30 初めてのペア戦
(や、やりにくい…)
アルナスルという助っ人と、この世界では初めてのペアでの戦いになる。子供たちと戦ったりもしたが、あれは指導なのでノーカウントだ。
しかし、ここで問題が発生する。
(ずーっとソロばっかしてたからペアってどうやるんだっけ!?
ていうか彼はどのくらいの実力なの!? あんまり初歩的なこと言うと失礼?? コミュ障つらい!)
それでもダンジョンをクリアするにあたって最低限の情報共有はしなければならない。そうしないと二人とも死ぬことになるからだ。
「えーっと、ですね。これから行くのはレベル10のダンジョンなんですけど」
「そう聞いている」
「あ、はい。
それでですね。装備をお聞きしたいんですが…アクセサリー系ってつけてませんよね」
「そうだな」
アルナスルが身に付けているものは、パッと見では何かわからない。ただ、装飾品の類いを一切つけていないことだけはわかった。
「でしたらこれお貸ししますんで、つけてください。バングルとイヤリングです」
先日大量生産したものの中からガンナー向けの高品質なものを渡す。もしもの時のために持ってきたのが幸いした。これで彼のクリティカル率や命中率は多少あがるはずだ。
「…これは、品質がかなりいいな」
「私の生産スキルが彫金なので。
アルナスルさんのレベルには見合ってないんですけれど、ないよりはあった方がいいと思います。ガンガンヘッドショット狙ってください」
レベル21であればこれよりも数ランク上のものが装備できるのだが、ルチアの彫金スキルがそこまでに至っていない。
実のところ、彫金スキルのレベルアップのためにもダンジョン攻略は積極的に行いたいのである。
「感謝する」
そう言ってアルナスルはアクセサリーを身に付ける。
正直低いレベルのアクセサリーは見た目的によろしくないものが多いのだが、彼の顔面偏差値が妙に高いため格好がついていた。
(何するにも顔面がいいって特よね。
いや、ルチアの顔も悪いわけじゃないんだけど中身が自分って思うとどうにもなぁ…)
どうしても自分はアバターを被っているような気持ちになる。
VRとやらで遊んでいればこんな気分だったのかもしれない。
「あとは…今回は私が壁役をして、そちらに攻撃が流れないように注意します。基本的に一匹ずつ確実にしとめてください」
「…そうか」
「というか、私が敵を釣ってくるので、最初の部屋で待機してもらっていいですか?」
「わかった」
道中でそんな会話をしながら、街の外へ。
のどかな草原にぽつんと立っている遺跡まで辿り着いた。
「っと…中入る前にお祈りしないと」
「すまないが、俺は神に祈る気はないぞ」
ダンジョンに入る前にお祈りは必須である。と、思っていたのだがアルナスルは渋い顔で祈りを拒んだ。
無理強いする気も詮索する気もないが、妙に頑なな態度が気になった。
「あ、はい。ただ、私はしますのでちょっと待っててくださいね」
祈りの有用性は中央都市の中では、ほぼ広まったといってもいい。市長自らがそういう話をした上に、先日テルースが姿を見せたのだ。
それでも、彼は祈りたくはないという。
(神様を信じたくないような何かがあった、とかかな。
まぁテルースだって万能じゃないから仕方ないよね)
一人でも祈る人が増えた方がいいのだが、強制することはできない。
ルチア一人で祈りをすませる。
そうやって準備を整えて。
いざ、ダンジョンへ。
万が一の時のために、先日と同様入り口と出口が近いインスタンスダンジョンの鍵を台座にはめ込む。
地響きを立てて、ダンジョンがせり上がってくる。何度見てもファンタジーのようなワクワクする光景だ。というか、ファンタジーなゲームの世界なのだが。
「…これが、ダンジョンか」
無表情なアルナスルもこの光景には驚いたようだ。仏頂面でなければ、かなり若く見える気がする。
「では、いきましょうか。最初はモンスターがいない部屋に転送されます」
