39 鬼周回
「うああ…すみません。もう一回潜って貰っても大丈夫ですか?
ちょっと記入漏れが…」
「大丈夫大丈夫…ですよね?」
「…わかった」
ルチア・アルナスル・リリィの三人でダンジョンを周回中。
最初のうちは、リリィもダンジョン内の様子をすべて書き留めるという慣れない作業なのでコツを掴めないでいた。しかし、10周もしたあたりでやり方のコツを掴んだようだ。
現在、合計周回数は20周にも及ぶはずだ。というか、数えるのが少しめんどくさくなった。
潜ったダンジョンの種類は4種類。どのダンジョンも内部の雰囲気は似ていた。ピリピリとした独特の雰囲気が漂う石造りの建物であることは代わりない。しかし、その中の構造がそれなりに違っていた。
基本的には廊下と小部屋で構成されており、ボスだけが大きな部屋にいることが常のようだ。その辺りは共通しているが、道が違えばモンスターの配置も違う。変なところで戦っていればモンスターの集団に背後をとられることもあるだろう。
この探索パーティにはルチアという経験者がいるため、そういった事故はなかった。だが、ダンジョン初体験の者たちは今リリィが作っているマップがなければ探索するのも大変だろう。
一応、ダンジョンのレベルはアルナスルとルチアよりも10以上差があったので、苦戦することはなかった。ただし、記録をとるためにモンスターのモーションが一通り終わるまで待機ということもあったり、結構神経をつかっている。
特にモンスターの攻撃を受け止める役目をしているルチアの負担は中々のものだろう、とアルナスルも最初は思っていた。今はその考えを捨てている。ルチアが一番ピンピンしているのだ。
「ところでリリィさん、体調大丈夫?
筋肉痛とか…」
「いやーぶっちゃけ筋肉痛はありますけど、新しいアイテムに出会える喜びでアドレナリンとかでまくってる感じですかね?」
テルースから忠告を受けてはいるルチアはリリィへの心配を口にする。だが、当の本人であるリリィがそれはもうノリノリだ。自己申告どおり脳内麻薬でヤバイことになってるのだろう。
「ちょっと問題なのは、周回する度に一度ギルドに帰る手間があるってことくらいですかねぇ」
「そうねぇ。出張ギルドとかできないかしら…?
せめて倉庫だけでも」
「そのあたりは貸倉庫屋さんに話を通しておいたほうがいいかもしれませんね」
女子二人でキャイキャイと盛り上がる中、アルナスルは密かにぐったりとしていた。明らかに非戦闘員であるリリィがイキイキと弱音も愚痴も言わずについてくる手前、疲れたなどとは言いづらい状況なのだ。
一応前もって、ダンジョン探索は精神的肉体的疲労が大きいため、午前中だけにしようという話になっている。それまで耐えようとは思っているのだが、アドレナリン大放出中のリリィとそもそも「疲れって何?」と素で言いそうなルチアのペアがどうなるかはわからないのが怖いところだ。
「俺からも一つ。ダンジョンに潜れる回数に制限をかけた方がよいと思う」
「えー? なんでですかぁ!?」
明らかに不満そうなのはリリィだ。ダンジョンにくれば今までに見たこともないレア物と出会えるというのは、彼女にとってとんでもなく楽しい体験のようだ。
昨日に引き続きのハードスケジュールであるはずなのに、彼女はかなりイキイキしている。正直これはヤバイ薬をやっています、と言われても納得してしまうくらいのハイなテンションだ。
だからこそ、ここでアルナスルがセーブをかけないといけない、と思う。
意外なのはルチアがその提案に同意を示してくれたことだ。
「あーそれは言えてるかもです。
例えばダンジョンで出る品が欲しいから「ドロップするまで何回でも潜って来い」って依頼主が現れるかもしれませんしね」
「…それは……あるかも」
今までギルドの受付として、様々な無茶ぶりをしてきた依頼主を思い出したのだろう。今までのハイテンションが嘘のように無表情になるリリィ。それはそれで怖い。あたりの気温が2度は下がったような空気になる。
「あと、リリィさん気づいてないかもですけど、たぶん後から物凄く疲れが来ると思いますよ? ほぼ初陣なのにこれだけの回数ダンジョンに行ってますしね」
一応、疲労に関してはルチアも多少は考えていたらしい。
少々予想外だが、この流れは止めない方が良いだろう。
「そうだな。
周回で知らぬ内に疲労も溜まる。それでミスをして冒険者が帰ってこれなくなるのは惜しい」
ギルドとしても冒険者が減るのは惜しいだろう。人命を優先するのは当然だ。
「それなら、ダンジョンと自分のレベル差から回数を割り出してもいいかもしれませんね。
低レベルのダンジョンだと結構楽できますから…。
今高レベル帯にいる人が、今私たちが潜っているレベル10ダンジョンに行ったら少し物足りないかもしれませんから」
ルチアの主張はまっとうだ。
高レベルの冒険者になればなるほど、きちんとパーティを組んでいるだろう。そういう連中にはこのダンジョンは少しばかり物足りない可能性がある。それなのに回数を制限されてしまえばやる気がなくなるかもしれない。
中央都市としては、冒険者が定期的に来てくれるような環境づくりが最優先なのだ。
「なるほど…。
でもそうなると、やはりダンジョン近くに派出所のようなものを作ったほうが良いのかもしれませんね。誰が何回ダンジョンに行くかというのを数える必要がありますし…」
「そのあたりの話をするためにも、今日はこのあたりで引き揚げたほうがいいんじゃないですかね?
お昼にはちょっと早いですけど、ちょうどよいと思います」
「むぅ…もっとレアアイテムを堪能したかったんですけどねぇ。
わかりました。帰ったら帰ったでレアアイテムの査定もありますしね、うふふ」
ルチアが提案するとリリィは少々名残惜しそうながらも承諾する。その様子にアルナスルは内心ほっとした。一番最初にリタイアをするのが自分でなくて良かった。
「あ、査定なんだけどさ。
本来であれば等分じゃない?
でもこの調査用臨時パーティに限っては、ちょっとアルナスルさんに多くできないかな?」
「へ? 私は構いませんよ。
むしろ業務の一環ですので私はノーギャラでもいいくらいなんですが」
「それを言うなら俺も仕事の一環だ」
「でも銃弾は消耗品で馬鹿にならない金額になってるはずですよ。仕事の一環というなら、それこそ銃弾分くらいは経費にしないと」
「あ、なるほど。そういうことでしたらお任せください!
市長の方にもそういう連絡しておきますんで」
そう言われてしまってはアルナスルも無理に反対することもできない。
実際、銃は高火力で連射できる分、金のかかる装備ではあるのだ。
アルナスルは中央都市の警備として働いている以上、市からの支給はそれなりにあるが、レベルをあげるためにも自費で銃弾を購入していることが多かった。
「では、ありがたく受け取っておく」
「了解です。生産素材を分けて、それ以外を売ったお金を後日お届けしますね」
そんな感じに話はまとまり、三人は中央都市へと帰っていく。
アルナスルは市役所へ、リリィは査定のためにギルドにこもるそうだ。
そしてルチアは予定が全くなかった。
「…しまった、二人をお昼に誘うくらいすればよかったなぁ…」
そう考えても既に二人は仕事へと戻ってしまっている。
残念ながら一人で早めのランチをするしかないようだった。
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