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03 職業くださいな

 ルチアは今、どでかい神殿前の広場で大いに迷っていた。

 どういう原理かはサッパリだが、この世界の神殿はキラキラと輝いている。戦争で攻め込まれでもしたらいい的になるだろう。

 この世界を作り上げたというテルース神が祀られているこの神殿は、始まりの職業をもらうためにこの世界では絶対に通過しなければならない地点だ。

 まずはここで希望する職業の神官に話しかけ、簡単な説明の後に一次職への転職が認められる。


 その入り口でルチアはうんうんと唸っていた。


(生き抜くにはやはり素早さが大事…しかし、一番素早い盗賊系統は近接職。なにそれこわい。しかも回復できない。でも殺傷能力はあるし…。

 魔法系はバフかけて一撃ができないこともないけど、一撃決殺できなかった場合待っているのは死…柔らか魔法使いが凶悪なモンスターに対抗できるはずもなく…ううう)


 この職業決めが今後を決めるので、悩むのは当然である。

 そもそもこのTTOというネトゲは、見知らぬ人とPTを組んで冒険に出かけることを前提に設計されている。しかし、今の世界にルチア以外のプレイヤーがいる気配がないのだ。

 ゲームの世界であればこの神殿前の広場は、一番多くのプレイヤーが集う場所だった。露店を開いたりその露店をひやかしたりと、ゲーム内ではとても賑やかだった。だが、現在露店は一つも見かけていない。

 露店専用のサブ垢なんかがないのだから、露店を開くのは非効率ということもあるのかもしれない。露店するくらいならレベル上げとか冒険をしたいとか、そもそも専門の商人が優秀だとかも考えられる。

 ただ、露店が密集する広場を見慣れているルチアからすると、とても異様な雰囲気に見えたのだ。


(誰かとパーティを組むアテがないんだから、ソロでも死なない職業にしないと…)


 そうして悩みぬいた末に結論を出し、魔法系職業の神官がいる方へ歩を進めた。




 神官は、人のよさそうな笑顔を浮かべた初老の紳士だった。


「こんにちは」


「こんにちは…おや?

 あなたはもしかして、前線で戦っていた戦士ですか?」


 このやりとりも何十回見たんだろうか。最初は、何故そんな一目見てわかるんだよと思っていたものだけど、繰り返すうちに慣れてしまった。

 しかし、自分自身の現実としてこんな風に言われると、改めて不思議に思う。

 そんなに元戦士ってわかりやすいのだろうか。


「一応そういうことになりますかね?

 なんでわかっちゃうんでしょう?」


「貴女の持つ戦ってきた者であるという雰囲気と、レベルがちぐはぐなのですよ。

 侵略者相手に戦って一命をとりとめたものの、前線にいられない程の怪我を負う人もいらっしゃいますからね」


「そういうものなんですね」


 折角なので直球で聞いてみたが、よくわからなかった。

 このあたりは特殊な修練を積まなければわからないスキルなのかもしれない。

 とまで考えて、この世界では相手のステータスなどを見ることはできないのか? と思い至った。

 ゲームであればクリックするなり、キー入力で見れたものだが…。


(ゲームの時は、ステータスはクリックとかコマンドで見れたんだけど…)


 心の中でそう呟いた瞬間、聞き覚えのあるカチリという音と共に目の前の神官のステータスが視界に入ってきた。



ベルス 神官 lv45



 名前と、職業とレベル。

 見覚えのあるフォーマットに、おそらく目の前の神官の個人情報が映し出される。駄々漏れもいいところだ。

 ゲーム画面ではないのにそんな説明が浮かび上がって見える。ステータスから意識を背けるとその画面は消えた。なんとも面白い仕様である。

 だが、これで戦闘をする際も楽になりそうだ。


「それで、あなたは私に話しかけた、ということは転職をお望みですか?」


「あ、はい。そうです。回復職になりたくて」


 ルチアが最終的に選択したのは、魔法系職業のなかの回復魔法師だ。

 魔法系職業は、まず一次職で単純な基礎攻撃魔法やバフスキルを覚えて魔法を使うことに慣れる。そして、二次職を選択するときに攻撃特化にするか、回復特化にするかを選ぶことができる。

 その中でもルチアは、将来的に自己回復や防御スキルを持つ回復職の系統に進むつもりなのだ。

 現実となったこの世界で、剣を振るい相手の命を絶つことができるのか、という問いの答えでもある。

 万が一、剣から伝わる命を絶つ感触に怯えでもしたらそのまま死に繋がってしまうのだ。

 ようするに、絶対に死にたくないでござる!ということだ。


「なるほど。ではまずその資格を得るために…あなたが戦える人間であるということを証明してください。

 そうですね…正門から出てすぐのあたりにベビースプラウトがいますから、その芽を5つ持ってきてくれますか?」


「えっ!? あ、はい。わかりました」


 一次職を得るために討伐クエをした覚えはない。それで少し動揺してしまったのだが、少し思い当たることがある。


 このネトゲのサービス開始直後は確か、何をするにもおつかいクエストをしなければいけなかったような記憶がある。その後、度重なるアップデートで、最低限二次職になっていないとお話ならなくなってしまった。

 長い歴史のネトゲではよくあることである。そして、数々の経験値テコ入れがあり、最終的に一次職転職は話しかけるだけ、というお手軽さになっていたのだ。


(そういえば初期ってそうだったっけ…?

 てことは、この世界は結構マゾいレベルアップシステムかも…。

 でも逆に言えば、レベル制限のせいで配布アイテム取りこぼしとかはしにくいって利点もあるし。なにより、私が目指すのはレベルアップじゃなくって、死なないことだから)


「一つ、助言を。

 ベビースプラウト討伐の依頼や、ベビースプラウトがドロップするアイテムを採集する依頼があるかもしれません。

 依頼を受けるために、先にギルドへ登録することをおすすめいたします」


「ギルド…っていうのがあるんですね」


「えぇ。神殿を出て、広場を挟んで斜め向かい側の建物です。

 では、ベビースプラウトの芽を5つ、貴女が持ってきてくれることを楽しみにしていますよ」


 ベルス神官にそう言われて、丁寧に一礼してから踵を返す。


(ギルド…ねぇ)


 異世界系ラノベでは定番の存在だが、ネトゲであればちょっと意味合いが違ってくる。ネトゲでギルドといえばプレイヤーたちが作る集団を指すことが多い。

 ログイン時間を合わせて一緒に狩りに行ったり、新規キャラの育成を手伝ったり…。

 だが、ベルス神官が言っていたのは、なんとなくラノベに出てくる方のギルドに近い存在のようだ。


「ま、行ってみないとわからないか。そもそも、お金稼がないと野宿になっちゃうし」


 ゲームでは昼夜を問わず走り抜けていたが、ここは現実なのだからそうもいくまい。現代日本人として最低限の食事と寝床、そしてお風呂は必要不可欠だ。そのためにも稼がなければならない。

 大きなデメリットがなければ登録しておく方が無難だろう。

お話を読んで、少しでも面白いな、と感じたら評価よろしくお願いします。励みになります。

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