26 後始末
「しかし、今回の君に功績には様々な恩賞が与えられてしかるべきなのだ」
市長はどうしてもと食い下がる。
ルチア自身は権力などにはさほど興味がない。
きちんと転職させてくれれば十分なのだが。
「んーまぁ公にしたくない部分多いですからねぇ」
例えば、召喚の輝石のこと。
そもそも町中にモンスター現れた方法を世に知らしめること自体好ましくはない。ゲーム時代はそれはもう愉快犯が大量に現れた。それと同じことがないとは言えない。
それに、そんな危険なモノを市長自ら使ったとあっては市民の不信感も半端じゃないだろう。
「召喚の輝石のことを公にしないとなると、恩賞が与えられるようなことなんてしてないじゃないですか」
「いや。君を遠ざける名目ということで子供たちへの戦闘指導をあげたが、あれはかなり有用なことに思えた。
何より市民からの意見要望が多かったからな。
他にも祈りの有用性の再発見や、物流の滞っていた都市への貢献など、恩賞に値する貢献は十分にしていると考えられる」
「はぁ…うーん、確かにその辺りは頑張りましたけども…」
頑張ったご褒美に何かを貰うというのは嬉しいが、その何かが問題なような気がする。一体何をくれるというのだろう。
「まずは何よりも金なのだが…30万sくらいで勘弁してもらいたい。これから街の建物の修理など色々入り用でな…」
30万sと言えば普通に慎ましく暮らしていれば1年以上働かずともよくなる金額だ。ただし、それはこの街に限ったことだが。ゲームでよくある現象ではあるが、先の街に進むほど経費がかさむのである。
「大金なので十分ありがたいですよ。
あ、あと転職もさせてください。できれば私だけじゃなく適正レベルになった人全て。未成年であれば多少の配慮はあってもいいかもしれないですが…」
「もちろん。子供の転職に関しては少々議論するべき点もあるが、君については文句なしに。
それから、だな。
これはこちらの要望なのだが…適当に名誉職というのを作っておくので、アドバイスを貰えないだろうか」
「あー…女神様のあれこれとかそういう」
「まぁ、そういうことだな。もちろん君の意見にも期待しているが」
テルースが何処までをこの人物に伝えたかは知らない。詳しくは聞いていないが、テルースはゲームの世界の人間にハッキリと意思を伝えられないような制約が加えられているらしい。今わかっていることは、意思疎通がきちんと出来るのは現時点でルチアだけということだ。
「えーとなんか制約とか、義務とか、あるんですかね。その名誉職とかについたら」
「特に考えてはいませんね。
ただ、出来れば定期的に顔を出す、あるいは連絡をいただければ嬉しいですが」
「ふむふむ。まぁそのくらいなら」
気ままに観光をしたいルチアとしては、定期連絡程度であれば問題はない。カメラがあれば旅先の風景と一緒に現在地を知らせるのも旅っぽくて良さそうだ。
モチロン、そういったものはゲームでは実装されていたがこちらではない。商業都市にカメラに類するモノがあれば面白いのだが、今はまだ何もわかっていない段階だ。
とりあえずの拠点として、中央都市エイリスは申し分ない。
ゲーム内でも、なんだかんだといってここが拠点の人が多かったのだ。
「ありがとうございます。ではその方向で話をまとめます」
「わかったわ。
あ、あと、もしかしたら私の方からちょっとした提案があるかもしれないけれど、そのときは受付の人にでも言えばいいかしら？」
この都市の現状で一番まずいのは冒険者がいないことだ。
そのせいで物流が滞り、リリィの目に生気がなくなりクマがうまれた。
もちろん、子供たちが戦闘することが法律違反にはならなくなったためある程度は補充することが可能になった。しかし、それだけでは足りない。少し危険な地域もあるため、そこに子供たちを行かせるわけにはいかないからだ。
そうなるとやはり冒険者が来てくれることが鍵になる。
「もちろん、ルチアさんの意見は大歓迎ですよ。我々とは違う観点で物事を見ている方のようですからな。
では、受付の方にそう伝えておきます」
「あはは…ありがとう。じゃあ色々わかり次第連絡しますね」
違う観点というか、ゲーム観点というか。
その辺りはお茶を濁して笑っておく。
こうしてルチアは、中央都市エイリスにていつのまにか一目置かれるような立場になった。
・中央都市エイリス名誉役職（いつでも市長に面会できる権利）
・子供たち（希望があれば大人も）への戦闘指南役
これがこの後どう影響するかは、ルチア自身は気付いていない。
ただ、今回のことで祈る人間は増えた。
それは、この世界にとってきっと良いことだろう。
「さて、本格的に観光するぞー！」
やるべきことはまだまだあるが、それはそれとしてもう少しだけ自由に生きられそうな予感がした。
閲覧ありがとうございます。
これにて一章完結です。これからもお話は続きますが、これにて一区切り。
次章からは新キャラも登場予定です。お楽しみに！
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