24 中央都市エイリスの危機
テルースに送られて、商業都市ドルマスへ。
目当ての商業施設に飛び込み、手紙を届ける。何の手紙かは守秘義務があってわかりません、と言うやいなや店の外へ飛び出ていった。
緊急時なのでアレな対応なのは目を瞑って欲しい。この都市が眠らない商業都市で本当に良かった。他の都市なら店が開くまで待機してなければならなかった。
急いで帰巣の羽を取り出す。
「こんな緊迫した場面じゃなければワクワクできるのにーー!」
初めて使う「これぞ、王道ファンタジーの転移アイテム」という場面なのだが、楽しむ暇がない。
せっかく転生したのだから、のんびりと観光しつつ祈りの布教をするつもりだったのにこのザマだ。
「どこにいったの私の理想の観光&スローライフ…」
適度に働いて適度に観光する予定だったのに。
スマホがないから写メはとれないけど、テルースに力が戻ったらスクショ機能とかできないか聞いてみるつもりだったのに。
しかし、そう嘆いていても事態は好転しないのだ。
社畜時代よりは、やりたいことをやっている自覚はある。それにこれさえ乗り越えれば理想とするスローライフ@観光付きが出来る、はずだ。
「私は私にできることをやる…頑張るよ、アトリア、テルース」
グッと拳を握って気合いをいれる。
出来れば市長が早まったことをしていないように祈りながら。
●●●●●
中央都市エイリスの正面門前。
羽を握りしめると、一瞬の浮遊感のあとここまできていた。空間転移とはこういう感覚なのか、と感慨に耽る間もなく轟音が響いた。
「あーもうやっちゃってるのね!」
音がしたのは都市の中央部分。
民間人は少ないが神殿や市役所がある方向だ。
そちらに向かって全力で駆ける。
「ここからでも姿が見えるボスモンスター…巨人系の侵略者かな? 召喚されたやつ…」
これだけではどのレベル帯のものかはわからないが、それぞれの種族の特徴を思い浮かべることはできる。
「多分魔法による範囲攻撃がないタイプよね。輝石の残骸探す上では好都合かしら。
目に入らなければ攻撃されないだろうから隙見てコソコソ動くしか…」
どちらかというと脳筋的な敵で安心する。巨大な魔法使い系の敵を召喚されて範囲魔法をいつまでも使われていれば手も足も出ない。
「みなさん、家の中へ!
もしくは遠くの広場へ逃げてください!」
避難誘導の声が聞こえて、そちらに向かう。
声の主は普段門番をやっている男の人だった。何度も門を行き来するルチアとは既に顔見知りである。
「あ、ルチアちゃん! 逃げるんだ! 何故か町中にモンスターが現れた! あれは俺らの手でなんとか出来るやつじゃない」
「わかってるわ!
あのモンスターが現れた場所は中央エリアで間違いないわよね」
「よく知っているな、その通りだ。中央エリアの大広場あたりで…っておい! 危ないぞ! いくら君が優秀な冒険者だとしても…」
「ありがとう! でも、行かなくちゃいけないの!」
礼を言って、また走る。
今の状況をなんとかできるのはルチアしかいないのだ。
「…でっか。ゲームだとあんま思わなかったけどでっか…」
顔がある位置を見るためには思い切りのけぞらなければならない。そのくらいに大きな、ギガンテスと呼ばれる侵略者が広場に立っていた。
今は戦闘モードではないらしく、落ち着きなくウロウロしている。避難はなんとか完了しているようだった。
「この辺りはあんまり住宅とかないものね…召喚するならそのくらいは見越してるか。
この分だと市長を探した方がいいとは思うんだけど…生きてるかな」
ギガンテスの索敵範囲に注意しながら辺りを歩く。
建物の中から小声で「危ないぞ!」「あいつを刺激するな」という声が聞こえてくる。が、無視。
慎重に辺りを見回していると、倒れている人を発見した。
「っ…!!」
驚いて悲鳴を上げそうになるが、それをなんとか飲み込む。
そして、落ち着いてからヒールを詠唱した。まだまだレベルが低い回復魔法だが、ないよりはマシだろう。
何度もヒールをかけながら近寄ると、その人物が初老の男性であることに気付いた。そして、その手に握られていたのは…。
「これ、輝石の残骸!?
