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04 ギルドブラック!

「まぁぶっちゃけてしまえば依頼代行業務と買取業の二足のワラジですね、ギルドって!」


 目の下に濃ゆいクマをこさえながら説明してくれているのは、ギルドの受付嬢のリリィという女性だった。なんというか、前世の自分を思い出す。

 あまりの忙しさに逆にテンションがあがってしまうアレだ。そしてこのハイテンションが終わったあとはもう死ぬしかないという絶望のウツ期がやってくるのだ。かわいそう。

 ギルド内に他の冒険者の気配はないが、その代わり見えるフロアに他の人員も配置されていない。そして、リリィの後ろにはうず高く積まれている書類が見える。なのに、人の気配はリリィのみ。もしかして、ワンオペでこれを回しているのだろうか。


「最初はですねー。依頼人のところに直接行って依頼内容を聞くシステムだったんですけど、それだと都合が悪いことも多かったんですよ。

 冒険者さんが依頼人をカツアゲしたり、逆に依頼をこなした冒険者さんにお金を払い渋る依頼人もいたりして…その仲立ちとして生まれたのがギルドです。

 で、いつのまにか『じゃあ素材もここで売れば楽じゃん!』って声があがってそっちまで手を伸ばし、良い感じに業務がパンクしております!やったね!」


(…全然やったね!じゃないよそれ)


 というツッコミをいれられる勇気はルチアにはなかった。今、彼女に現実を見せてはならない。


「えーと…じゃあ買い取り業務はお願いしない方がいいです?」


「それがそうもいかないんですよー。

 依頼代行業務として、こちらは運営費を頂いているわけですけれども、そのお金だけじゃ組織は回らないじゃないですか。そこで冒険者さんから素材を買い取って薬や武器防具なんかを作って売ったりもしているんです。

 ということで、私の仕事は増えますがギルド的にはじゃんじゃん素材は持ちこんでいただきたいですね!

 勿論必要な分だけしか買い取れませんので、買い取り上限にはご注意を!

 って言っても冒険者不足で、買い取り上限万越えも珍しくないんですけどね!てへっ!」


 死んだ目のまま可愛らしい仕草をとるリリィ。その間にも彼女の手は全自動のように仕事をこなしている。どうすれば彼女は救われるのだろうか。

 だが、まずはルチア自身生き抜く術を見つけなければならないのだ。他人の事を気にしている場合ではない。しかし、どうしても以前の自分と重なる。かわいそう。


「えーと、それで…私は冒険者登録しても大丈夫ですか? 何か資格とか…」


「冒険者ギルドはどんな方でもウェルカムですよ。犯罪者でもウェルカムしますが、ギルド登録後の犯罪行為は控えた方が無難ですね。

 上位冒険者がこぞって消しに来るので」


「なにそれこわい。

 いや、犯罪おかすつもり毛頭ないけど…」


「冒険者の力を悪用して一般市民を襲ったり、合意なしに冒険者に襲い掛かったりしない限りは大丈夫です。

 では、お名前を教えていただけますか?」


「ルチア、と言います」


「了解いたしました。では、こちらの宝玉に手を当ててください」


 言われるままに、リリィが持ちだしてきた宝玉に手を当てる。パリパリ、と宝玉の中で電気が走った。


「これは珍しい反応ですね…」


「そうなんですか? 何か変とか…」


「あ、いえいえ。もしかして、ここに来る前ルチアさん相当修練を積んでいたのではありませんか?

 今はレベル1とのことですが、潜在能力はかなり高いみたいです。このあたりのモンスターで苦戦することはないんじゃないでしょうか」


 潜在能力とは…ここに来る前に侵略者の凶刃に倒れたルチアのものか。それとも、TTOをやり込んでいたという部分か。そのあたりは、ルチアにもリリィにもわかるはずのない事柄だ。

 リリィは笑顔で喋りながらも高速で手を動かしている。多分ルチアの冒険者登録処理なのだろうが…手元を見ずに速記できるというのはこれも魔法の技術なのだろうか。


「はい、以上で登録は完了です」


「えっと…冒険者のランクとか、カードとかそういうのはないんです?」


「ランク?ですか? そういうのは特に…

 そうですねぇ…。あちらの本棚にギルド所属の心得とかが書かれたマニュアル本があるのでそちらを読んでいただけますか?

