31 ダンジョン探索
銃声が響く。
この世界の銃は一応魔法のかかった銃とのことで、味方には当たらない、らしい。
ゲームではそれで納得できても、実際に銃弾が横を掠めると怖かった。
それでも、その恐怖のせいで詠唱を止めてはいけない。味方の銃にではなく、目の前のモンスターに殺されてしまうからだ。
二発目の銃声が響く。
三発目、四発目。
銃声の音が増えるごとに、目の前のモンスターが弱っていく。そして、倒れた。
倒れたモンスターがドロップ品に変わったのを見届けたところで、アルナスルにバフをかけ直す。
無事に一匹を倒せたら、勝利は目前だ。
モンスターの群れとの戦闘は、最初の一匹を倒すまでが最大の山場なのだ。
アルナスルが攻撃して、ルチアが耐える。この繰り返しで最初のモンスター集団はあっけなく倒すことができた。
「お疲れ様。こんな調子になるけれど、このままで大丈夫そうですか?」
「問題ない…。むしろ…いや…」
(思ったより調子がいいんだろうなぁ。
祈ったし、アクセ貸したし。正直アクセは使わないやつだから、あげてもいいんだけどタダってわけにも…。
でも、適正レベルの装備じゃないから売りつけるのもなぁ…)
銃でクリティカルがでると、銃声が少し違うものになる。なので、ルチアにも彼がどのくらいクリティカルを出したが把握できる。
銃でクリティカルを出すには結構なコツが必要だ。しかし、今のアルナスルはルチアが作った高品質なアクセサリーと祈りで大分クリティカル率が補正されている。先程の戦闘ではだいたい半分がクリティカルだった。
おそらく何の補正もしていなければ、クリティカル率は10%に満たないくらいだろう。それゆえに、彼自身もかなり手応えを感じたはずだ。
祈ることに対してあまり好意的ではない反応をしていた彼だが、少しは見直してくれただろうか。
「通路にいる集団はこの戦法で行きたいと思います。あと3集団くらいかな」
「わかった」
「銃弾切れなども大丈夫ですか?」
もちろんと言うように頷かれる。
先程の戦いぶりからして、安心して攻撃を任せられそうだ。
「では、釣ってきますね」
それから数回同じ作業を繰り返して、通路の安全を確保。危なげなくやり遂げた。
次は部屋の中をうろつく集団の殲滅だ。
「部屋の大きさにもよりますけど、中にはだいたい2から5集団がいます。
それらをいっぺんに相手したら流石に死んじゃいますんで、今度は通路まで引っ張ってきて倒したいと思います」
「わかった。
しかしよくここまで偵察できたな」
「え? あはは、まぁ…」
やり込みまくったゲームですから、とは言えなくて曖昧にごまかす。
「そもそも、通路にいる敵も数がわからなければ難しい。効率が良すぎる」
「はい、じゃあ部屋の中のやつ釣ってきますねー」
かなり怪しまれているらしい。
冷や汗をたらしながら、強引に戦闘にもつれ込んだ。
(実際問題なんて答えればいいのよー!
前世の話なんてしても頭おかしいと思われるのがオチでしょー!?
女神の知り合いとか言ってもいいけど、祈りたくない人に言うのもちょっとさぁ!)
戦闘自体は問題なく終わるが、戦闘に入るまでの時間がひたすら気まずかった。
幸い彼はあまり追及してこなかった。
「あ、この部屋宝箱ありますね。ポーチの方はどうですか?」
「そろそろ溢れそうだな」
「では一度荷物整理しちゃいますか。この辺りなら部屋のモンスターに気配感知されることもないでしょうし。
アルナスルさんは、生産スキルはとっていますか?」
「鍛冶だ」
「なるほどなるほど。では、鍛冶に使うものはそちらに渡しますね。彫金はわたしが持ちます」
モンスターを倒せばドロップ品がなんでもポーチの中に入る。しかし、規定量を超えると中身が足元に散らばってしまうのだ。
そして、現実世界になってわかったことだが、足元にドロップ品が散らばると非常に邪魔くさい。ゲームでは気にしなかったが、現実ではこれが実に厄介だ。実際にルチアは一度ポーチからあふれでた品物を踏んづけて転んだことがある。格下のモンスターだったから大怪我にはならなかったが、非常に怖い思いをした。その現象がこのダンジョン内で起これば死に繋がる恐れがある。
そのためドロップ品を二人で分担してポーチに入れるのだ。
「そういえば…先程のモンスターを倒したときにこれがドロップしたんだが…」
そう言って彼が見せてきたのは、淡い光を放つ正八面体の形をしたものだ。
「これはなんだ? 一つしかないので素材かどうかすらわからん」
「あーたぶんそれは…ちょっと触っていいですか?」
許可をとると、無言で渡してくれる。
手のひらにすっぽりと収まる程度のサイズ。触れるとすぐさま頭に文字が浮かんだ。
・会心の魔石(微小)
武器にエンチャントすると、クリティカル率がほんの少し上昇する。
あー、ゲーム内にもこんなものあったなと思い出しつつ、アルナスルの銃を見る。
「武器に特殊効果を付与できるアイテムですね。アルナスルさんの銃につけちゃいますか」
「俺のに?」
自分の銃を見て怪訝そうな顔をしているアルナスル。
「あ、もしかしてその銃ってアルナスルさん個人のモノじゃない、とか?」
「いや、これは自分で作ったモノだからエンチャントする分にはかまわないのだが…」
都市からの支給品で勝手にアレンジするのは許されない、とかいう事情なのかと思ったが、そうでもないらしい。
ならば、ポーチの中をスッキリさせるためにも是非ともエンチャントしてほしいところだ。
「これ、装備品と同じ扱いなんでポーチの中で嵩張るんです。
もっと強いの出てきたら上書きもできます。だから、付けた方がちょっぴりお得ですよ」
「そうか…お前はいいのか?」
「今私の火力が上がってもあまり意味ありませんから。詠唱速度上昇とかならちょっと考えますけど。
んじゃ、つけますねー」
アルナスルの方から銃を渡してくれたので、遠慮なくつけてしまう。道中の敵からドロップするのはかなり珍しいが、これはこのダンジョンのボスを倒せばかなり落ちるものだ。使い渋る理由がない。
彼の火力が上がればそれだけ盾役のルチアも楽ができるのだ。
良い拾いものをしたと上機嫌になりながら、ドロップ品の仕分けをするルチア。その様子をジーッとアルナスルが見つめているのには全く気付いていないのだった。
「あともう少ししたらボス戦です。
ボスのドロップもあとボス部屋の宝箱もありますから頑張っていきましょうね」
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