21 違反による奉仕活動
「すみません、すみませんルチアさん!」
「いや、リリィに謝られても…」
冒険者ギルド内部にて、ルチアはリリィに平謝りされている。
「こんなに活躍してくださってるのに、こんなことになって本当にごめんなさい」
ことの始まりは、ルチアが子供たちに戦い方を教えたことにある。これが、冒険者ギルドのお偉いさんの耳に入り、注意を受けたのだ。
何でも、体が出来上がっていない子供に戦闘をさせるのは法律に違反するとかなんとか。
正直言って『知らんがな』である。
「私もそんな法律知らなかったんですが…」
「うん、まぁうっかり法律踏み抜いた私が悪い、まではわかるんだけど…」
軽度の違反のため前科がつくとかはない、と言われている。今までの功績も大きいのかもしれない。だが…
「違反は違反だから、奉仕活動を命じる、ねぇ…。
しかもその内容が隣町にお手紙を届けるだけのお使いかぁ」
「正直、こんなの聞いたことないっていうのばかりで…」
困り果てた声をだすリリィ。
それはそうだろう。ギルドを通してきた正式な依頼だからリリィとしては「行け」という他ない。別にルチアは行くのは構わない。
だが、不審な点が多すぎる。
例えば今回のは親の希望で行われたものであり、ルチアは依頼を受けただけとか、そもそも法律を知らなかったとか情状酌量の余地が全くないのだ。親たちが出向いて抗議しても、その抗議を受け止めるのはリリィであり、本部まで苦情を届けるには定期便を待たねばならないという。
末端のリリィが尻拭いをしなければならないというブラック企業そのものの構図を見ていられなかったため、親御さんたちにはリリィを責めないでほしいと説得に回ったほどだ。
他にも、この奉仕任務の不自然なところがある。それは、ルチアのレベルに全く見あっていないことだ。
「いやぁ…このレベルで徒歩で行くのって下手したら死ぬわよね」
隣町に行く適正レベルは25である。一方ルチアのレベルは今やっと15になったところだ。しかも、転職を終えていない。
「そうですね。なので乗り合い馬車を使ってのんびりとという形になるかと…」
「…都市から遠ざけようとされてるのかしら?
途中で暗殺でもされるとかも考えられるけどさすがにねぇ…。
出来れば今ここから離れたくないのだけれど…」
実は、方々を回ってくれたお姉さまから連絡が入ったのだ。お姉さまはルチアの転職を後押しするのと、祈らなければ前線が崩壊するかもしれないということを触れ回ってくれたのだ。
その結果少しではあるが、協力してくれる人も出たとか。もちろん、話に信憑性がないとのことで保留という人もいたらしいが。
本題はそこではなく、そこからお姉さまが小耳に挟んだ話が問題だった。
お姉さま曰く、かなりの大粒の、しかし彫金には使えない宝石を市長がエイリスに運ぼうとしている、とのことだ。
この宝石にルチアは覚えがある。
召喚の輝石。
そう呼ばれるこの石は、色によってレベルが異なるものの、効果は同じだ。それは、街中でもボスモンスターを召喚できるというものだ。
かつてゲーム内ではこれを使った露天潰しテロが頻繁に起こり、運営が使える場所を制限したという曰く付きのものだ。
この世界で彫金に使えない宝石の言うのはさほど多くない。もし、召喚の輝石であれば、それを砕くことでランダムでボスモンスターを街中に召喚することが出来てしまう。ちなみに、その宝石を運ぶものには割れないよう十分注意するようにという指示が出ていたとか。
お姉さまは「落としたくらいで宝石が割れるはずないのにねぇ。まぁ傷が付いたら価値は下がるかもだけど」と言っていた。ゲームでこの宝石を使う場合には、キャラクターが地面に叩きつけるようなモーションをしていたことを覚えている。
最悪の予想が当たれば、この街にボスモンスターが現れてしまうことになる。
それなのに、街にいられないというのは不安だ。
そもそも、たった一人でボスモンスターを倒せるとは思えないが、それでもいないよりは遥かにマシだろう。
「宝石の到着と私の帰還、どっちが早いかな…」
乗り合い馬車で行けば完璧にアウトだ。では、走っていけば?
「まさか、ルチアさん乗り合い馬車に乗らない気ですか!?
それは無茶ですよ!」
「でも、このままだと確実に間に合わないのよ…。
あちらに着きさえすれば、羽で帰ってこられるはず」
「帰巣の羽ですか?
確かにルチアさんはここを拠点としてますから、帰巣の羽を使えば瞬時に帰ってこれるでしょうけども…」
レアドロップの帰巣の羽は、ゲームの終盤までずっと使われているアイテムだ。どんなに遠い場所、例えばインスタンスダンジョンであっても羽を使えば自分が拠点としている都市に帰ってこられる優れものだ。
「それでもやっぱり無茶ですよ!
5エリアくらい走り続けなきゃならないんですよ!?
しかも、そのうち4エリアはルチアさんよりも格上です」
「わかってるわ。
でも、予想が当たったらこの街が危ないの!」
通常の指名任務であれば、断ることも後回しにすることも出来る。しかし、ルチアは違反による奉仕任務なためその選択はできなかった。
「もし、万が一街中にでかいモンスターが現れたら絶対に家の中から出ないようにしてね?
私の予想通りなら一時間経てばそのモンスター消えるから」
「そんな…街中にモンスターなんて…」
信じられないようだが、ルチアの緊迫した表情を見ると冗談とも思えないようだ。どうすればいいかとオロオロしているリリィに、ルチアは強がって笑いかける。
「私の思い過ごしならいいのよ。じゃ、頑張って行ってくるわね」
「そんな、もうすぐ夜ですよ!? せめて朝まで待った方が…」
「夜の方が都合いいエリアもあるの。まずはそこまで急いで向かわないと…そこ以外は昼間の方が進みやすい、はず!」
今までの経験してきたエリアは、モンスターの強さの違いはあれど生息モンスターの特性はあまり変わっていない。特に、襲ってこないアクティブとノンアクティブの生息地域はまるで同じだった。
それであれば、勝機はある。
正直全くやりたくないが、やらないと後悔しそうなのだ。
「もしよかったらめっちゃ祈っといて! ほんの少しだけ回避出来る確率上がるはずだからさ!」
そう言ってルチアはギルドを後にした。
目指すは推奨レベルが10も上な隣町にである。
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