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44 初めての裁縫


 日よけの森のモンスターはそれほど強くない。

 ルチアのレベルがあがりまくっているせいでもある。そのため全く苦戦することなく指定の材料を集めることができた。


「…でもこれから裁縫ならうんだったら、素材はいくらあってもよくない?

 一時間くらい狩るかな」


 もしかしたら、じっくり時間をかけているうちにユリオが商業都市に戻っている可能性もある。工房のトップである人間がそうそう持ち場をあけたりはできないだろう。


「うん、そうと決まったら久々に大量狩りしちゃおうかな」


 今から一時間程度狩りをしても、裁縫スキルを教えてもらい試作品作りをする程度の余裕はある。そうと決まればルチアは目についたモンスターを片っ端から狩っていった。

 その結果…。


「あらあらあら…これはなんというか…。

 すごい量ね?」


 穏和そうなマリアが目を見開いている。

 ルチア自身も開始10分程度で予想以上の収穫があったため、一時間の予定を半分の30分に短縮した。それでも、かなりの量になっている。


「呆れてものも言えないな」


 そして、できれば顔を会わせたくなかったユリオもまだ工房にいた。言ってるじゃん、という突っ込みをしたかったが諦めておく。


「リンリンも言っていたけれど、本当に凄腕の冒険者さんなのね。

 あなたのお陰で素材もかなり流通するようになって助かっているのよ。しかもお祈りのことも教えてくれたでしょう?

 私もユリオも本当に感謝しているのよ」


 マリアはそう言うが、ユリオの態度からは感謝の念なんてものはこれっぽっちも見えない。


(女神は否定するけど、私自身のことは否定しないってわけて考えられるアルナスルさんって大人だったんだなぁ…。見習わねば)


「それで裁縫スキルでしたね。

 せっかく材料をとってきてくれたのだからはじめてしまいましょう。

 これが冒険者さんが初歩のスキルを学ぶために作るローブの生産図よ」


「あ、ありがとうございます」


 図を見て、スキルを習得する。

 とても不思議な感覚だが、なんとなくこの図に書かれているものは作れそうな気がしてきた。


「こんなに材料があるのですから、少しくらい失敗しても大丈夫よ。

 生産に失敗はつきものですからね」


 とても不思議なもので、スキルを覚えさえすればあとは体が勝手に動いてくれる。彫金スキルを学んだときもそうだったが、たまに失敗はするものの概ね近い形のものはできる。あとは何度も作って慣れていき、生産スキルをあげていけば良い。


「うん、基礎は大丈夫そうですね」


 数分後、とりあえずローブと呼べるものは完成した。

 どう考えても数分で素材がローブに変わるのはおかしいが、ここはもともとゲームの世界なのだからそういうものとしてとらえるしかない。

 このゲームにおいて生産は素材さえあれば何度も挑戦できるガチャのようなものだ。何度も挑戦して高品質を引き当てる、そんなイメージ。


「では、ここの共有スペースであれば、工房が開いている間はいつでも使用してかまいませんよ」


「ありがとうございます。早速ほしいものがあるのでちょっとスペースお借りしますね」


 そう言って図の準備をしはじめる。

 工房がしまるまでそれなりに時間はあるが、高品質をひけるかどうかはわからない。できるだけ時間を節約して作らなければ。

 現在欲しいものは、三人分の装備。ただし、アルナスルはガンナーであるため、裁縫スキルのみで防御力をあげることは難しい。せいぜいマントを作るくらいだろう。逆に回復魔法使いのリリィとルチア、とくにレベルの低いリリィにはできるだけ高品質のものを渡したいところだ。


(今作れる装備の中で一番防御力と回避率が高くて、20レベルでも装備できるやつ…。

 あ、20レベルのものをつくるためには私の生産レベルもあげなきゃいけないのか。裁縫で一番経験値効率がいいのは…)


