35 報告書作成
市役所内の一室にて。
ルチアはアルナスルとともに報告書の作成に励んでいた。
査定のあと、結局鍛冶の生産に使えるものはアルナスルが、それ以外を全てルチアがもらうということで決着がついた。最後までルチアは「自分の取り分が多すぎる」とゴネていたが、三対一では勝つことができなかった。多数決の不条理である。
そのかわり、命中率やクリティカル率アップのアクセサリーは受け取ってもらえることになったのでよしとする。あれはリリィに渡していたらよくわからない付加価値をつけて販売されていたかもしれない。それはちょっと怖いルチアだった。
ドロップしたアイテムの報告の方は、リリィから詳細なものが届くだろう。しかし、ダンジョン内部の構造やモンスターは実際に行った二人でなければ報告できない。
「あのニンジンみたいなやつは…」
「フィールドに似たヤツいましたよね」
道中を思い出しながら、記録をとる。
元々はやりこんだゲームなので、おおまかなMAP作成であればまだ出来る。どこにモンスターがいるかも大体はわかる。そのため、その部分の作業はまだスムーズに進めることができた。
目下一番困るのがダンジョンに生息していたモンスターの名付けだ。
類似のモンスターがいる場合はそれに準じればいいが、他の地域に生息しているモンスターのことはわからない。
いかにやりこんだルチアであっても、全てのモンスターの名前は覚えていないのだ。
「もう通称でよくないです?
わかってればいいのは、どんな攻撃をしてきたか~とか、その攻撃の対策とかじゃないですか」
「だが、対策を練るにしても呼称がないとやりづらいだろう?
『あのニンジンっぽいやつの対策なんだが…』とかやるのか?」
「確かにそれは間抜けかも…。
でもでも、普通にフィールドにいるのだって『タマナちゃん』とかふざけたのいたじゃないですかー」
「つべこべ言わずに名付けしろ」
「センスないんですってばー…」
「なら、お前がモンスターの動きの詳細を書くか?」
「前衛やるのに必死で細かいところ覚えてないです!」
「であればこの分業で正解だろう」
アルナスルは攻撃する傍ら、モンスターの攻撃モーションを観察していたらしい。今はそれを文章に書き起こしているとのことで、それはそれで苦戦している。ルチアもボスひまわりのフラダンスをどう表現していいかわからずに四苦八苦したから、書き起こすのが大変なのは十分にわかっている。
だが、それはそれとして名付けだってめんどくさい。
「…今なら『タマナちゃん』とか名前つけた人の気持ちがわかる気がする…。
やけっぱちになったんだね…わかるよ…」
であれば、ルチアだってヤケクソで名前を命名しても許されるのではないだろうか。
そう思い直して適当な名前をつけていく。これで大分時間が節約できる。
「とりあえず、ボスのでかいやつは全部頭に『ボス』ってつければそれっぽいはず」
「そうだな。あと、ボスは全部異様にでかいんだったか…」
「そうですね。あとはボス固有の攻撃がある場合もあります。今回がそう…なのかな? ひまわりってもともと範囲攻撃してたかな…。
うーん、わからない」
次にモンスターに関して覚えていることを次々に書いていく。それを整理するのはアルナスルに押しつけてしまおう。
「大体何発で倒せたかがわかれば相手の体力もわかるんだがな…」
「あー今回クリティカル結構でましたもんね。はかりにくい。
でも、そもそも一回の調査でどうにかしようって方がむりがありません?
最低あと3回は行かないと…」
「…お前はいいのか?」
「何がです?」
「次の街にいくのでは?」
「それは"いずれ"の話です。
一応、私この都市拠点にするって約束しちゃったんで」
ただの一般人のつもりなのだが、いつのまにやら都市の役職に就いているのだ。正直実感はないのだが、それでもやると言ったからにはできることはするべきだろう。
「…で、それを前提でいうんですけど。もう一人メモとってもらう係をパーティに入れて三人で行きません?
これどう考えても効率悪いですよ。戦うのに必死で思い出せませんもん」
「…わかった。そのことも含めて報告書に提出しよう。
そもそも、あのダンジョンに入れるのは最大何人なんだ?」
「6人で入った覚えはありますね。それ以上はわからないです。その辺りの検証もやるならやった方がいいかと」
「それもそうか」
現時点で報告できることはきちんと報告して、残りは後日またダンジョンに潜ってからということになった。
こうやって話しているだけならアルナスルはとてもやりやすい。
(ビジネスパートナーとかいうのはこういうモノなのかなぁ?
前職ブラック過ぎてよくわかんないや)
「こんなものか…あとはいいぞ。やっておく」
「ほんとですか、よろしくおねがいしまーす。
報告書作成要員きてくれるといいですねぇ」
「おそらくだが通るんじゃないか?
多少自衛が出来る人間が来てくれないと困るが…」
「確かに…。ある程度体力がないと周回も難しいですよね」
「は?」
何気ない会話をしていたつもりが、突然信じられないものを見るような目で見られる。
何かおかしなことを言っただろうか。
「え?」
「お前…日に何度もダンジョンに行くつもりか?」
「え、まぁ」
「あの生きるか死ぬかという状況を何度も…?」
「急ごしらえの二人パーティの割にはかなり安定していましたよ?
アルナスルさんが強くて安心できました」
素直に賛辞を送るが、それでもアルナスルの顔は晴れない。
後から思えば、この世界ではゲームではなく現実。一つミスをすれば全滅するかもしれないという状況に何度も足を踏み入れるというのは相当な危険中毒に見えたのだろう。
「前線に行くには、それくらい常識がぶっとんでいなければいけないのか…」
ルチアが帰ったあと、アルナスルはポツリとそう呟いた。
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