で飲めばいんだな?」
「そうですね。あ、あとたくさん飲んでも効果二倍とかにはならないそうです。単純に効果持続時間が延長されるだけ、と習いました」
ポーションの注意点を聞きつつ、ふと疑問に思ったことを口に出す。
「…ところでリリィさん? これを学ぶためにやっぱり徹夜しました、なんてことは…?」
「ないですないです!
むしろ最初に睡眠薬を作ったので、それ飲んで10時間睡眠確保しましたから!」
そう言って意気込むリリィの目元にはまだうっすらとクマがある。まぁクマは一朝一夕でどうにかなるものでもないから仕方がないだろう。昨日より薄くなってはいるので、信憑性は高そうだ。
「ただ、睡眠時間確保のためにレベルをあげることはできませんでした。なので基礎レベル…ランク1のものだけなので、効果は低めですね」
若干しょんぼりしているが、大抵の場合生産レベルはゆっくりとあがっていくのが普通だ。稀にその生産スキルに適正があり、どんなレベルの物でも最初からスイスイ作れてしまう天才がいるが、そんなものは例外だ。ちなみにルチアも物量という力業で生産レベルをゴリゴリ上げたので例外扱いである。
「ランク1でもある方がいい。
それと、俺も武器を作ってきた」
「奇遇ですね! 私も実はお二人にプレゼントが…」
このプレゼントしあいのムーブに乗るしかないとポーチをごそごそする。そんなルチアを二人は呆れた目で見つめたあとアイコンタクトを取り合っていた。
((また借りが増えた気がする…))
二人の思いがピッタリ重なった瞬間だが、ルチアは全く気づかない。
「こっちがリリィさん、こっちがアルナスルさんの分です。
ローブとマントなので、サイズの微調整はしなくてもいけると判断しました」
昨日早速作り上げた、どちらも高品質の自信作だ。
とは言っても、アルナスルのマントは彼のレベルを考えると少し物足りない。高品質なので多少の格好はつくが、本来であればもう1ランク上のものをプレゼントしたかった。しかし昨日一日だけではそこまで生産レベルが上がらなかったのだ。
「アルナスルさん用のマントは繋ぎとして活用してください」
「また高品質か…どうなってるんだ…。
…ランクは確かに低いが、市からの支給品よりは防御が上がりそうだ。ありがたく貰おう」
「ルチアさん、やっぱり今後女神の加護印ブランドでも立ち上げませんか?
売れますよこれ…」
ルチアが作った防具を手にとってため息をつくように見入っていたリリィがそんなことを呟く。自然と昨日の裁縫工房でのやり取りが思い出されて、ちょっと暗い気持ちになってしまうルチアだった。
「昨日、本職の人に睨まれたんです勘弁してください」
「睨まれた?」
不穏な発言にアルナスルが眉をあげる。
「あ、えーと実際に睨まれはしたんですけど、そうじゃなくて…。
冒険者と生産の二足のわらじで高品質を出してるのはちょっと…みたいな?
確かに本職の人にしてみれば面白くないですよね。
それと、生産図の出所もまだ正直に言えない段階ですからその辺りでもちょっとありまして」
心配をかけないようにと言葉を並べたが、なんとなく言い訳がましくなってしまう。事実ではあるのだが、どうにも申し訳ない気持ちが先に立った。
「あーなんか予想はつくかも…。
ルチアさんって、生産職人さんにとっては材料流通させてくれるいい人ではあるんでしょうけど、同時にライバルみたいなもんですからね」
ルチアが大量生産した普通品質のアクセサリーの売れ行きはまずまずといったところらしい。本業の片手間に町の外で戦う人も増えたことが影響しているようだ。
「ライバルとか…そういうのやだなぁ…。
まぁそんなわけで、私はブランドとかそういうの絶対やりません。
これ以上ライバル扱いされたくないですもん。目立ちたくないですし」
昨日のユリオの態度を思い出して、知らず知らずのうちに深いため息が出てしまう。
目立たず穏やかにこの世界を観光したいだけなのに、どうしてこうなった。
「目立ちたくない、は今さら無理では…」
「先日の市の広報にもアドバイザーとして名前が載っていたぞ」
「えっウソ!?」
「あ、見ました見ました。
広報ってきちんとチェックしてる人多いですから、ルチアさんの名前だけ知っているって人も多いかもしれませんね」
「そんなぁ…」
「別に悪いことでもないだろう?
っと、俺からもだ。こっちがリリィの、こっちがルチアのだ。
俺は凡人だから、品質は普通だぞ」
アルナスルから武器が手渡される。
リリィのはレベルに合わせたオーソドックスな杖。ルチアは詠唱速度があがる効果のついた短剣だ。
「いやいやいや、これ銀図の武器では?」
「ルチアの方はたまたま図が手にはいったからな。リリィの方も図はあったんだが、今度は材料が足りなかった。すまん」
銀図から生まれた武器は普通のものよりも基礎攻撃力が高い。謝るようなシロモノではないのだ。下手したら一つ上のランクの武器に匹敵する攻撃力を備えている。金図であれば確実に一つ上の銅図よりも強いのだ。
「うわー嬉しいありがとうございます。これ私も攻撃参加出来ればそれなりに火力アップできると思います」
「私はそもそも戦闘向きではありませんので気にしなくて大丈夫ですよ」
「しかし…何だかんだで全員25レベルのダンジョンに挑戦するつもりはあるんだな」
「そりゃあもう! 未知のアイテムが私を待ってますから」
アルナスルの呟きにリリィが胸を張る。
パーティメンバー間のモチベーションに差がありすぎると、パーティが瓦解する恐れがある。だが、この面子に限ってはその心配はないらしい。動機は違えど、難しいダンジョンに挑戦するのは全員が希望しているのだ。だからこそ、それぞれがダンジョンに潜るための下準備をしてきた。
「なんていうか…脳筋が集まった気がする」
「ルチアさん、それ結構失礼ですよ」
「あながち間違いと言い切れないのが辛いところだな」
そんな話をしながらダンジョン探索の準備を整える。試運転がてら今まで行ったことのあるダンジョンを。そして、その後は新装備で本命のレベル25のダンジョンに挑戦だ。
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