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38 女神に叱られる


「あのね?

 そろそろ、あなたは一般的とは言いがたいことに気付いて欲しいな?」


「えーと、あはは。

 …そうなの?」


「当たり前でしょう?

 リリィったら可哀想に…。明日筋肉痛よ? それなのにダンジョン探索なんでしょう?」


 毎度お馴染みの女神のお部屋で、ルチアはテルースに説教されていた。

 テルース曰く「あなたのペースについていけるのは、相当忍耐強い人か戦いが好きな人くらい」とのことだ。ルチア自身は戦闘は好きでも嫌いでもないと告げたところ…


「あなたは作業ゲーが苦にならないんだもの。戦闘って気持ちあんまりないじゃない。

 あと効率化好きでしょ」


 と、バッサリ切られてしまった。

 確かに効率をあげるのは好きだ。ゲームでも、いかに効率よく周回できるか、ということを主眼に置いていた気がする。他にもこのゲームはアバターで着せ替えをしたり、このテルースの部屋のように好きな部屋を作ったり、踊ったり生産したり料理したりと様々なコンテンツがあった。だが、ルチアは多少やりはしたものの、やり込んだと言えるものではない。と、本人は思っているのだが。


「そもそも私が召喚できそうって思える時点で廃人確定だと思っていいわよ。

 あなたを喚んでから他の人もって思ったけど全然縁を感じないもの。勿論、人の死に際に遭遇するっていうのがレアなのもあるけどね」


 テルースは新たに冒険者の人口を増やすべく、ルチアと同じような境遇の人を探している。しかしながら、その行程はかなり難航しているようだ。


「サービス開始当初にちょっとやりましたーって人だと全然ダメなのよね。

 私の呼びかけが全く聞こえてない、みたいな」


「やっぱそう簡単にはいかないかぁ」


「あと、改めて考えると、どうやってこの世界に誘えばいいのかなぁって…」


「と、言うと?」


「女神っぽく言うには…みたいな?

 前提条件色々説明しなきゃならないじゃない。

 まず、最初に「あなたは死にました」とか言ったら反発されそうじゃない? 神を名乗るなら何で助けてくれなかった! みたいな」


 実際、アルナスルは「神なのに毎晩祈っていた自分の両親を助けてくれなかった」ということが原因で信仰心がなくなっていた。今はまた少し考えが変わってきているようだが。


「あーうん…それはあるかも。

 いきなり「死にました」なんて言われたら八つ当たりされそうだよねぇ…。

 …とりあえず姿を見せずに厳かに告げるしかないのでは」


「あ、そっか。対面する必要は必ずしもないのよね」


「そうそう。私たちの初対面の時みたいな真っ白な空間?

 ああいう感じで声だけ聞こえてると、神様と会ってるみたいな気持ちになる気がするし」


 周りには何もない真っ白な空間も、姿を見せずに声だけ響かせることも、どちらも人間には不可能なことだ。それが出来る存在が自分に語りかけているとなると、話を聞く気も起きるはず。


「んじゃそういう空間を作って…。

 話す内容も迷ってるのよね」


 もしかしたら、話す内容が決まっていないから二の足を踏んでいるのかもしれない。召喚された側のルチアからすると、よくわからない悩みだ。


「そのままでいいんじゃないの?

 別の世界であれば、あなたを生かすことが出来ますって」


「冒険者になって欲しいとか、そういうことお願いしなくても大丈夫かな?」


「んー…喚んでこれる人ってこのゲーム知ってる人でしょ?

 それなら大体冒険者として生きるんじゃないかなぁ? モチロン戦いたくないから別の職業探す人もいるかもだけど…。

 最終的な目標は、祈ってくれる人を増やすことじゃん?

 むしろそっちの話をしておいた方がいいんじゃないかな」


 ここはサービスが終了したネトゲの世界。

 いつ世界自体がなくなってもおかしくない。

 ただ、女神として生まれた彼女の力で体裁を整えてるに過ぎないのだ。


「消滅しかけている世界を存続させるために、あなたを招待したいのです。

 …みたいな?」


「そうそう。明確な目標ある方が燃える人もいるよねぇ。

 私みたいにのんびりじゃなく爆走してくれそうな気がする」


「…だから、ルチアは全くのんびりじゃないからね?」


「ゲーム時代、私なんてまだまだだったんだけどなぁ」


 自分よりも上のレベルの廃人はいくらでもいた。それこそ、アルナスルと二人でなんとかしたダンジョンだって、廃人ならばソロクリアも可能だろう。


「上を見ても下を見てもキリなんてないでしょ? まったくもう…。

 アルナスルはともかくリリィには無茶させないでよ?

 あの子ほんっと無茶するんだから」


「バリアはれるまでレベルあげては貰ったけど、戦ってもらうつもりはないよ~?

 万が一があったらサポートして貰えるとうれしいけどね」


「いつ襲われるかわからない状況でメモとらなきゃいけないんだから大変だと思うのよ。

 私が攻略本みたく情報あげたっていいんだけど、それじゃ人の成長にならないじゃない?」


「…ダンジョンの中身をほぼ知っている私が助言しちゃうのはいいワケ?」


 ルチアはこの先のダンジョンもだいたいのことは覚えている。

 それはズルではないのだろうか。


「ルチアは最新マップのこと知らないじゃない? あっちのが難易度高いし、それで釣り合いとれてるんじゃないかなぁ」


「わーそうだった…。まぁそれはかなり先の話だから今は心配しなくていいか…」


 この世界に来てからそれなりの時間が流れたが、状況がめまぐるしく変化していて目当ての観光はまだあまりできていない。


「あ、そういやスクショ機能みたいなことできないのかな?」


「う、うーん。文明が進んだらできるかも?

 ダンジョン探索で成果あげたら、商業都市にいくんだよね?」


「うん、そのつもり」


「じゃああっちでもいい感じに名前を売って商業ギルドマスターに会って聞いてみるといいよ。カメラくらいは手に入るかも?」


「名を売るって…そんな簡単にはできないよー…」


 中央都市は、たまたま人の縁があり、ゲームの知識が有効に働いたに過ぎない。なんだかんだ大変ではあったけれども、幸運には恵まれていた。毎回こんなにも耕運であるとは限らない。


「あなたって変なとこ謙虚よねぇ。

 まぁいいわ。ダンジョン周回ほどほどに頑張ってね。特に明日はリリィが慣れてないんだからちゃんと気を配ってあげてよ」


「はーい、じゃあまたね」


 そんな会話をして女神の部屋を退出する。

 真っ白な光に包まれてから数秒後、ルチアは見慣れた宿の一室に戻っていた。


「テルースにも釘刺されちゃったし、ダンジョン探索は午前で切り上げようかな。

 二人とも潜ったあとに書類として仕上げて提出しなきゃなわけだし。そうなると午後が暇になっちゃう…まぁ、そこは臨機応変でいいか」


 軽く明日の予定を立ててから、ルチアは床についた。

閲覧ありがとうございます。

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