じゃあ、この人が市長なのね」
おそらくギガンテスを召喚した際に思い切り吹き飛ばされ、壁に激突でもしたのだろう。怪我の具合がわかるような特殊技能を持ち合わせていないルチアにこれ以上診断することはできなかった。
「死なれたら寝覚め悪いけど、ごめん、後回しで」
彼が手に持っている輝石の残骸をできるだけ集める。
そして、テルースにもらった封印珠を押しつけた。
ぼわ、と輝石と封印珠が光る。輝石が赤、封印珠が黄色の光。それらがぐるぐると混ざり合う様は、どこか神々しかった。
その光に見とれていると、ギガンテスの姿が薄くなっていく。
透過効果でも掛けられたようにその存在感を消していき、最後に赤い光の糸となってルチアの手元にやってきた。
光の糸は少し嫌がるような素振りを見せたが、最終的にはおとなしく輝石の中へと入っていった。
「ヒビ入ってる輝石…めっちゃ危なくない?」
ルチアの手元にはヒビの入った真っ赤な宝石が握られていた。
ともかくも、これで封印は出来たわけだ。
「やったよ、テルース…」
体中の力が抜ける。緊張の糸が切れたのだ。
このまま倒れ込んでしまいたい衝動に駆られるが、この事態の後始末はしなければならないだろう。
ルチア自身は全くやる気ないが。
未だに意識を戻さない市長に何度もヒールをかける。
転職していればこんな低級ヒールじゃなく、もっと強いモノをかけられたのに、という思いがないわけではない。
八つ当たりもこめて少し強めに市長の頬を叩いた。
「起きてください、市長。やること待ってますよ」
「う、あ…君は…。
いや、あの化け物はどうなった!? 街の被害は…」
「アレは封印しました。無茶なことしないでください、全く…」
「封印!? 馬鹿な、そんなことが出来るはずが…」
信じられないという顔をする市長に、ヒビだらけの輝石を見せる。ますます訳がわからないという顔になる市長に声をかけた。
「この通り、封印しました。
いくら信仰心が薄くなったからって、市長が街にモンスター呼び込んだらダメでしょう」
「なっ!? どうしてそれを…」
「私への質問はお仕事終わってからにしてください。
あなたはあなたのお仕事をどうぞ。
モンスターは女神の加護で封印されたーとか、封印するために無茶をしたから今後はもっと祈りの力が必要だーとか、とりあえず皆が祈ってくれる方向でよろしく」
市長として、今回の事態をきちんと収拾しなければならないだろう。街も未だ混乱状態にあるのだから、誰かが指揮をとらなければならない。
ヒビだらけの輝石を手渡して、ルチアは立ち上がった。
「ま、待ってくれ、君は…」
「ただの通りすがりの冒険者ですよ…。ってことにしておいてください。目立つのヤだし。
私はこれから誰かさんが仕向けた奉仕活動の任務報告しなきゃいけないんでぇ」
テルースにはよろしく、と言われたが、市長のせいで感じなくてもいい命の危機を何度も経験させられたのだ。このくらいのイヤミは許してもらいたい。
「あ、あと転職停止ほんと勘弁してくださいね。
それじゃ」
言いたいことだけ言って、ルチアは市長のもとを離れる。
骨が数本折れているかもしれないが、それはルチアでは治せないから仕方がない。
市長はといえば、これだけ言われればルチアが何者かわかったらしく、深く頭を下げてきた。
こうして、中央都市エイリスの危機は去ったのだった。
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