27念願の転職
「やっと…やっとだわ…」
思えば随分と遠回りしたものだ。
普通に転職をしようと思ったら断られたところが始まり。
転職させてもいいだろうという実績を積むための狩りをしたり、街の子供たちに戦闘指南をしたり。生産をしたり、祈りの有用性を広めたり、挙げ句の果てにはレベル10は離れているマップへの特攻。
本当に長い道のりだった。
しかし、ルチアはやり遂げたのだ。
「ねんがんの 二次職に なった!」
市長の根回しのお陰もあり、スムーズに二次転職になれた。
本来であれば一次転職のときと同じように、モンスターを倒してこなければならなのだが、ギルドから討伐履歴を渡しておいてくれたらしい。それで、二次転職しても大丈夫なくらいの強さがあると証明され、無事転職の許可が出たとか。
ゲームのときは気にも止めていなかったが、転職するのに回りくどくしているのは弱い人が無理をしないためだそうだ。子供たちの戦闘禁止と同じ理屈らしい。
もしかしたら、この世界で生まれ育った人は上限レベルがあるのかもしれない。ゲームから生まれたこの世界の辻褄合わせがあちこちで行われているような、そんな雰囲気だ。
その辺りの疑問はあるにはあるが、それは置いておいて。
ルチアは無事転職を果たしたのである。
魔法の二次職。
選択肢は回復系へ進むか、それとも攻撃系へ進むかだがルチアは予定していた通り回復系へ進んだ。
これで戦略の幅が広がるというもの。
早速スキルを取得する。
「今回結構レベル先にあげちゃってたからかなり色々とれるわね…まずはバリアは必須よね。あとヒールも最大限とって…」
回復職は回復の他に味方を援護する様々な支援魔法がある。
まだ先の話だが、三次職にもなると味方の支援に特化するか、攻撃もできる万能型になるかを選ぶことができるのだ。
「まぁほぼソロ確定だから万能型の方に進むしかないんだけどさ」
万能型はなんでも出来る反面器用貧乏になりやすいので、そこだけは注意しなければならない。
「さーて、では新スキルの試し打ちといきますか。新スキルがあれば今までやってなかったレベルのモンスターにも挑めるかも。
何よりダンジョンだよね!
予定より随分遅れちゃったけど」
この世界のダンジョンは、モンスターがドロップする鍵で侵入するシステムになっている。ギルドではその鍵は今までゴミとして扱われていた。
しかし、ルチアは今までの功績に免じてこっそりと保管してもらっている。それもこれもリリィのおかげである。
「今日の予定は戦闘実験で決まりね」
新しい魔法を覚えられたことで気分が結構高揚している。
やはり、前世で使えなかった魔法が使えるようになるということは嬉しい。
だが、そんなルンルン気分は長くは続かなかった。
「あー! ねーちゃん見つけた!」
「見つけた!! ほかく!!」
「へっ!? あ、ちょ、何ー!?」
スキル構成を考えていると突然後ろから突撃を食らう。町中で襲われることはないだろうと油断していたせいだろうか。
「ライ! ガイ! 突撃しちゃだめでしょ!」
「あ、ユーリちゃんに双子じゃないですか」
「いい加減名前を覚えろ! 失礼だぞ!」
「そうだそうだー!」
そっくりな顔の双子がまっとうな抗議をしてくるが笑ってごまかす。もともと人の顔を覚えられないルチアにとって、彼らの顔は本当に見分けがつかない。あちらの世界であれば美形双子アイドルになれそうなキレイな作りをしすぎていて逆に特徴がなさすぎるのだ。
「それより、三人そろってどうしたの?」
「あ、はい。
あの、子供の戦闘に関する法律が変わったのってルチアさんもご存じですよね?」
「あれ? もう変わったんですね。仕事はやいなぁ」
市長と話したのは昨日の午前のことだったのだが、もう法律を変えてお触れまで出したそうだ。こんな早さで仕事が進む市役所のトップになるとか、やはりルチアには無理だ。きままにのんびり狩りと観光をしたい。
「手放しでオッケーってわけでもないんですけども…。
あの、それでですね。私たちの転職の見守りをしてほしくって」
「転職の見守り?」
詳しく話を聞くと、子供の一次転職にはそれなりに厳しい条件がつくらしい。確かに子供の保護を考えれば当然のことだ。
まずは保護者の許可。正式な書類を作って神殿とギルドに提出するらしい。
それから、本人の誓約書。この世界の成人と見なされる15歳になるまでは自分のレベルよりも低い相手としか戦わない、とか、強いモンスターが多い地域にはいかないという内容。この内容だと中央都市エイリスに隣接している2エリア分くらいしかいけないだろう。まぁ、妥当な処置。
それから、この法律はまだ暫定的なので、時勢に合わせて変えることがあるがその都度了承することという同意書。
他にもドロップ品の取り決めやらがあり、お触れが出てから書類を集めるために駆け回ったんだそうだ。
「いや、逆に一日でよくこの書類とか集めましたね…」
「大変だったんだぞ!」
「むずかしい漢字ばっかつかっちゃてさー」
「あんたたちがきちんと勉強しないから悪いんじゃない。いっつも逃げ回ってるからツケがくるのよ」
ぶーぶー文句を言う双子を嗜めながらユーリがルチアに向き直った。
「で、ですね。
私たちが転職するには、色々準備することが多いんですが。その中でも転職するにあたって戦闘許可証っていうのがあって」
「そんなのまであるのね…」
率直に大変そうだ。しかし、段々と話の流れが読めてきた。
「その戦闘許可証っていうのは、二次職以上の方から『こいつは戦えるぞ』っていう証明をもらわないとなんです。
で、今この都市にいて私たちが戦えることを証明してくれる人というとルチアさんしか思い浮かばなくって」
「どうせルチアはさっさと二次になっちゃったんだろーうらぎりものー」
「おとなずるいぞー」
「あんたたちは戦闘許可証もらえたとしても今のままじゃ筆記で落ちるわよ」
「えっ筆記まであるんだ…。いや、ある意味当然かもだけど」
読み書きや四則計算程度はできなければ、依頼を受けることも難しい。ある程度の常識は知っていた方がいいだろう。
四則計算などはともかく、ルチア自信もこの世界生まれでないため常識などの部分はかなりあやしい。ギルドでそういった講座をやってくれればいいのだが、人員が補充されない限りは難しいだろう。
「まぁそんなわけで許可をもらえたらなーと思って探してたんです」
「なるほど。三人とも今レベルは…4か」
カチリ、とクリックするつもりで三人を見ると、レベルが見える。
「えっなんでわかるんだ!?」
「レベルあがったんだぜって自慢しようと思ってたのにー!」
「あ~…まぁそのくらいにはなっているかな、と」
「ほら、ルチアさんにはお見通しなんだってば」
どうやら、この世界の人間には相手の職業やレベルは見えないらしい。クリックするような~というゲーム的感覚がないのだから仕方のないことかもしれないが。
とりあえずその場は誤魔化して、三人の実力を見に街の外へ向かうことにした。
ちょっと予定が増えたが、これはこれで悪くない。
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二章に入りました。今後とも応援よろしくお願いします。