 そこの棚にある本は持ちだし禁止ですが、建物内で読む分には自由に閲覧できますので」


「そうなんですか。ありがとうございます…えっと…頑張って」


「あはは、がんばりたくないですー」


 心からのエールを送ると、リリィは虚ろな目のまま高速で書類を処理し始めた。


(剣と魔法の国でも、事務仕事は書類なんだなぁ…)


 そんなことを考えながら言われた本棚に目を移す。『エイリス周辺地図』『脱初心者の心得』『魔法とは』『カンタン野草レシピ』などの様々な本があるが、今の目当ては違う。非常に興味をそそられる本も多いので、時間があればここに読書しにこよう。

 ルチアはそんなことを思いながら『ギルド所属の心得』という薄っぺらいサッシを手に取った。


 数分後。


 わかったことは、リリィが言っていたことが全てだということだ。

 ラノベにありがちなランクだの、ギルドに所属していることを証明するためのカードなどはない。ただの依頼の代行とドロップ品の買い取りをしてくれる場所と思って間違いない。

 また、ギルドに所属したからといって強制的にクエストを受けさせられるということはない。ただ、悪いことをすればギルド全部に知れ渡り、高レベルなギルド員に始末されるらしい。ちなみに、始末の詳細については書かれていなかった。こわい。

 ともかく、一番の朗報はこのギルドが依頼…ゲームで言うところのクエストを一括管理してくれているところだ。

 TTOはマラソンゲーとしても名高く、特にまともに狩りができない初期は「忘れたお弁当を届けて」のようなおつかいを延々とこなすために走り回っていたのだ。それが、この世界ではない。

 貼られている依頼を見る限り、宅配や護衛のようなマラソンをしなければならない依頼もなくはないが、メインは討伐か採取のようだ。


「とはいえ、討伐も採取もやること一緒じゃん…」


 最初は安全そうな採取依頼とやらを受けようと思っていたが、よく見ればその採取アイテムがモンスターを討伐後ドロップとかだったりするのだ。

 それともう一点。討伐対象のモンスターに聞きおぼえがまるでないことも気がかりだ。

 おつかいばかりのTTOの序盤は、レベルアップに最適なクエストルートがあった。具体的には、出現した依頼をもう1レベルあがるまで放置した方が効率が良い、など。故に、序盤の討伐対象モンスターは名前を含めて丸暗記していたはずなのだが。


「受けてみて全く歯が立たなかったらどうしよう…。でもまず転職するにはベビースプラウトとやらを倒さなきゃじゃん?」


 モンスターによってだいたいのドロップ品は決まっているらしい。特に都市周辺のモンスターは何匹も狩られているため、レアドロップが何か、ドロップ率はどのくらいかまで把握されている。


「エイリス周辺地図によれば、都市でてすぐにいるみたいよね。ベビースプラウトって…」


 地図には簡単なモンスター生息分布と、主なドロップ品が書かれている。それと依頼一覧を見比べると、ベビースプラウトを討伐することによって受けられる依頼は3つあるようだった。

 純粋な討伐と、ドロップ品採取と、レアドロップの買い取りだ。


「……レアは出る気がしないから却下で」


 レアドロップ上昇のバグ技も昔はあったが、当然の如く修正が加わった。そのうえ、そのバグ技は最悪起動していた画面を消して、立ち上げ直さなければならないバグが生じるもの。ゲームが現実となったこの世界でバグ技をやってみようという勇気は正直わかない。

 であれば、運任せの依頼は受けるべきではない。

 幸い、採取・買い取り系の依頼はその品物を持ってカウンターに行けば、即受注完了の手続きがとれるそうだし。


「リリィさん、これとこれの依頼を受けるわ」


「ありがとうございますぅ!いってらっしゃいませぇ!」


 光の速さでルチアの持っていた依頼用紙を確認したリリィが、間髪入れずに見送りの言葉をかけてくれる。

 確かに、レベル1の冒険者が最初にやる依頼なんてテンプレ化してるから入念にチェックなくてもいいだろう。だが、それでいいのだろうか。…あの目の下のクマを見ると何も言えないけど。


「あー、ありがとう。いってきます」


 無駄に明るい声に見送られて、ルチアは初めてのモンスター討伐に向かうのだった。

ここまで読了&ブクマ&評価ありがとうございます。

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