「そこで待機、だったな」
「はい、よろしくお願いします。
万が一、歯が立たないと感じたら撤退しますので、そのときは臨機応変にお願いします」
モンスターの攻撃に耐えるだけならできることは既に実証済みだ。あとはアルナスルの火力にかかっている。
レベル的には問題ないどころか十分だ。しかし、アクセサリーを渡したとはいえ、装備があまりよくない場合もある。確実に倒せるとはまだ言えないのだ。
「了解した。いこう」
若干緊張した面持ちのアルナスルとともにダンジョンの中へ入っていく。
転送された先は、あの壊れた遺跡を彷彿とさせるような石造りのダンジョンだ。人工的な構造で、密閉されているにも関わらず何故か明るい。
そして、ダンジョン内に満たされているピリピリとした空気。
ここに、強いモンスターがいるぞ、と肌で感じられるような、そんな感覚だ。
「……」
このダンジョン特有のピリピリとした空気をアルナスルも感じ取ったらしく、険しい顔で位置確認をしていた。
「モンスターを釣ってきます。
できる限り銃の射線には入らないように注意しますが、攻撃に耐えるので結構ギリギリなんでその辺りはよろしくお願いします」
ゲームでは銃の射線もなにもなかったが、ここでは違うかもしれないので一応注意しておく。
「あぁ」
短い返事が聞こえたら各種バフをかける。
今のルチアのレベルでかけられるのは、アルナスルの命中補正と攻撃力アップ、自分へのバリアくらいだ。今回ルチア自身は攻撃する予定がないので攻撃力アップを省く。そうしないと魔力が底を尽きかねない。
「いきます」
返事を待たずに部屋の外へ。
まずは入り口と出口の間の通路をうろうろしているモンスター、マッドスプラウト一匹とコンコーンが二匹というモンスターの集団を釣る。
マッドスプラウトはベビースプラウトによく似ている形だが、色がちょっとだけこちらの方が濃い。そして、コンコーンというのは狐のようなとうもろこしの形のモンスターだ。もしかしたらとうもろこしに擬態した狐なのかもしれないが、そこはどちらでもよい。
どちらもちょっと間抜けな姿形をしているが、その攻撃力は間抜けとは程遠い。油断すれば死ぬ。
バリアがかかっていることを確認して、素早く集団のリーダーであるマッドスプラウトにファイアボールを放つ。こうすることでモンスターの群れ全員が等しくルチアにヘイトを持つのだ。
こうしないと攻撃を開始したアルナスルにヘイトが向き、彼の方へ襲いかかる恐れがあるからだ。群れのリーダーに攻撃をしかければ、攻撃が他の人間に向かない上にちょこっとだけだが体力を削れる。大体の場合群れのリーダーが一番体力があるものだ。
ファイアボールが着弾するかしないかのうちに、最初の部屋に向かって走り出した。その間は何も魔法を使わない。
部屋に走って戻ると、アルナスルが狙撃の構えをしていた。彼からもピリピリとした集中力を感じる。
(確かにこの人強いっぽい…。
間違って私のこと撃たないでよ~…)
そんなことを考えながら、彼の銃弾の射線を切らない位置で停止。
更にヘイトを稼ぐために、特に傷ついてはいないが回復魔法をかけた。
このゲームではモンスターの注意を引くには三つの方法がある。一番は壁職と言われる職業が使う挑発。これを使えば大概のモンスターは壁職以外を攻撃しない。
次に回復。モンスターたちもそれなりに賢いようで、回復する人間がいると戦闘が長引くということをわかっているらしい。ルチアは今この習性を利用してモンスターの注意を引き付けている。
最後に普通に攻撃すること。ただし、これは前者二つよりは劣る。余程の火力があれば別だが、少なくともアルナスルには出来ないだろう。
あとは、回復とバリアを交互にかけながらアルナスルがモンスターを倒してくれるまで耐えるだけだ。
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