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29 助っ人要請


「と、いうわけで。

 うまくインスタンスダンジョンが機能したら、冒険者がこの街に来る理由になるかもな、と思ったわけです」


 ダンジョン初体験の次の日。

 ルチアはリリィとともに市長室にいた。

 何故リリィがいるかというと、ドロップ品と今までゴミ扱いされていたダンジョンの鍵の流通管理について話したいからだ。

 というか、今まで一人で管理していたというのが土台無理な話なのである。何人か回してもらえるように、市から圧力をかけてもらった方が手っ取り早い。ギルドと都市がどういう力関係にあるかは知らないが、リリィが要請するよりは効果があるだろう。たぶん。


 ちなみに市長に会う前のリリィは緊張でプルプルしていたが、いざ会議となると驚くほどに堂々としていた。様々なトラブルを解決してきたギルドの職員なだけはある。


「なるほど…。

 しかし、そのダンジョンはルチアさんでもクリアできないようなシロモノなのでしょう?」


「私一人では無理ですね。

 なので、調査という名目でどなたかに協力をお願いしたいなーっていうのが私の目的です。実際問題私一人ではモンスターを一匹も倒せなかったもので」


 一匹でも倒すことができればドロップしたアイテムを見せることができたのだが、それは無理だった。生き延びることはできるが倒すことはできない。


「しかし、この都市には冒険者が…。

 ギルドの方から斡旋ということも難しいでしょうし」


「そうですね…残念ながら確実に儲けられるわけでもない限りギルドから協力要請をだすのはちょっと…」


 冒険者ギルドはあくまで仕事の仲介役であって、強制力はない。依頼を出すことは可能だが、現時点では報酬を確実に出せるとは言いがたいのだ。


「冒険者じゃなくて、街の警護している人とかはどうですかね?

 できれば遠距離攻撃ができる人が望ましいんですけれど」


 ルチアの回復職はどの職業とも相性がいい。その中でも取り分け相性がいいのが高い攻撃力を持つ遠距離攻撃タイプだ。

 このゲームで該当するのはアーチャーとガンナー、攻撃魔法職あたりだ。ルチアが回復とバリアでモンスターの攻撃に耐えているうちに高火力の攻撃を叩き込んで倒してもらうスタイルだ。

 逆に近距離で戦う戦士系盗賊系でも相性は悪くないが、火力が劣るため戦闘が長期化する傾向がある。

 この都市は平和過ぎてあまり戦闘経験が豊富な人間がいるとは思えない。長時間の戦闘は向いていないように思えた。


「最初は子供たちを鍛えて…とも思ったんですが、まだまだその辺りの法律って決まっていないでしょう?」


「そうですね。それは避けていただければ…。

 ただでさえ子供たちに戦闘をさせるとは何事か、という大人が多い上にルチアさんでも危険を感じる場所につれていくとなると…」


「うん、私もそう思う。

 ということで、誰かいませんかね? 大人で。

 なんなら私が雇う形にしてもいいんですけど。もちろんダンジョンで得た報酬は山分けにしますし、それなりにお金にはなる…はずなんですが」


 お金なら先日もらった分があるし、そもそもダンジョンのドロップ率が変わっていなければそれだけ支払ったとしても十分元はとれるはずだ。街としても潤うだろうし、悪い提案ではないはず。

 だが、いくら提案が悪くなくても人材がいなければどうしようもない。


「ふむ…。できれば遠距離で攻撃でき、多少の危険も厭わない者。それに加えてそれなりのレベルも必要ですな」


「そうなりますね」


 3~6人の複数人パーティを組んでも構わないが、人数が多いと対応しきれるか自信がないというのが本音だ。ゲームでは何度も臨時パーティを組んだことはあるが、それは全員がダンジョンの動き方をある程度知っていたからに過ぎない。単独行動や予想外の動きをされるとフォローしきれるかが心配なのだ。

 であれば、できるだけ高レベルの人を一人紹介してもらった方がいい。一人であれば十分な報酬を渡すことができるが、複数人だと少々心もとない。


「わかった。該当する人間を探しておく。明日になってしまっても良いかね?」


「それは勿論」


「ギルドは今のところ待機で構わないですかね?」


「あ、そうそうギルドにもお願いがあったの。

 最近街の人もぼちぼち外に出るようになったのよね?」


 あの一件以来、万が一に備えて戦うことができるようにと街の外に鍛えにいく人が増えたらしい。お陰で武器防具の需要がかなり高まっているとか。以前大量に作ったアクセサリーもかなり売れていると聞いている。


「えぇ、毎日それなりの人がギルドに立ち寄って売り買いをしてくれていますよ」


「その中で鍵を持ってきた人がいたら私が買い取りたいな、と思って」


「ルチアさんが買い取りですか? それは構いませんが…」


「私個人も鍵がほしいっていうのはあるんだけど。

 それよりこのダンジョンの魅力がいろんな冒険者に伝わったときに鍵がないって人が多くなると思うのよね。

 いずれはギルドが鍵の売買も行った方がいいんじゃないかと思って」


「なるほど。では現時点ではルチアさん名義という形にしておきますが、その後ギルドがすべて買い上げて売買する…といった方向でよろしいですか?」


 すべてを言わなくてもわかってくれるリリィに感謝である。こういうのもツーカーというのだろうか。

 ともかくギルドの了承は得た。


「市の方もそれでいいかしら?」


「えぇ、お願い致します」


 市の方からもOKがでた。これで下準備は完了だ。

 あとはきちんとダンジョンを攻略できればいいだけ。

 それがまた難しいのだが。


 残りの細かい決め事は市長とリリィにお任せだ。あくまでもルチアはちょっとした情報を持っているだけの一般人なのだから。


 そして次の日。

 冒険者ギルドにて、リリィからこのダンジョン探索での相棒となる人を紹介された。


「こちらはお話していた依頼人のルチアさんです。

 で、ルチアさん。こちらが市の方から派遣されたアルナスルさんです」


「アルナスル。ガンナーだ。レベルは21だが、実践経験は乏しい」


 第一印象は、仏頂面。

 ファンタジーらしく色とりどりな髪色をしているこちらの住人の中で、懐かしさを感じる黒髪。灰色の目が印象的だが、とにかく愛想がなかった。年齢的は前の世界のルチアと同じくらいだろうか。こちらの人間は総じて美形が多く、年齢が読みづらい。

 だが、年齢がわからなかろうが愛想がなかろうが、ルチアとしては仕事をしてくれればそれでいい。


「実践経験が乏しい、とは?」


「この都市で実践経験豊富な方が珍しいですよ。その中で21レベルというのはかなり高い部類なんです」


 ルチアの疑問にリリィがフォローをいれてくれる。


「確かに…この辺りのフィールドモンスターでレベルあげるっていったらかなり倒しまくらなきゃだもんね。

 それじゃ、臨時パーティですがよろしくお願いします」


「あぁ」


 一応ルチアが依頼主という形をとっているが、報酬の件はいらないと断られた。ダンジョンが有用なものか確かめられればそれでいいのだとか。

 しかし、まさか無報酬とも言えないのでダンジョン内で得たドロップ品は山分けする、というところで決着がついた。


(欲のない人…なのかしら? ちょっと不思議よね)


 そんなことを思いつつも、ルチアは臨時パーティを組んでダンジョンに再チャレンジするのだった。



閲覧ありがとうございます。

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