 ゲームの知識も駆使して最短ルートを模索する。

 大体の計算が出来上がったところでルチアは立ち上がった。このままだと材料が足りなくなるので、先回りしてギルドから購入するのだ。


「おい、作るんじゃなかったのか?」


 そんなルチアに不機嫌そうな声がかかる。

 ユリオもマリアもまだ共有スペースにいたようだ。集中していて気付かなかった。


「あ、はい。作りますよ。でもそのためにはちょっと材料が足りなくなりそうだったのでギルドに買い足しに行こうと思って…」


「何が足りないんだ?」


「狼皮と基礎糸です」


「それなら売ってやる。いくつだ?」


「500ずつです」


 どういう風の吹き回しかはわからないが、ユリオが材料を売ってくれるらしい。正直に必要個数を告げると、一瞬怯んだようだった。


「何をそんなに作るんだ?」


「基礎マントです。ないならギルドで買ってきますので」


「それくらいならある。しめて1万sになるが、あるのか?」


「はい、それくらいでしたら」


 ポーチの中からごそごそとお金を取り出して渡す。実際に見せれば納得したようで、複雑そうな顔をしながらも材料を売ってくれた。


「ありがとうございます。じゃあちょっと集中して作業しちゃいますね」


 そう言ってルチアは作業台に向かって集中し始めた。もちろんお祈りをすることも忘れない。失敗しても経験値にはなるが、できれば失敗作は作りたくないものだ。成功品はあとでギルドにでも持っていけばいい。


「冒険者という職業は全員がこうなのか…?」


「リンリンが言うには、彼女は特別だそうよ。

 何せこの短期間で最高品質品を何個も作っているそうだもの。だからこそリンリンもお祈りの有用性を認めて工房全体に広めてくれたんでしょうけど」


「…祈りなどというものは非生産的です」


「そうかしら? 彼女は作業に入る前に祈ったのはあなたも見たわよね。

 今彼女が作っているのは一番簡単な狼皮のマントだけれど…ほら、見て。あれは高品質よ。まだ裁縫を初めて間もないのに作っているわ」


 話している間にルチアはどんどん狼皮のマントを作成していく。新人にしては失敗が少なく、何回かに一度は高品質を作っているのが職人目線ではすぐにわかってしまう。


「たまたま彫金との相性が良いだけ、ということもあると考えていたのだけれど…これはやはり祈りが有効である証拠になるわね」


「…では、専門職の私たちに出番はないということになりませんか」


 冒険者と兼業であっても、生産は簡単にできる。そういう認識が広まってしまえば世の中から専門の職人がいなくなってしまうかもしれない。ユリオはそう危惧しているのだ。


「そうかしら?

 冒険者の皆さんが作れるのは図に書かれている、言わば冒険者専用のものだけでしょう? それをアレンジしたりオシャレにするのは生産職人だけの特権だと思うけれど…」


 世の中は冒険者だけでは回らない。

 けれど、冒険者がいなければ少し前の中央都市のように物流が滞ってしまう。


「なんにせよ、職人も職人というだけではいけない時期なのかもしれませんね。

 聞けば彼女のお陰で冒険者と兼業になって自給自足できる人も増えたらしいじゃないですか」


 ルチアの子供に対する戦闘指導から波及して、自主的に都市の外で訓練する人も増えている。兼業が増えているのだ。


「…それが腹立たしいのです。兼業すれば、どちらかが疎かになってしまうじゃありませんか」


「全く、若いのに変化を怖がってしまって…そういうのは私みたいなおばあちゃんになってからになさいな。

 極めたい人はその道を極めればいいのですよ。けれどそれは違う道を歩いている人を否定する材料にしてはいけません」


 後ろのそんな会話を聞かないふりをして、ルチアは黙々と生産作業を続けた。

 何度かギルドに足を運びつつも、工房が開いている時間内になんとかそれぞれの防御力をあげられる装備を作ることができた。


(明日が楽しみだな。二人とも喜んでくれるといいけれど)


 裁縫スキルのレベルもかなり上がり、達成感に包まれながら完成品を眺めるルチアだった。



閲覧ありがとうございます。

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