33 ボス討伐完了
(ちょっとー!? ガンナーは詠唱ないのになんで返事してくれないの!? もしかして当たっちゃった!?)
ほぼ真上から降ってくるひまわりの種を避けながら、アルナスルの心配をする。もしかしたら、怪我をして動けなくなっているかもしれない、という不安が胸をよぎる。
(とりあえず、回復魔法詠唱して…)
先に回復魔法の詠唱をしつつ、チラリと目線をアルナスルの方に向ける。特に攻撃を食らった様子もなく無事な姿が確認できて、ほっとする。しかし、魔法は急に止まれないのでそのまま彼に回復をかけてしまう。
誰に回復魔法をかけようともモンスターのヘイトは回復役に向かうので、攻撃がアルナスルに向かってしまうということだけはない。
回復魔法をかけられた彼は一瞬あっけにとられたようだが、すぐに気を取り直して銃を構え直してくれた。ルチアの魔力も無尽蔵ではない。魔力の回復手段は乏しいのでさっさと倒してもらうのが理想的だ。
そうやって地道に一体ずつ削りながら、ボスひまわりの範囲攻撃を避けて十数分。やっとボスモンスター集団を倒すことができた。
「お疲れ様です」
ルチアのやること自体は単調だった。
回復魔法とバリアを交互にかけ、回避できる攻撃は回避する。
それから、モンスターが減ったら自分も攻撃役に回る。
それだけのことではあるが、命が懸かっているとなると精神的負担が半端ない。
「お疲れ。
…足下がドロップ品だらけだな」
「流石にそうなりますよね。手分けして持ち帰りましょう」
ルチアには女神トリーアの加護がついたポーチがあるとはいえ、整理整頓しなければ二人で持って帰ることは難しそうだ。
「俺はレベルがあがったようだ」
「じゃあ22レベルですね。おめでとうございます!」
「暫く上がっていなかったのだが…ボスを倒したからだろうか?」
「今までの経験値の積み重ねの結果ですよ。
確かにダンジョンの経験値はフィールドよりも高いことが多いです。けど、アルナスルさんくらいになると誤差の範囲ですね」
ダンジョンはどちらかと言うと経験値より、ドロップを狙うところだ。
ゲームの中で一番効率よくドロップ品を回収できるのは、適正レベルの6人パーティーと言う風に設定されていた。適正レベルパーティーでくると、今よりもドロップ品が多いだろう。
今回は適正レベルよりも上の人間二人で挑んだため、この程度ですんだ。あまりにもレベルが高すぎるとドロップ量が少なくなる傾向があるのだ。
「こっちはエンチャント、こっちは素材だから纏められますね」
宝箱を開ける前に所持品を振り分ける。
基本的に鍛冶の生産素材はアルナスルに、それ以外をルチアが受け持つ。
「もしかしたら、宝箱あけるとあふれちゃうかも…」
「加護持ちのアンタでもか」
「加護も万能ではありませんからねぇ…って、えぇ!?」
テルースの加護があるとは言っていないはずだ。バレたら面倒なことになりそうだと思って隠していたつもりなのだが…。
「アンタ、気づかれてないつもりだったのか…。
それだけポーチに収納できれば、女神テルースの加護を持っていると見るのも当然だろう」
アルナスルが呆れた表情でいう。どうやらバレバレだったらしい。
「それは…まぁそういうものなんですね」
そこまでは気がつかなかった。
そういえばテルースにもそんなことを言われた気がする。うかつだった。
「アンタは…女神の祈りを広めた功労者だからな。流石敬虔な信徒というところか…。
そういった者でなければ女神は見捨てるのだろう」
「それは違います!」
「なにが違うんだ?
女神が加護を与えたから、アンタのポーチには加護があって大量の荷物が入り、ダンジョンの存在も知っていたのだろう?」
アルナスルの中では、ルチアが女神テルースに贔屓されているというのは確定事項となっているようだ。確かにテルースに贔屓されて死ぬところを助けられたのだが、彼が思っているようなものではない。どうやって説明したものかと途方にくれてしまう。
少なくとも、女神テルースは敬虔な信徒でなければ救わないということはないはずだ。ただ、力が及ばないことが多いだけで。
彼の今までの人生で何があったのかはわからないが、誤解は解いておきたい。しかしながら、どういった言葉であれば彼に届くのかはさっぱりわからなかった。
「女神テルースだって…存在を信じて貰えなかったら加護を与えるとかできないです。信じる人あっての神様であって…。
そもそも神様が万能だったら、侵略者なんて現れてなかったかもだし」
「信仰が薄れたことがそもそもの原因とでも言いたいのか?」
「…私は神じゃないのでそこんとこはわからないですけど」
大本の原因はゲームサービス終了なのだが、そんな事実を言うわけにもいかない。ある意味ではゲームに接続する人数が減った=信仰が減ったと言い換えてもいいとは思うが。
「私はかつて前線で戦う戦士でした。
今ここいるのは、前線で大怪我を負ったから…。その影響で、私には記憶がありません。
しかし前線の戦士としての経験から、ダンジョンでの動き方や詳細な情報があるんです。決して女神の贔屓なんかじゃありません」
嘘は言っていない。
前線の戦士だったという設定は事実だし、記憶も一部失ったまま。ダンジョンに潜った経験も豊富なのは確かだ。
「お前が前線に行く前は、こういったダンジョンは、ポピュラーなものだった…?
では何故…」
「わかりません。
ただ…、もしかしたら私がレベル1に戻るほどの怪我を治している間に、何かがあったのかもしれません。信仰が薄れるような何かが…。
神は祈ってくれる人が減るほど力を失ってしまいますから」
この辺りもギリギリ嘘はついていない。たぶん。
これ以上何を言えばいいかと迷っていると、アルナスルが口を開いた。
「…あんたと神について論じるつもりはない。
まずは宝箱をあけてしまおう」
「…そうですね」
話し合っても平行線でしかない。であれば、さしあたって目の前の問題を解決するより他ない。
「嫌な言い方をしてしまったが…アンタにどうこう言う気はないんだ」
少しだけバツが悪そうにアルナスルが言う。
彼自身、この言い分が言いがかりだと思っているような態度だ。
(もう少し時間があれば、女神に対するわだかまりも解けるかな?
でもそこまでする必要もないんだよね。信仰って本来自由なモノであるべきだし…別に信じたくなきゃ信じなくていいんだよね)
そんなことを考えながら、気を取り直して宝箱を開ける
宝箱からは様々な素材が出てきた。とりわけ珍しかったのが、生産の設計図だ。それも10レベル代専用のものではあるが、一番レアな等級のものが出てきた。生産図の等級は金・銀・銅で表されるがその中でも一番高い金図と呼ばれるモノだ。
ただしレアなだけで、使えるかどうかは定かではない。等級が高いだけで性能はイマイチというものも中にはある。
今回ドロップしたのは鍛冶の生産図のようだ。
「お前は…何がしたいんだ…?
女神を信仰させたいのか?」
宝箱からのドロップ品を仕分けしていると、眉間に皺を寄せたままのアルナスルが呟いた。
「私は…女神と協力してこの世界を存続させたいと思っています」
「世界の存続…か。大きく出たな…。
ではいずれ、お前はこの中央都市を離れるのか」
「そうですね。そのつもりです」
あちこちを観光したいのだから、いつかはこの街を離れることもあるだろう。それでも市長と契約したのだから、拠点は中央都市になるはずだ。
素直にそう答えると、何か思うところがあったらしい。アルナスルは中央都市までの帰り道、終始無言だった。
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